海外の人と関わると、新しい経験が多いので、行動の基準や習慣が分からない、空気を読めないことが多々あります。分からないから不安になるかもしれませんが、だからこそ、リクエストやチャレンジをする機会にもなります。本稿では、一橋大名誉教授の石倉洋子氏が世界のビジネスパーソンから得たヒントを、著書『 世界で活躍する人の小さな習慣 』(日経ビジネス人文庫)より一部抜粋、編集し紹介します。

海外では意外にリクエストがかなえられる!

 日本では、提供されているサービスが当たり前、常識と思われて、決まっていることが多いので、それからあえて違う行動をとろうという気にもならないかもしれません。でも、海外では一般的に自由度が日本より高いようなので、「ダメで元々」と頼んでみたり、聞いてみたりすることをおすすめします。

 たとえば、レストランのメニューに載っていないものでも「◯◯はできますか?」と聞いてみると、「できる」と言われることもよくあります。また、「山羊のチーズは嫌いなので、ほかのチーズに替えてほしい」「つけあわせのフレンチフライを別の野菜にできないか」などと頼むと、多くの場合、対応してくれます。コース料理のデザートも「甘いものでなくフルーツがほしい」とリクエストしてみると、変更してもらえることが多いのです。

 ニューヨークなどでは、量が多すぎて食べきれない料理の場合、持って帰りたいと頼むと大体の場合はお土産用にしてくれます(以前は「Doggy Bag」といわれていました。「犬用」という意味ですが、実は次の日に自分が食べるのです!)。

 飛行機の座席など事前に座席指定をしていても、チェックインカウンターで、もっと良い席(前方、座席の前のスペースが広いなど)はないかと聞くと、探してくれることがしばしばあります。もちろん変更できない時もありますが、何も聞かないと何も始まらないので、一応聞いてみる。実際、私は最近ニューヨークを往復したのですが、行き帰りとも良い席に替えてもらうことができました。求めないと何も始まらない、少なくとも自分の希望を伝えることが大事なのです。

石倉洋子氏(写真:石倉洋子氏提供)
石倉洋子氏(写真:石倉洋子氏提供)

 以前、こんなことがありました。事前に座席を指定していたのですが(ビジネスクラスの一番前の通路側で、私が好きな席)、チェックインをしようとしたところ、航空会社の人に「席を替わっていただけませんか」と聞かれたのです。どこに移るのか聞くと、同じ列の反対側(左ではなく、右側のビジネスクラス一番前の通路側)だったので、「いいですよ」と返事をしました。

 「ところで、なぜ?」と聞いたところ、「赤ちゃんをつれた乗客がいて、あなたが予約していた席の前に、赤ちゃんを寝かす台があるから(反対側にはついていない)」と言われました。「何だ、そういうことか」と思ったのですが、ついでに、「替えるなら、ファーストクラスに替えてくれてもいいのだけど(笑)」と言ってみました。ほんの冗談のつもりだったので、その時は、スタッフと笑っただけで終わり、すっかり忘れていました。

 しかし、ゲートに行ったら、ファーストクラスの搭乗券が待っていたのです!

 あれ! という感じで搭乗券を受け取り、「とりあえず言ってみるものだなあ」と実感したのでした。こんなことがよく起こるとは思えないのですが、気軽に冗談っぽく言ってみることが思いがけない幸運につながるかもしれません。長距離のフライトでは、さすがにファーストクラスのほうが格段に快適ですから。

相手のミスには我慢せず断固自分の権利を主張する

 一方、ちゃんと予約しておいたのに予約が入っていないと言われたり、ホテルなどで、頼んでいたよりも低クラス(景色が見えない、暗いなど)の部屋に通されたりすることもあります。そういう時は、断固自分の権利を主張しなくてはなりません。

 2014年の夏、カナダのバンクーバーで車を借りた時のことです。前もって予約しておいたのですが、カウンターに行ったら「そんな予約は入ってない」と言われました。予約確認の番号が入っているメールをプリントアウトしていたので、「ここにある!」と二、三度押し問答した結果、レンタカー会社のスタッフが間違っていて、コンピューターに記録があることがわかりました。自分の間違いなのに、相手は「しれっ」としていましたが、私は車が借りられればそれでよいので、さっと手続きを済ませて目的地に向かいました。

 長いフライトの後でかなり疲れていたので、イライラしたり腹が立ったりしましたが、そういう時はヒステリックになったり、どなったりしないで、クールに、しかし断固権利を主張するのがコツです。

 あとで別のレンタカー・オフィスでその話をしたら、車の台数が足りないので、そう言うこともある、そう言ってみてお客様の対応を見る(あわよくば車を貸さなくてよくなるように!)と聞きました。これにはかなり愕然(がくぜん)としましたが。

海外では通用しない「我慢」という美徳

 日本では、子どものときから「我慢」することを教えられます。もっと大きくなってから、とか、会社などでももっと経験を積んでからなど、知らず知らずのうちに「耐えること」「我慢すること」が美徳のように教えられているようです。「若いくせに生意気だ」「自分の仕事が終わっていても、上司が帰らないうちはオフィスにいなくてはならない」というのもひとつの「我慢」「耐える」という不文律にもとづいているようです。

 海外でも日本人は与(くみ)しやすいと思われているところがあるようで、予約したタイプの部屋より下のクラスの部屋に通されたり、グループのほかのメンバーより待遇が悪かったりすることもあるようです。そういう場合は、「正当に怒る」ことが大切だと私は思います。

 我慢を重ねて内にこもったその怒りがある時爆発して大事になるよりも、小さなことでも明らかに差別されたとか、正当な待遇を受けていない場合は、断固権利を主張することが必要です。怒る、権利を主張するのにはエネルギーが必要ですが、日本でよく見られる「我慢」「耐える」という美徳は海外では通用しないと考えておいたほうがいいです。

「ダメ元でいろいろ頼む」「ダメなものはダメと断る」

 相手の間違いらしいとわかっていても、英語で交渉しなくてはならないので、気が重い時も少なくありません。しかし、日本人や女性は与しやすいと思われていることもあり、また、一度そうした弱みを見せると、相手がどんどんつけあがって次々要求や難題をふっかけてくることもあるので、そこはしっかり自分の主張をすることが大切です。

 私がこうした交渉や喧嘩(けんか)をする場合は、十分に睡眠をとり、エネルギーレベルを高くしておいて、自信を持って自分の立場をクールに、しかし力強く主張します。それでももめる場合は、「いい加減にしてほしい、ばかばかしい、ひどい」などかなり強い言葉を使いますが(そうしないと私の気持ちが済まないので)、こちらの希望を通すことが目的なので、それを忘れないようにして「喧嘩」します。

 私の知る限り、ダメで元々(ダメ元)と思っていろいろ要望を出してくる人が海外では多いのですが、相手の主張がおかしい時はロジカルにおかしい、と指摘すると、あっという間に要望を取り下げることが多いです。このあたりは、希望を入れてもらえそうだと思った時だけ要望する日本とはだいぶ状況が違うように感じます。

 頼む側になったら、ダメ元でいろいろ聞いたり頼んだりしてみる、頼まれる側になったら、ダメなものはダメときちんと断る、というのがよいでしょう(実際、逆の対応をしている人をときどき見かけるので)。

 いずれの場合もカリカリしないで、余裕をもって事に当たるのがコツです。

海外では「ダメで元々」と頼んでみたり、聞いてみたりすると、リクエストがかなえられることも(写真:Antonio Guillem/Shutterstock)
海外では「ダメで元々」と頼んでみたり、聞いてみたりすると、リクエストがかなえられることも(写真:Antonio Guillem/Shutterstock)

日経ビジネス電子版 2021年9月6日付の記事を転載]

日経ビジネス人文庫『 世界で活躍する人の小さな習慣

世界のエリートから学ぶ「世界標準」の思考法

 「成果が出なければ、すっぱり見切る」「意識してつきあう人や場所を変える」「完璧は目指さない」――。数々の企業の社外取締役を務め、ダボス会議などで広く活躍する著者が、次世代のリーダーに向け、「世界標準」の働き方や考え方のコツを伝授します。

石倉洋子(著)/日本経済新聞出版/880円(税込み)