イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第12回では、米アップル創業者スティーブ・ジョブズの「反逆思考」を読み解きます。 =敬称略
イノベーターの本質を考えるうえで、私には忘れられない言葉があります。1997年、アップルに復帰したばかりだったスティーブ・ジョブズは「Think Different」という広告キャンペーンを始めました。その60秒の動画で語られた、次のようなナレーションです。
クレイジーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。
彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。
彼らの言葉に心を打たれる人がいる。
反対する人も、称賛する人も、けなす人もいる。
しかし、彼らを無視することは、だれにもできない。
なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。
彼らはクレイジーと言われるが、私たちは、天才だと思う。
自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。
この言葉こそがジョブズの考えるイノベーターの本質だと私は考えています。
「イノベーターは“反逆者”である」とジョブズは信じていました。ルールを嫌い、現状を肯定しないで、世界を変えられると本気で信じ、人類を前進させる。このような「反逆思考(Rebellious Thinking)」は多くのイノベーターに共通しています。
このCMには、ノーベル賞を受賞した物理学者のアルベルト・アインシュタイン、ミュージシャンのボブ・ディラン、公民権運動で有名な牧師のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、英ヴァージン・グループの創業者リチャード・ブランソン、ミュージシャンのジョン・レノン、発明家のトーマス・エジソン、インド建国の父であるマハトマ・ガンジー、建築家のフランク・ロイド・ライト、画家のパブロ・ピカソなど、合計17人が登場します。
反抗的で学校から追放されたアインシュタイン
ウォルター・アイザックソンが書いた伝記『アインシュタイン その生涯と宇宙』によると、アインシュタインは、幼少期から生意気で、権威に反抗する強情な性格でした。
校長の怒りを買って、学校から追放されたこともあるほどです。スイスのチューリヒ工科大学に進学した後も、反抗的な態度は変わりませんでした。「アインシュタイン君、君は大変賢い。極めて賢い。でも大きな欠点を持っている。君のことを他人がどのように話しているかを、君自身が決して聞こうとしないことだよ」。最初の指導教官だったハインリッヒ・ウェーバーはアインシュタイン本人にこう言い聞かせましたが、効果はなかったそうです。
エジソンも反抗的なうえ、注意散漫で空想にひたりがちな子どもでした。授業中に居眠りをしたり、ノートにいたずら書きをしたりするのが許せなかった中等学校の校長は、級友の前でエジソンに平手打ちを食らわせて、よくののしっていたそうです。
ニール・ボールドウィンが著した『エジソン:20世紀を発明した男』によると、「ある日、学校を訪れた視学官に、私の頭はどうかしており、これ以上私を学校にとどめておくのは無駄であると校長が話しているのを耳にしました」とエジソンは述べていたそうです。わずか3カ月で学校を退学することになったエジソンは、本の虫になり、読書による独学で膨大な知識を身につけます。
カウンターカルチャーの旗手で、「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」や「時代は変る(The Times They Are a-Changin’)」といったプロテストソングで知られるディランも、もちろん反逆者の典型といえるでしょう。「風に吹かれて」はアフリカ系アメリカ人の基本的人権の獲得を目指した公民権運動、ベトナム戦争に対する反戦運動のデモ行進や集会で繰り返し歌われました。
ディランは音楽を通じて政治的なメッセージを発信し、社会運動に大きな影響を与えるミュージシャンの草分けでした。
既存の秩序や制度を否定し、核兵器やベトナム戦争に反対し、インドの文化や禅など東洋哲学の思想を取り入れ、性の解放を擁護するような当時のヒッピー文化は、ジョブズにも大きな影響を与えました。このようなヒッピー文化を支えた旗手の1人であるディランは、カウンターカルチャーのアイコン(偶像)で、ジョブズは心酔していました。
ウォルター・アイザックソンが著した伝記『スティーブ・ジョブズ』によると、ジョブズのiPodには1962年のファーストアルバムから1989年の「オー・マーシー」まで、ディランのアルバムが15枚も入っていました。
ディランの反骨心は歳を重ねても変わることなく、2016年にノーベル文学賞を受賞した際も、事務局が何度連絡しても無視して、授賞式を欠席したほどでした。「ここまで反抗しなくてもいいのに」と世界中の人が思ったはずですが、ディランは自らのスタイルを貫きました。
嫌われ者になることを恐れない、強い反骨心がイノベーションを起こすためには必要だ、とジョブズは考えていました。多くの人が信じている常識を覆すことができなければ、インパクトが大きいイノベーションを実現できないからです。新刊『天才思考』で詳しく述べたように、ジョブズのような反逆思考は、米国のメタ(旧フェイスブック)やウーバー・テクノロジーズ、スペースXなど多くの革新的な企業の創業者にも共通しています。

[日経ビジネス電子版 2026年4月28日付の記事を転載]
山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)
