私たちの幸福度を左右するのは、家族、パートナー、友人、同僚、そして何より自分自身との「つながりの質」です。身近な人間関係を良好に保つことができれば、あらゆる困難も乗り越えやすくなると英国の心理療法士フィリッパ・ペリーさんは説きます。今回はシリーズ累計300万部のペリーさんの新刊『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(高山真由美訳/日本経済新聞出版)の抜粋・再構成をもとに、「人はなぜつながりを求めるのか」という問いに迫ります。
人は100%の自立などありえない
西欧社会では、人に頼らないことが大切だと考えられています。独力で会社を立ち上げた起業家や、いわゆる「自立した現代的な女性」の話をあらゆるところで耳にします。
しかし、100%の自立などありえないと私は考えます。私たちは生活のあらゆる面で他者に頼っています。作物を収穫して店に並べたり、水道水を供給したり、家を建てたりといったことをすべて自分でする人はいません。完全な自立などというものがあると考えるのは誤りなのです。
人はほかの動物とは異なり、未発達の状態で生まれ、最初に世話をしてくれる人とのあいだに関係を築きます。自我やアイデンティティー、ニーズ、性格などは、幼少期にどのように世話をしてもらったかによって決まります。
精神分析学者で小児科医でもあるドナルド・ウィニコットは、「“赤ん坊”などというものは存在しない。存在するのは“赤ん坊と母親”だ」と言っています。つまり、自分がより大きな世界の一部であると実感するためには、一生を通じてなんらかのつながりが必要なのです。たいていは人とのつながりですが、アイデア、もの、場所などとのつながりもありえます。
私のもとにセラピーを受けに来たクライアントについて思い返してみると、目の前の問題がなんであれ、悩みごとの根本はほとんどの場合、人間関係にあります。過去の人間関係が価値基準や自己像に影響を与えたり、他者との関係において行き詰まりの原因になったりしているのです。
他者とのつながりは私たちの人生で最も重要なことです。人が死ぬときによく口にするのは、「自分にとって人生で一番大事だったのは人とのつながりだ」という言葉です。たいていの場合、これは身近な他者との人間関係を指します。
人間は「承認」されたい生き物である
人間とは複雑な存在で、習慣や家庭内の力関係、使用する言語、何かをするときのやり方といった「文化」は人それぞれなので、人間関係はときに厄介なものになりえます。価値基準や他者との付き合い方は人によって異なります。あなたと周囲の人々との人間関係が円滑に機能する方法を見つけるのは非常に重要ですが、簡単なことではありません。
人とのつながりを感じることは、私たちが生きていくうえで欠かせない要素の1つです。人に限らず、アイデアやもの、環境とのつながりも必要です。私たちは自分が何かの一部であることを実感したいのです。
深い意味のある対話、バス停でのちょっとした世間話、本を読むこと、テレビを見ることなどから、私たちはそうした実感を得ています。スマートフォンを手放せないのもそのためです。スマートフォンから得られる、外の世界とつながっているような感覚によって、少量のドーパミン(人を「幸せにする」ホルモン)が分泌されるのです。
しかし、画面を通したつながりしか持たずにいると、だんだん憂鬱な気分になってくることがあります。私たちにはもっと直接的に人と影響を与え合うつながりが必要なのです。十分なつながりが持てないと、心の健康を害するおそれもあります。私たちは気分を上向きにしてくれる相手や、自己認識を補強してくれる相手を必要とします。
人とのつながりが重要なのは、周囲の人々が自分を映す鏡のような役割も果たしているからです。相手の反応が一種のチェックシステムとして働き、心の健康に必要なバランスをもたらしてくれるのです。
とはいえ、つながりに依存しすぎるのは危険でもあります。1つの比喩として、人間の体にたくさんのフックがついているところを想像してください。もしそのフックを1つも表に出していなければ、誰ともつながることができず、孤立して、孤独を感じることになります。
けれどもすべてのフックが出ていると、常に誰かしら、何かしらとつながることになり、1つひとつのつながりから意味や重要性が失われてしまいます。人から人、アイデアからアイデアへと常に飛び回っていると、個々のつながりを大切にするのが難しくなります。すべてとつながろうとすれば、結局は1つのつながりも得られないのです。
なぜバランスが何より大切なのか
注意力散漫で、1つの物事にうまく集中できない人に出会ったことは誰にでもあるでしょう。そういう人と接しているときは、自分に気持ちを集中してもらえていないように感じたはずです。これは躁(そう)病的行動と呼ばれる状態です。ときどき躁状態になるのはかまいません。それもまた、創造力を発揮する方法の1つだからです。しかし、長期的にその状態を持続させるのは不可能です。
ほかの多くの物事と同様に、人とのつながりにおいてもバランスが肝心です。自分の持つすべてのフックではなく、一部だけを出しておけば、大切に思う相手や興味のある事柄としっかりしたつながりを築くことができます。そうして余った時間は何か満足の得られる活動に回すか、新しい人々と知り合って、彼らの価値観が自分と合うかどうかをゆっくり吟味することもできます。
自分を前向きに受けとめてくれる人がまわりにいるのは素晴らしいことです。この人は自分を教え導こうとしてくれているのだ、この人は味方なのだと感じられる相手なら、何かに挑戦してみるように発破をかけられても、気分を害することはないでしょう。
人はどんな集団の中にいても――学校でも、職場でも、社会集団でも、大家族でも――自然と小さなグループをつくるものです。それ自体は良くも悪くもない、人としてごくふつうの行動です。誰か1人か2人と親しくなれば小グループができ、そうやって集団内で自分の居場所を見つけることでアイデンティティーや帰属意識が形成されます。
集団に働くこうした力学によって、周囲の人々を鏡として、自分がどんな人間であるかだけでなく、集団の外の人々と比べることで、自分がどんな人間ではないかも分かるのです。だからこそ、集団の一部であることは非常に重要であり、仲間外れになるとつらいのです。
フィリッパ・ペリー著/高山真由美訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)


