どうしてあの人は空気が読めないのだろうか、と思ったことはありませんか。あるいは「もしかして、自分は空気が読めてないのかな?」と焦った場面などはありませんか。空気が読めない人は、そこで交わされる表面的な言葉しか聞いていないのかもしれません。本当に「聞く」ためには、その場の言葉以外のニュアンスも聞き取ることが大切です。そして、そのニュアンスを聞くのに大切なのは、何よりもその場にいる相手に対して「興味」を抱くことです。本稿では、「空気が読めていない」状況では具体的に何が起こっているのか、読めるようになるには何をすべきなのかについて、『 LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる 』より、一部抜粋、編集し紹介します。
空気が読める人とは、言葉になっていない意味に気づける人
空気が読める人は、言葉に注意を払うだけでなく、そこに隠された意味に気づいたり、声のトーンの微妙な変化を察知したりするのに長(た)けています。
人の力関係に気づくのが得意だったり、うわべだけの好意もすぐに見抜けたりします。会話が好きだったり、少なくとも興味を持っていたりするタイプで、人が話したこともよく覚えています。「会話の感受性」が高い人です。
この会話の感受性とは、共感の前段階だと考えられています。共感を持つためには、自分がこれまで経験した関わりの中で抱いたり学んだりした感情を思い出し、それを現在に適用する必要がありますよね。〈中略〉また、さまざまな経験にオープンであり、反対の意見にも対処できる能力も必要になります。
多くの人の話を聞いた経験がないと、会話に出てくる微細なシグナルにうまく気づくこともできません。直感や第六感と呼ばれるものは、実は気づく力でしかない、と言われます。
多くの人の話を聞けば聞くほど、人間が持つ多様な側面に気づくようになり、直感も冴(さ)えるようになります。これは、いかに幅広い意見、態度、信念、感情に触れるかによって決まる、実践的なスキルです。空気が読めない人は、この気づく力が劣っている人のことです。
友人が「クビになった」と言ってきたら、何と声をかけますか?
たとえば、友達がたった今、会社をクビになったと言ってきたとしましょう。彼は、こう続けます。「上司はいまいちだったし、通勤もきつかったし、別にいいんだけどね。今日も、会社まで20マイル(32キロ)くらいの距離を車で1時間半もかかったんだよ。いつも遅くまで帰れなくて、夕飯は奥さんと子どもが先に食べているから、自分は台所で立ったまますませてたんだ」
そして、クビになったことを家族にどう伝えればいいかわからないんだ、と言いながら、彼は言葉を詰まらせます。それはそうと、と彼は咳(せき)払いをしてから続けます。休みをとってメキシコで思いっきり釣りをする予定だったけど、たぶんキャンセルしなきゃいけないよね、と。
この男性をどれだけよく知っているかや状況にもよりますが、「辞めさせられちゃったの、残念だね」とか「すぐに新しい仕事が見つかるよ」といった反応は、ありきたりですし、そっけない感じがします。「あんなつまらない仕事、辞めて正解だよ」もまた的外れです。
さらに、「たかがそんなこと!? 私がクビになったときなんてね……」は、自分の話にすり替えてしまっています。これは空気を読めてないと言われても仕方ないかもしれません。しかし優れた聞き手なら、男性が声を詰まらせたのに気づき、何に悩んでいるのかを敏感に感じ取り、たとえばこのような言葉をかけるのではないでしょうか。
「それで、家族に話さないといけないんでしょう? つらいね。家族はどんな反応をするだろうか。あなたはどう思っているの?」
「よい聞き手」は、話し手と同じ感情になって聞ける人
ミシシッピ大学で統合マーケティング・コミュニケーションを教えるグレアム・ボディ教授が行った研究では、聞き手がうなずいたり、オウム返ししたり、別の言葉に言いかえたりするよりも、意味づけと解釈を伝えた方が、話し手は理解してもらえたと感じることがわかりました。傾聴とは受け身であると考えがちですが、それに反し「聴くこと」には、解釈する力と、話し手・聞き手の相互の働きかけが必要であることをボディの研究は明らかにしました。
あなたの飼い犬だって、「聞く」ことはできます。Siriやアレクサだって「聞く」ことができます。でも、飼い犬やSiri、アレクサに話しかけても、思いやりに満ちた、心のこもった反応をしてはくれず、結局は満たされない気持ちになるでしょう。
思いやりに満ちた反応こそが、優れた聞き手の条件です。
「自分がなぜその話を相手にしているのか、自分にとってそれがどういう意味を持つのか。人は、それを相手に理解してもらいたいのです。話の細かいところを知ってもらうことはそこまで重要ではありません」とボディは言います。
問題は、ほとんど誰もそれができていないということです。ボディらの研究で一貫して示されており、研究データでは、聞き手の反応が話し手の感情と合致しているケースは5パーセント以下。飼い犬の方がよっぽどよい聞き役になってくれそうです。

相手が自分でもわかっていないことを引き出すのが聞き上手
さきほどの例でいちばん重要なのは、友達がクビになったということではなく、クビになった事実が友達の感情にどう影響しているかです。「聴くこと」の核心は、「何が重要か」を探り当てることです。この例のように、相手が周辺情報(通勤や釣り旅行、奥さんに関する細々とした点)をごちゃまぜに話してくるときは、特に気をつけなければなりません。
あなたはいわば探偵のように、「この人はなぜこの話を私に聞かせているのだろう?」と常に自問しながら聞いてみてください。話し手は、必ずしも自分で答えをわかっていないことがあります。優れた聞き手は、それを承知の上で質問を投げかけ、もう少し詳しく話すよう働きかけることで、話し手が答えを自分で気づくように手助けします。
聞き手がかけた言葉に対して、話し手が「まさにそのとおり!」「わかってくれるのね!」と返してくれたら、うまく聴けたと言えるでしょう。〈中略〉
人は感情に支配されており、冷静な論理よりも、嫉妬やプライド、恥、欲、恐れ、虚栄心に突き動かされて行動する方が多いということを覚えておくと、世の中は理解しやすくなります。私たちが行動したり反応したりするのは、何かを感じるからです。これを考慮せずに、うわべだけしか聞かないとか、まったく聞かないのは、生き方として少し損をしているかもしれません。
もし人がシンプルで何も感じていないように見えるのであれば、それは単に、あなたが相手をよく知らないだけの話ではないでしょうか。モルガン財閥の創始者であるジョン・ピアポント・モルガンはこう言いました。
「人の行動には必ずふたつの理由がある。正しい理由と、本音の理由だ」
「聴くこと」は、人の考え方や動機を理解するのに役立ちます。それは、互いに助け合う有意義な人間関係づくりにも、避けるべき人間関係の判断にも絶対に欠かすことはできません。
[日経ビジネス電子版 2021年8月13日付の記事を転載]
「自分の話をしっかり聞いてもらえた」体験を思い出してみてください。
それはいつでしたか? 聞いてくれた人は誰だったでしょうか? 意外に少ないのではないかと思います。
他人の話は、「面倒で退屈なもの」です。どうでもいい話をする人や、たくさんしゃべる人など、考えただけでも対応が面倒です。その点、スマホで見られるSNSや記事は、どれだけ時間をかけるか自分で決められるし、面白くないものや嫌なものは、無視や削除ができます。しかし、無視や削除がどれほど大事でしょうか。
話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします。話をじっくり聞ける人間はもちろん信頼され、友情や愛情など、特別な関係を育みます。一方、「自分の話をしっかり聞いてもらった」ら、自分の中でも思いもよらなかった考えが出てくるかもしれません。どんな会話も、我慢という技術は必要です。しかし、それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。
ケイト・マーフィ(著)、篠田真貴子(監訳)、松丸さとみ(訳)、日経BP、2420円(税込み)