私たちの幸福度を左右するのは、家族、パートナー、友人、同僚、そして何より自分自身との「つながりの質」です。身近な人間関係を良好に保つことができれば、あらゆる困難も乗り越えやすくなると英国の心理療法士フィリッパ・ペリーさんは説きます。今回は人生の節目で新たな一歩を踏み出すために必要な考え方について、シリーズ累計300万部のペリーさんの新刊『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(高山真由美訳/日本経済新聞出版)の抜粋・再構成をもとにご紹介します。
幼少期に身につけた考え方が邪魔することも
私たちはみな幼いころに、自分の環境に合った価値基準や適応能力を発達させます。そうやって人生の初期段階に身につけた独自のものの見方に沿って、人と接したり、決断を下したりするのですが、自分がそのように動いていることをたいていは意識すらしていません。
成長し、新たな人と出会い、社会でさまざまな経験をするにつれ、人生の初期に身につけた価値基準や適応方法が以前のようには機能しなくなり、昔の思考や行動のパターンから抜け出せずに行き詰まってしまうこともあります。
私が目指すのは、あなたが幼いころに身につけた価値基準や適応方法を理解し、今でも役に立っているものは何か、更新したほうがよいものは何かを自覚できるように、お手伝いすることです。ここで言う「自覚」とは、自分が地図上のどこにいるかを知ることです。
スタート地点が分からなければ、行きたい場所に向かう道筋も分かりません。外の世界に対していかに反応するか、いかに怒るか、他者のありようをいかに受けとめるか、自分のことをいかに説明するかを学ぶことはとても大事です。自分の行動をあるがままに自覚しなければ、何を変えるべきかが分からないからです。
初めて心理療法(セラピー)を受けに来る人は、必ずといっていいほど自分以外の人々の話をしたがります。そこで私はこうお話しするのです──「私たちには他人を変えることはできません。ただし、自分自身をコントロールする力があります」。
多くの人は自分がそういう力を持っていることを理解していませんが、私たちは自分の反応や行動を変えることができます。優先順位や価値基準、習慣的な対応を変えることができるのです。
もちろん、変化には時間がかかります。新しい習慣を身につけるにはある程度の期間を要します。しかし自らの人生に対して、自分で思うよりずっと大きな力を持っていることが分かれば、変わろうと試してみることができます。特に、自分の心をどこに向けるかは誰もが自分で決められます。たとえどんなに弱っていても、物事をどう考えるか、他人とどう関わるかを決めることはできるのです。
「なぜ?」より「どのように?」で考えてみよう
私たちはよく、自分に向かって間違った問いを投げかけます。いつだって「なぜ?」と自問してしまうのです。人は物事に意味を求める生き物であり、ストーリーを必要とするからです。「なぜあの人は私と別れたがったのだろう」「なぜうちの子は行儀が悪いのか」「なぜ私はこんなに不幸なのだろう」。感情がたかぶると「なぜ」という問いが必ず出てきます。私たちは物語や説明が大好きなのです。
しかし自分に向かって「なぜ」とたずねても、あまり役に立ちません。答えはたいてい「どのように」という問いの中にあるのです。私が知りたいのは、みなさんが「どのように」今の心境に至ったかです。みなさんがどのように大切な人とのつながりを築き、どのように議論し、どのように変化し、どのように満足を見いだすかに関心があるのです。
心理療法士という仕事を通して私が学んだのは、人はみな自分なりの方法で、自分なりに時間をかけて成長するということです。そして私たちには、ありのままの自分でいられる環境、どんな自分になれるかを試せる環境が必要です。誰かが(あるいは自分で)どんな人間になるべきかを言い聞かせてもあまりうまくいきません。私が相手に沿ったアプローチを目指すのもそのためです。
私の考えるよいアドバイスとは、相手が漠然と分かっていながらうまく言葉にできずにいた物事を、はっきり表現できるように手助けすることです。常に正しい人などどこにもいませんし、もちろん私自身も常に正しいわけではありません。もし、自分はどんなときも常に正しいと思っている人に出会ったら、警戒するべきです。なぜなら、「常に正しい人」は、周囲の人間を「常に間違っている人」に仕立てようとするからです。そういう人のそばにいるのは居心地のいいものではありません。
「弱さ」を自覚すれば強くなれる
最初に1つアドバイスをするなら、自己啓発分野の第一人者であるスーザン・ジェファーズ博士の言葉を借りて、みなさんにこうお伝えしようと思います。「あなたはそのままでいいのです。今のままで十分にパワフルで、愛すべき存在であり、日々学びと成長を続けています」。
つまり、ありのままの自分を受けとめればいいのです。もし、物事が自分の思い通りに進んでいて、それに気づいていないだけなら、どうやってその状況に至ったかを知ることが助けになるでしょう。
私たちは自らつらい状況をつくり出していることがあります。それは決して珍しいことではありません。私は毎週のようにこんな言葉を聞いています。「私は人間関係を築くのが下手なんです」「私は友人として最低です」「私はバカだから」「私は内気すぎるんです」…。
もうお分かりでしょう。自分自身をこんなふうにジャッジする必要はないのです。もちろん、人はみな間違いを犯します。けれども、その間違いと、間違いをした本人とは、イコールではありません。
人が間違いから学ぶのは、次の新しい間違いをするためです。私たちは自分の望むものや必要とするものを夢見て、その夢が実現すると、自分の考えの間違いに気づきます。そこでその間違いを正し、そこから学び、また別の決断をして、しばらくはそれでうまくいくのですが、やがてまた調整が必要になります。
人生が終わるまでその繰り返しで、私たちはさまざまな望みを持ちながら、試行錯誤を続けるのです。そんなときに自分の限界を決めつけたり、自分を裁いたり責めたりしても、何の役にも立ちません。
判断を保留することも、ときには必要です。私たちには多くの共通点があります。私たちはみな弱さを抱えた人間であり、見せかけだけの強さにこだわるよりも、弱さを自覚したほうが強くなれることを知るべきなのです。
フィリッパ・ペリー著/高山真由美訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)


