株式、債券、金などの資産別リターンを歴史的に比較すると、株式リターンの長期的な安定性は、社会に起こった劇的な変化にもかかわらず、持続している。インフレによって株式の実質リターンが低下することはなかった。株主の富を生み出す基本的な要素が劇的に変化しているにもかかわらず、株式リターンは驚異的な安定性を示している。『株式投資 第6版』第2章から抜粋してお届けする。

実質トータルリターン

 長期投資家にとって最大の関心事は、投資対象の購買力の伸び率だ。購買力とは、物価の上昇によって目減りした分を差し引いた後の金融資産の価値をいう。図1-1はドル建てリターンを物価水準の変化で補正(物価上昇分を除去)したものである。図の左上には、さまざまな資産クラスの年率換算の実質リターンを載せた。

図 1-1 株式と債券の実質トータルリターン指数(1802〜2021年)
図 1-1 株式と債券の実質トータルリターン指数(1802〜2021年)
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 1802年から2021年の株式の年率換算実質リターンは、インフレ調整後で年率6.9%である。このリターンは、私が1992年までのデータを用いて『株式投資』初版で報告した6.7%のリターンを0.2ポイント上回っている[注1]。

 このリターンは、実質GDPの成長率のほぼ2倍であることから、持続可能なものではないとする意見もあるが[注2]、これは誤りである。経済がまったく成長していなくても、労働にはプラスの賃金が、土地にはプラスの賃料が支払われるように、資本は希少資源であるため、その量が増えているかどうかにかかわらず、プラスのリターンを受け取ることができる。(先に述べたように)株式の実質トータルリターンはすべての配当とキャピタルゲインが市場に再投資されると仮定されており、この合計は株式の時価総額やGDPよりもはるかに速く成長する[注3]。

 表1-1は、さまざまな期間における米国株のリターンをまとめたものである。第I期から第Ⅲ期まで、すべての期間で株式の実質リターンが極めて安定していることに注意してほしい。第I期の1802~1870年は年率6.7%、第Ⅱ期の1871~1925年は年率6.6%、第Ⅲ期の1926~2021年は年率7.1%で、これは2022年前半の弱気相場を含めると6.76%に低下する。

表1-1 株式の期間ごとの年率リターン(単位:%)
表1-1 株式の期間ごとの年率リターン(単位:%)
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 第Ⅲ期の堅調な株式の実質リターンは特筆すべきである。米国が過去220年の間に経験したインフレは、ほぼすべて第二次世界大戦後に発生している。しかし、インフレによって株式の実質リターンが低下することはなかった。これは、株式が実物資産であり、長期的にはインフレ率と同じ速度で上昇するため、長期的な株式の実質リターンが物価水準の変動に悪影響を受けないためである。

 株式リターンの長期的な安定性は、過去2世紀の間、社会に起こった劇的な変化にもかかわらず、持続している。米国は農業経済から工業経済へ、そして今日のようなポスト工業、サービス、テクノロジー主体の経済へと進化した。世界は金本位制から管理通貨制に移行し、デジタル通貨を採用しようと試みている。かつては何週間もかけて国境を越えていた情報が、今では瞬時に伝達され、世界中に同時中継されるほどの変化を遂げた。しかし、このように株主の富を生み出す基本的な要素が劇的に変化しているにもかかわらず、株式リターンは驚異的な安定性を示しているのだ。

 しかし、株式リターンの長期的な安定性は、短期的な安定性を保証するものでは決してない。1982年から1999年までの米国史上最大の強気相場で、株式は、長期的リターンの約2倍の年率13.6%という驚異的な実質リターンを投資家に提供した。このすばらしいリターンが提供されたのは、株式リターンがインフレ率を0.4%下回る水準にあった悲惨な1966年から1981年までの15年間の後だった。それでも、この非常に強気な相場は株価を大きく押し上げ、2000年のITバブルの頂点では、市場のバリュエーションは記録的な高値水準に達した。その後3回の弱気相場があったものの、当時の高値からの株式の実質リターンは年平均5.2%で、債券の実質リターンを上回った。

株式リスクプレミアム

 株式リターンの債券リターンとの差を株式リスクプレミアム(ERP)という。1802年から2021年まで、ERP(年率複利)は長期債に対しては3.3%、短期債に対しては4.3%であった。2021年末以降、株式プレミアムはさらに上昇している。将来の株式リターンが従来の6.8%から4.8%に2%ポイント低下するならば、実質の債券リターンはそれ以上低下するということである。債券保有者にインフレ補償を約束する10年物TIPSの利回りは、2021年末にマイナス1%となり期待ERPが6%近くと1802年からの平均の約2倍になったことを示した。短期国債に対する期待ERPはさらに高くなっている。

 もちろん、株式のリターンが債券をどれだけ上回るかは、時間のみぞ知ることだろう。しかしながら、経済学者たちは、長期的な実質成長率と株価を考慮すると、なぜERPがこれほどまでに高いのかに頭を悩ませてきた[注4]。この債券よりも高い株式のリターンは、「株式プレミアムパズル」と呼ばれ、これまで何百もの学術論文がこの問題に対する答えを論じてきた。確かに、歴史に残るほどの景気後退もあったが、株式市場に見られるような変動を引き起こすほどの規模ではなかった。この現象は、1982年のロバート・シラー教授の画期的な研究に端を発し、「過剰ボラティリティパズル」と呼ばれる現象にもつながっている[注5]。(これについては第10章で詳述する。)

世界の株式と債券のリターン

 1994年に『株式投資』を出版したとき、米国のデータから導かれた私の結論は世界規模で測定された株式リターンを過大評価しているのではないか、という疑問を一部のエコノミストたちが呈した。彼らは、米国の株式リターンには「生存バイアス」があると主張した。このバイアスは、米国のような成功裏にある株式市場からのみリターンのデータが集められて、ロシアや中国のような株式が完全に失敗、もしくは消え去ってしまった国では無視されるという事実によって発生する[注6]。このバイアスは、過去200年間に、英国の小さな植民地から世界最大の経済大国へと変貌を遂げた米国の株式に固有のものであり、他国のリターンは米国よりも低いことを示唆している。

 この問いに触発された英国の3人の経済学者が、1900年以降の19カ国の株式と債券のリターンを調べた。ロンドンビジネススクールのエルロイ・ディムソン教授とポール・マーシュ教授、そしてロンドン株価データベースのディレクター、マイク・スタウントンは、2002年に彼らの研究を『証券市場の真実:101年間の目撃録(Triumph of the Optimists:101 Years of Global Investment Returns)』という著書で発表した[注7]。この本は、19カ国における金融市場のリターンについて、厳密かつ読み応えのある説明を提供している。

 この研究が使用したデータの最新版を図1-2に示す。これらの国の多くは、戦争やハイパーインフレーション、景気後退といった大きな打撃を受けたにもかかわらず、どの国でもインフレ調整後の株式リターンは大幅にプラスであった。イタリア、ベルギー、フランス、ドイツなど株式リターンが低かった国では、債券のリターンはさらに低く、どの国でも株式プレミアムが高かった。

図 1-2 各国の株式と債券の実質リターン(1900~2020年)
図 1-2 各国の株式と債券の実質リターン(1900~2020年)
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 図1-2は、対象21カ国の1900~2020年までの株式、長期債、短期債の平均実質リターンを示したものである。株式の実質リターンは、最低がオーストリアの0.9%で、最高が南アフリカの7.1%である。米国の株式リターンはかなり良いとはいえ、順位では第3位だ。世界の実質年率リターンは5.3%で、米国を1.3ポイント下回った。すべての国で株式リターンが債券リターンより高く、株式リターンが低い国は債券リターンも低かった。121年の全期間について、株式リスクプレミアム、すなわち株式と長期債のリターンの差は、米国では4.4ポイント、全市場で平均すると3.7ポイント、そして世界市場では3.2ポイントであった。

 すべての情報を分析した結果、彼らは初版でこう結論付けた。

株式が長期債や短期債を上回るという米国の経験は、調査した16カ国すべてで見られた。……いずれの国でも株式が債券を上回るパフォーマンスを達成している。101年間通してみても、株式のパフォーマンスが最悪だった年に、株式よりも良いリターンをもたらした長期債市場は2カ国だけ、短期債市場は1カ国だけであった。

 さらに続く。

米国と英国は確かに好調であった……しかしこの両国が他国と比較して大きく外れているという証拠はない。成功バイアスと生存バイアスへの懸念は正当なものではあるが、やや誇張されており、投資家は、米国に焦点を当てることによって重大な思い違いをするといったことはなかっただろう。[注8、注9]

 この引用の最後のコメントは重要だ。米国市場については、世界のどの国の市場よりも多くの研究がなされている。ディムソン、マーシュ、スタウントンの3人は、米国に関する分析結果はすべての国のすべての投資家に関連性があるといっているのである。彼らの著書のタイトル『Triumph of the Optimists』〔楽観主義者の勝利〕は、彼らの結論を示唆している。株式市場でポジションを取るのは悲観主義者ではなく楽観主義者であり、過去100年にわたって株式を買い続けてきた彼らは、より慎重な投資家よりも明らかに多くのリターンを手にしてきた。国際的な研究は、株式投資の意義を揺るがせたのではなく、逆に株式投資のほうが有利であることを証明したのである。

(写真:rocococon/stock.adobe.com)
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[注1]米国市場の長期的な実質リターンが6~7%というのは、アンドリュー・スミザーズとステファン・ライトの著書では「シーゲルの定数」と呼ばれている。Andrew Smithers and Stephen Wright, Valuing Wall Street: Protecting Wealth in Turbulent Markets, New York:McGraw-Hill, 2000.
[注2]Bill Gross, "The Death of the Cult of Equities," PIMCO newsletter(August 2012).
[注3]GDP成長率は、投資家が株式から得られる年間6.8%の長期実質リターンの約2分の1を消費することと整合的である。
[注4]株式プレミアムについては、次を参照。Jeremy Siegel and Richard Thaler, "The Equity Premium Puzzle," Journal of Economic Perspectives , 11, no.1(Winter1997), 191-200. 厳密で完全な分析は、John Y. Campbell, Financial Decision and Markets, Chapter 6, "Consumption Based Asset Pricing" に記載されている。
[注5]Robert Shiller, "Do Stock Prices Move Too Much to Be Justified by Subsequent Changes in Dividends?" American Economic Review 71(1981), 421–435.
[注6]Stephen J. Brown, William N. Goetzmann, and Stephen A. Ross, "Survival," Journal of Finance 50(1995), 853-873.
[注7]Elroy Dimson, Paul Marsh, and Michael Staunton, Triumph of the Optimists:101 Years of Global Investment Returns, Princeton, NJ: Princeton University Press, 2002.
[注8]Elroy Dimson, Paul Marsh, and Michael Staunton, Triumph of the Optimists:101 Years of Global Investment Returns, op. cit. 著者たちは出版後にさらに3カ国をリストに追加した。
[注9]実際に、Triumph of the Optimists は、長期の世界株式リターンを過小評価している可能性がある。彼らの研究が始まる1900年以前の30年間、米国の株式市場もデータのある他の国の市場も非常に好調であった。1871年から測定した米国の株式リターンは1900年から測定したリターンを大きく上回っている。英国株のデータもよく似たパターンを示している。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)

(「はじめに」より)約30年前に初版を出版して以来、『株式投資』が絶大な支持をいただいていることを光栄に思う。第6版では、ファクター投資、効率的市場仮説、バリュー投資の将来、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク、コロナ禍、インフレと金利の株価への影響に関する6つの章を追加し、これまでで最も大規模な改訂を行った。その他の章も大幅に拡充し、不動産のリターン分析、株式と債券の最適配分、世界一の価値を持つようになった企業の運命、ビットコインと暗号通貨の将来、ついているマネーマネジャーが市場に勝ち続けたかどうかの分析などを初めて掲載した。

ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ(著)、林康史、藤野隆太(監訳)、石川由美子、鍋井理沙、宮川修子(翻訳)/日経BP/4180円(税込み)