相手が聞きたいのは意見であり、言葉ではない。つまり、伝わる言葉を生み出すには自分の意見を育てるプロセスが重要で、その役割をも言葉が担っている。人は多くの場合、言葉で考え、言葉で答えを導き出そうとする。この表に出ない言葉を「内なる言葉」とすれば、発言や文章は「外に向かう言葉」である。これを磨くには、自分の考えを広げ深めるための内なる言葉の存在を意識することが不可欠なのである。トップコピーライターが人を動かす言葉の秘密を明かすベストセラー書籍『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。
まずは意見を育てる
「梅田さんはどうやって伝わる言葉を生み出しているんですか?」
コピーライターを生業とするためか、よくこうした質問を受けるのだが、注意深く聞いてみると、多くの人が言葉に関する悩みを抱えていることに気づく。どんな悩みなのか。
- 悩み1 会話がうまくできない、思いが伝わらない
- 悩み2 メールがうまく書けない
- 悩み3 SNS(交流サイト)で「いいね」がほしい
相手に響く言葉を生み出したい――多くの人がそう思っているだろう。実際、私も、人の心に響く言葉を生み出せずにいた時期が長く続いた。藁(わら)にも縋(すが)る思いでスキル本を読み漁った時期もあった。しかし、実践で役立たせることはほとんどできなかった。
その理由として、著者と同じ経験をしていない第三者が神髄までを理解することは難しい、提示される技術を「型」として理解してしまうためその型に縛られてしまう、といったことが分かった。
これに気づいてからは、スキルを磨き言葉力を上達させるという幻想を持つことはやめた。その代わり「そもそも言葉とは何か?」という本質的な課題に向き合うようになった。そして、1つのシンプルな結論に達した。
「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」
この結論に達してからというもの、「相手が聞きたいのは意見であり、言葉そのものではない」と感じられるようになり、言葉を磨く本当の目的にたどり着くことができたのだ。
言葉には2つの種類がある
一般的に、言葉は自分の意見を伝え、相手の意見を聞くための道具とされる。「伝わる言葉」を生み出すためには、自分の意見を育てるプロセスこそが重要であり、その役割をも言葉が担っている。
そもそも人は多くの場合、言葉で考え、言葉で答えを導き出そうとしている。自分という存在や考え、価値観と向き合い、深く思考していく役割も言葉が担っている。もしかしたら今も「そうか」「確かに」など頭の中で言葉を発していたのではないだろうか。
この表に出ない言葉を「内なる言葉」とすれば、発言や文章は「外に向かう言葉」である。これを磨いていくためには、自分の考えを広げたり奥行きを持たせたりするための内なる言葉の存在を意識することが絶対に不可欠なのである。
「考える=内なる言葉を発している」を意識
「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」――この前提に立つと、言葉を生み出すプロセスには、(1)意見を育てる、(2)意見を言葉に変換する、という2段階があることに気づく。そしてこの両者を比べてみると、後者(2)の方がイメージしやすく、効果があるように感じられてしまう。
しかし、自分に意見がなければ、つまり、言葉にすべき思いがないならば、一体何を言葉にするというのか。上滑りしない、相手に伝わる言葉を発するためには、自分の中に意見と思いを生み出し続ける源泉を持つことが重要である。そして、その先にこそ、意見や思いを言語化する段階があることを意識したい。
では一体、どうすれば意見を育てることができるようになるのか。その重要な役割を担っているのが、内なる言葉である。
人は何かに触れた時や、何かを考え、答えを導き出そうとする時、必ず、外に発されることのない内なる言葉を用いている。
例えば、猫を見つけ写真を撮りたいと思った時には、「かわいい」「写真を撮ろう」と言っている。本を読んで納得している時には「確かに」と言い、疑問を感じたら「そうかな?」と言っている。
このように、話す、書くなどの具体的な行動を伴っていなくても、頭の中で言葉を使っていることに変わりはない。「考える=内なる言葉を発している」を意識できるようになると、外に向かう言葉の精度は飛躍的に向上する。考える時に使っていた内なる言葉をタネとして、外に向かう言葉を紡いでいけばいいからである。
意見を言葉に変換するプロセス
(1)意見を育てる、(2)意見を言葉に変換する、というプロセスは、それぞれ次のように定義できる。
(1)「内なる言葉」で意見を育てる
人が無意識のうちに発している言葉。それが内なる言葉である。感情が頭に浮かぶ時には必ず内なる言葉を伴っており、それが外に向かう言葉の核になっているのだが、意識しなければ、その関係性に気づくことは難しい。自分と対話するということは、内なる言葉を用いて考えを広めたり、深めたりすることと同義である。つまり、内なる言葉の語彙(ごい)力が増えるほど、幅を広げ奥行きを持たせるほど、思考は進んでいく。
(2)意見が変換された「外に向かう言葉」
外に向かう言葉とは、一般に「言葉」と呼ばれているものである。自分の意見や思いに言葉という形を与えたもので、主に他者とのコミュニケーションをとる役割を担っている。
外に向かう言葉は既に可視化され普段から用いている言葉でもあるため、理解しやすい。一方で、内なる言葉は表に現れることなく、その存在に気づくことなく見過ごしてしまいがちである。
しかし、内なる言葉は確実に頭の中に存在している。そのため、内なる言葉を1つの言葉として認識することこそが重要なのだ。
梅田悟司著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)

