話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響く。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握した上で、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか、でなければならない。内なる言葉が磨かれ、語彙(ごい)力も解像度も高まった段階にあれば、自分の気持ちをすんなりと外に向かう言葉へと変換できるようになる。そこに取り繕いのスキルや技術は不要なのである。トップコピーライターが人を動かす言葉の秘密を明かすベストセラー書籍『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。
T字型思考法で考えを進める
内なる言葉に目を向け形にするのは、簡単そうに思える。しかし実際にはなかなか手ごわい作業だ。頭の中を形にするだけでもひと苦労なのに、考えを深めたり幅を広げたりするのは、さらに難しい。
そこでお勧めするのが、「なぜ?」「それで?」「本当に?」の3つをキーワードにして、書き出した内なる言葉を拡張し、解像度を上げていく方法である。
最初に書き出した内なる言葉は、これから考えを進めていく、つまり、内なる言葉を磨く過程における出発点と考えてもらえばいい。だから「こんなことでいいのか」などと思う必要は全くない。
3つのキーワードには、それぞれ違った方向に思考を進めさせる役割がある。「なぜ?」は考えを掘り下げる、「それで?」は考えを進める、「本当に?」は考えを戻すことである。この状況を図にすると、最初に得られた言葉を中心にTの形になるように思考が進んでいくため、「T字型思考法」と名付けている。
「なぜ?」で考えを掘り下げる
自分はなぜそのように考えるのか、内なる言葉が浮かんだのかを自分自身に問いかけることで、思考を深めていく。自分の根本や、思考の源泉、そもそも持っている価値観に迫っていく。「なぜ?」を繰り返すことで、より解像度が高く本質的な課題について考えることができるようになる。
最初に書き出した内なる言葉を掘り下げていくことになるため、下へ下へと考えを深化させていくイメージを持つと理解しやすい。
「それで?」:考えを進める
この「それで?」の後には「それで、結局何が言いたいの?」「それで、結局どんな効果があるの?」といった言葉が隠れている。そのため、今考えていることが実現されることで、どんな結果を生むのか、どんな効果を得られるのか、果たして意味があるのかを考えることで、思考を前へと押し進めていくことが可能になる。
1つのことを長い時間考えていると、本来の目的を忘れてしまい、「考えるために考える」というループに陥りやすい。そこで、「それで?」と自分に問うことで、本来の目的を思い出し、正しい方向に考えを進めることができるようになる。
「本当に?」:考えを戻す
自分が考えていることに疑問を持つことは、「建前だけで考えていないか?」「自分の本音なのか?」「本当に意味があるのか?」について考える布石になるため、一旦冷静になり、考えを戻す効果を持っている。その結果、今まで考えが及んでいなかった違う方向について考える余地を生み出すことができるようになる。
考えるという行為をしていると、知らず知らずのうちに、1つの物事を突き詰めることで近視眼的になってしまう。そのため、ある程度考えが進んだところで「本当に?」と自問自答すると、より広い視野で物事を捉え直すきっかけになる。
なお、あまり考えが進んでいない時に「本当に?」を繰り返してしまうと、せっかく浮かんできた内なる言葉を潰してしまう可能性があるので、注意が必要だ。考えが行き詰まったり、思考が止まったりした時に試してみるとよいだろう。
内なる言葉を俯瞰(ふかん)して観察する。
次は、(1)で書き出し、(2)で広げた考えを整理していく段階である。
頭の中に散らばった資料を同じ仲間同士に分類し、大きな方向性に分けることで、いかに自分が偏った幅の中でしか考えられていないかが分かる。自分の思考のクセを知る重要な過程と言える。
ここで大事なのは、できるだけ客観的でなければならないということ。そのため、同じ仲間を分類しグルーピングする作業では、(1)(2)で書き出した言葉を極力自分と切り離して捉えたほうがいい。
まずは書き出した言葉を「これは別の考え方をしているな」と、いくつかの塊に分けることから始めていく。塊がいくつ生まれるかも分からないし、振り分けられる枚数にバラつきもある。しかし、それは思考のクセによるものなので、気にせず淡々と分けていく。
全てを分類し終えたら、最も枚数の多い束、つまり、最も考えていた方向の束を手に取り、もう一度分類する。既に分類する作業を一巡しているため全体像を把握できていることから「この言葉は別のグループに分けてもいいな」「これは新しいグループをつくってもいい」と、さらに客観的な視点で分けていけるようになる。
分類する、見直す、という作業を3回ほど繰り返すと、ほぼ正しくグルーピングできているようになる。こうして内なる言葉が磨かれ、語彙力も解像度も高まった段階にあれば、自分の気持ちをすんなりと外に向かう言葉へと変換できるようになる。
素材がよければ味付けは必要最小限で
繰り返しになるが、内なる言葉は、外に向かう言葉のタネである。
そのため、内なる言葉を無視して外に向かう言葉だけを磨いたところで、話したり、書いたりする言葉の内容が変わるわけではない。
大切なのは、内なる言葉の存在をはっきりと認識し、内なる言葉の語彙力と解像度を上げること。その上で、外に向かう言葉を鍛える方法を知ることにこそ意味がある。
話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響く。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握した上で、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか、でなければならない。内なる言葉が磨かれ、語彙力も解像度も高まった段階にあれば、自分の気持ちをすんなりと外に向かう言葉へと変換できるようになる。そこに取り繕いのスキルや技術は不要なのである。
梅田悟司著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)


