イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第13回では、ジョブズとも共通するマスクの「反逆思考」を読み解きます。 =敬称略

 米伝記作家のウォルター・アイザックソンは著書『イーロン・マスク』を執筆中だった2021年3月に米ヤフーファイナンスに掲載された記事で「イーロン・マスクとアップル創業者のスティーブ・ジョブズは非常に似ている」と語っていました。

 「ある意味で、彼(マスク)は私たちの時代のスティーブ・ジョブズだ。彼は世界を変えることができると思うほど頭がおかしいので、世界を変える人の1人かもしれない」。ジョブズとマスクの両方を取材して、それぞれについてベストセラーの伝記を執筆しているアイザックソンの意見には説得力があります。マスク自身も「自分の脳や思考はノーマルではない」といった趣旨の発言をしています。

 「頭がおかしいから世界を変えられる」というアイザックソンの指摘は、常識に縛られないで自由に思考することがイノベーターには大事である、とも言い換えられます。

 マスクの本質も、ジョブズと同じく反逆者であることです。自動車分野では、ハイブリッド車を含む内燃機関を搭載するクルマが主流だった世界に、EV(電気自動車)で殴り込みをかけ、最初の量産車「テスラ・ロードスター」を投入してからわずか10年あまりで、テスラを世界一のEVメーカーへと躍進させました。宇宙開発でも、再利用可能なロケットという、使い捨てが当たり前だった業界の常識に抗うアプローチを成功させ、歴史を塗り替えました。

 さらにテスラでは、クルマはディーラー(販売代理店)を通じて販売するものだという米国の常識にも抗い、自社でEVを直販することを決めました。広告を原則として打たないことを含めて、自動車メーカーの常識を根本から覆しました。マスクも反逆者であるだけではなく、秩序の破壊者と言っていいでしょう。

 アイザックソンは著書『イーロン・マスク』で、「イーロンはリスクが欲しいからリスクを欲する」「楽しんでいるのだと思う」というピーター・ティールのコメントを紹介。マスクは「大きなリスクを取って、目の覚めるような成果を挙げる」とも指摘しています。

 マスクは単純にリスクを好むだけでなく、新刊『天才思考』の第3章「第一原理思考」で詳しく説明したように、あらゆる常識が本当に正しいのかを前提から疑います。そして第一原理に立ち戻り、自分の頭で徹底的に思考して、最適なソリューションを見いだそうとします。

 このようなアプローチは多くの場合、反逆的なものになります。原理原則に立ち戻って思考し、これまでにない新しい方法を見つけてそれを実行しようとすると、どうしても、多くの人が当たり前と考えている常識やルールを破壊することになるからです。

オタクを率い、社交的なエリートたちに逆襲

 それこそがイノベーションの本質の1つといえます。イノベーションは反逆であり、イノベーターは反逆者なのです。

 パソコン向けOS(基本ソフト)「ウィンドウズ」でコンピューター産業を激変させたマイクロソフトのビル・ゲイツも破壊者でした。1980年代までのIT産業は、大企業向けの「メインフレーム」と呼ばれる大型コンピューターが席巻していました。ハードウエアとソフトウエアは一体で、米IBMなどのメーカーが支配的な力を持っていました。

 しかしゲイツはパソコン時代の到来に合わせて、ハードとソフトを切り離すことで、コンピューター業界の構造そのものを破壊しました。ソフトを主役にし、OSを共通インフラにすることで、ハードを実質的に支配しました。

 ゲイツも反逆的な人間でした。「ゲイツは自分のことをプログラマーというよりはハッカーのように捉えていた。要するに王道に反するアウトロー的なイメージだ」。『HOW TO THINK LIKE Bill Gates ビル・ゲイツの思考哲学』を著したダニエル・スミスはこう述べています。「コンピューターをクラッシュさせたら大手柄だ」と10代のゲイツは考えており、実際にハッキングが見つかって、長期間コンピューターに触ることを禁じられたこともあったそうです。

 2007年のハーバード大学の卒業式のスピーチで、このようなゲイツの反逆思考があらわになる場面がありました。「私は非社交的なグループのリーダーになりました。そして、世の中をうまく渡っている人たちへの反感を正当化するために団結したのです」。ハーバード大学でもコンピューターオタクたちを率い、自分たちを見下す社交的なエリートに逆襲するような意識で、プログラミングをしていたことが分かるエピソードです。

イーロン・マスクが重視する常識を疑う「第一原理思考」は、必然的に反逆的なアイデアにつながる(写真=NASA/Bill Ingalls)
イーロン・マスクが重視する常識を疑う「第一原理思考」は、必然的に反逆的なアイデアにつながる(写真=NASA/Bill Ingalls)

日経ビジネス電子版 2026年5月1日付の記事を転載]

天才になれなくても、天才の思考法は誰でも学べる。イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才イノベーターの成功は「思考の型」から生まれています。『天才思考』では、第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に詳細に解剖します。

山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)