10年間にわたる100万ドルを賭けたインデックス・ファンドとヘッジファンドとの世紀の対決はバフェットの圧倒的な勝利に終わった。パッシブ投資こそ成功への道であることを「オマハの賢人」が証明したのだった。いまや投資の世界で隆盛を極めるインデックス・ファンドはいかにして生まれたのか。3回連載の最終回。『TRILLIONS(トリリオンズ) [物語]インデックス・ファンド革命』(ロビン・ウィグルスワース著/貫井佳子訳)から抜粋。

第1回 「バフェットのインデックス投資をめぐる100万ドルの賭け」
第2回 「バフェットはなぜ賭けでインデックス・ファンドを選んだのか」

 バークシャーの株主総会のほんの数日前、サイディスは賭けに負けたことを正式に認めた。サイディス自身は数年前にプロテジェを辞めていたが、その代理として、終了まで8カ月を残した段階で敗北は避けられないと宣言した。

 ロング・ベッツのウェブサイトには、すでに勝ち誇ったようなコメントが寄せられていた。ある者はこう書き込んでいる。「ウォーレンがプロテジェをたたきのめしている……ハラハラドキドキの結末などない……インデックス・ファンドの勝利だ」。キャロル・ルーミスはフォーチュン誌記者としての60年に及ぶ輝かしいキャリアの終盤で、「バフェット、ヘッジファンドを焼け野原にする」というタイトルの記事を書いた。バンガード創業者のファンのためのオンライン・フォーラム、ボーグルヘッズのメンバーたちが浮かれたのも無理はない。そのうちの1人は、「パッシブ投資こそ成功の道だという、ジャックとボーグルヘッズがとっくにお見通しだったことをオマハの賢人が証明した」と快哉(かいさい)を叫んだ。

 結果は僅差ですらなかった。バンガード500インデックス・ファンドは、10年間で125.8パーセントのリターンを記録した。皮肉にも、それは40年前にボーグルが導入した当時、悲惨な失敗商品とみなされていたものだった。一方、5つのファンド・オブ・ファンズの平均リターンはわずか36.3パーセントにとどまった。実のところ、5つのファンド個々でみても、バンガードのファンドが連動するS&P500をアウトパフォームできたものは1つとしてなかった。

 2016年のバークシャー・ハサウェイの年次報告書の時点で、バフェットは勝ち誇ったような言葉をためらわずに発していた。「ここで留意すべきは、土台となるヘッジファンドを運用する100人超のマネジャーのそれぞれが、最善を尽くす見返りとして巨額の報酬を得ていたことです。そのうえ、テッドが選んだ5つのファンド・オブ・ファンズのマネジャーも、可能なかぎり最良のヘッジファンド・マネジャーを選ぶために、同様のインセンティブを与えられていました。選別したヘッジファンドの成績に応じて成功報酬を受け取る決まりになっていたのです。どちらの階層のマネジャーも誠実で頭の良い人ばかりだったに違いありません。しかし、彼らに資産を託した投資家にとって、結果は散々、まさに散々としか言いようのないものでした」。
 (略)

 バフェットの賭けは投資業界における、より大局的な変化を象徴している。ワシントン・ポストは、1970年代半ばには出現していたものの、まだ揺籃(ようらん)期にあったインデックス・ファンドを年金基金の運用先とするのを避けてきたようだが、今日ではこの種のファンドが投資業界のパイの大部分を食い尽くそうとしている。投資情報サービス大手のモーニングスターによると、2020年末までにインデックス・ファンドの運用資産総額は16兆ドル近くに達した模様だ。ただし、これはインデックス・ファンドと銘を打つファンドの数字であり、多くの大手年金制度や政府系投資ファンドでは、独自の大規模な指数連動型戦略を採用したり、通常のファンドの形態をとらずに同様の戦略を実践する投資グループに運用を委ねたりしている。

 世界最大の資産運用会社ブラックロックの推計によると、同社や同種の業者がパッシブ株式投資戦略に基づき内部で運用している資産の額は、2017年の時点で6.8兆ドルに達していた。公になっているインデックス・ファンド市場と同様の速度で成長していると仮定すると、いまや26兆ドルを超える資金が何らかの金融指数、たとえばS&P500(アメリカ株式市場)、ブルームバーグ米国総合指数(アメリカ債券市場)、JPモルガンEMBI指数(新興国債券市場)にただひたすら連動する形で運用されていることになる(これでも保守的な推計値と考えられる)。

 今日では、世界最大の株式ファンドも世界最大の債券ファンドもインデックス・ファンドである。世界最大規模の金価格連動型ファンドが保有する金塊は、驚くべきことに1100トンと、大半の中央銀行の保有量を上回っている。これはフォート・ノックス〔訳注:ケンタッキー州にあるアメリカの金塊貯蔵所〕が保管する金塊全体の4分の1に相当する量だ。金融情報大手ブルームバーグは上場投資信託(ETF)と呼ばれるインデックス・ファンドの情報ポッドキャストを配信しているが、そのタイトルが「トリリオンズ(Trillions)」であることにも合点がいく。ヘッジファンド・マネジャーのボビー・アクセルロッドが主人公の金融サスペンス・ドラマ『ビリオンズ(Billions)』のタイトルをもじっているのだ。

 インデックス・ファンド隆盛の恩恵は直接的、間接的にほぼすべての人に及んでいる。2009年に連邦準備制度理事会(FRB)元議長のポール・ボルカーが、過去20年における有益な金融イノベーションはATM(現金自動支払機)だけだ、と皮肉ったのは有名な話である。過去50年に範囲を広げると、1970年初頭に誕生したインデックス・ファンドになるのではないか。アメリカではミューチュアル・ファンドの平均コストが過去20年で半減した。インデックス・ファンド市場が成長し、投資関連のあらゆる手数料への低下圧力が増大したことが主因である。

 この間にアメリカの純貯蓄額は数兆ドルに拡大し、投資のリターンは高報酬の金融業界のプロにではなく、貯蓄者の懐へ直接渡った。たとえば、8兆ドル規模のETF市場において、投資家が負担する年間コストの総額はだいたい150億ドルである。これは資産運用大手のフィデリティ・インベストメンツ1社の2020年の収入を大幅に下回っており、ヘッジファンド業界の利益総額のごく一部にすぎない規模だ(*1)

 歴史的に金融業界は、主流の商品よりも懐を潤すことのできる新商品の発明を得意としてきた。インデックス・ファンドはこうした慣例に反する希少な例外だ。あらゆるところで持てる者と持たざる者との格差が広がっている時代に、金融業界の背教者あるいは異端者と自称する者たちの発明が、最初は大不評でも、その後数十年間にわたって状況の改善をもたらしうる、という話には心を打たれる。
 (略)

 バフェットが公の場で、サイディスとの賭けに用いたS&P500インデックス・ファンドの創造主であるボーグルをたたえたのは、当然とも言える行為だった。ボーグルは投資業界の巨人であり、おそらく誰よりもインデックス・ファンドの布教と普及に尽力した風雲児であった。インデックス・ファンド市場拡大の大半は、投資業界で広く冷笑、愚弄、軽蔑されるなか、自分たちの信条のためにボーグルが発揮した救世主のような熱情あってのものだったと言える。

 とはいえボーグルは、やがて金融業界を刷新するにいたった革命における唯一の熱狂的な主導者ではなかった。インデックス・ファンドの大義を誰よりも率先して説いたかもしれないが、知見面での土台を築いたわけでも、仕組みを発明したわけでも、今日の状態へと続くその後の進化の道筋を作ったわけでもなかった。

 わたしはインデックス・ファンドについて、専門用語や機構的な仕組みに関する徹底解説を避け、個人に焦点を合わせたストーリーや物語的な迫力を重視した「サルでもわかる入門書」を書くつもりはなかった。書きたかったのは、読者がインデックス・ファンドのめざましい興隆を正しく評価し、より広い投資の歴史の中でどのような位置づけにあるのかを理解するうえで、そしてわれわれが今どこに向かっているのかを知るうえで手助けとなるものである。

 パッシブ投資の発明と拡大を後押ししてきた人々は(その多くは怠惰なイメージがともなう「パッシブ」という呼び方を嫌っているが)、才気煥発(さいきかんぱつ)で魅力にあふれており、多くの場合、気前のよいことに自分たちの時間を本当に惜しみなく使ってきた。記憶は薄れていくものだし、諸説ひしめくなかで、1つの明解で正確なナラティブにまとめるのは一筋縄ではいかないこともある。

 だが、わたしとしては、自分が伝えたかったストーリーの重要性を十分に感じてもらえるような本が書けたのではないかと思っている。

 これはベル・エポックのパリでまかれた種がもたらした革命である。その種がまず自由奔放なサンフランシスコで収穫され、それからウォール街の金融エンジニアたちによって世界を制覇するような発明へと姿を変えた。そこに登場する人物は、元農業従事者のコンピューター・マニア、アマチュア・ジャズ・ミュージシャン、元神学生、学者崩れ、温厚な音響物理学者、CEOに出世したカリスマ秘書、金融業界の巨人、さらには(特別出演程度ではあるが)映画『ターミネーター』の主演俳優まで、実に多彩だ。これらの人々は巨大な障壁や一般大衆の無関心、そして多くの場合、傲慢な投資業界の主流派全般からの冷笑に直面した。だが、驚異的というよりほかのない功績を残したのである。

*1 Justin Baer, “Fidelity Reports Record Operating Profit, Revenue,” Wall Street Journal, March 3, 2020.

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サムネイルの写真:Taslima/stock.adobe.com

パッシブ投資を王道に導いたギークたち

従来の常識を覆し、ウォール街の蔑視に耐えてインデックス・ファンド革命を起こし、投資の世界に創造的破壊を巻き起こした異端者たちの驚くべき実話をフィナンシャル・タイムズ紙の記者が描いたノンフィクション大作。

ロビン・ウィグルスワース著/貫井佳子訳/日本経済新聞出版/定価3080円(税込み)