
※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第4回。
作家の今村翔吾さんが4月27日に東京の神保町でスタートさせるシェア型書店「ほんまる」。オープン直前の確認のため、今村さんとクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんが店を訪れた。


棚主は先着順で
今回は、シェア型書店「ほんまる」の使い方を今村さんに教えていただきます。まず、棚を借りる「棚主さん」は、どのように選ばれるのでしょうか。今村さんが決めるんですか。
今村翔吾さん(以下、今村):いえ、基本的には先着順ですね。棚を持つことの動機や接点はその人その人で、さまざまにあっていいと思っていて、こちらで選ぶことはしないつもりです。

メインのユーザー像はどう描いていますか。
今村:まず個人のユーザーがいます。「ほんまる」に棚を持って、自分のセレクトした本を並べることが、自己表現や自己確認になるという方ですね。
作家志望の人が「note」に何か書くというように、配信サイトを実体化したバージョンと捉えればいいですか。
今村:それに近いですね。「ほんまる」の中にアバターを持つイメージです。
棚主さんは基本的に自分が持っている本を、そこで中古本として売るという前提になるのですか。
今村:そのような古書店方式でもいいですし、普通に新刊を仕入れることもできます。
個人が新刊を仕入れることって、可能なのですか。取次(※)に口座がないと普通はできないと聞いています。
今村:これはたぶん「ほんまる」の圧倒的な強みですが、棚主さんはうち(ほんまる)が代行することで新刊を仕入れることができるんです。
おっしゃる通りで、通常、新刊を仕入れるには、取次に口座を持たなければいけません。それは個人ではほぼ不可能なことで、かなりハードルが高いんです。でも、うちは書店経営をしていて(※)、大手取次に口座を持っていますから、ダイレクトに仕入れができます。

運営側からすると、返品が可能な再販制度の対象となる新刊と、古書が混じっているのは、手間がかかりませんか。
今村:要は返品できるものと、返品できないもの、値段を勝手に下げてはいけないものと、自由に付けていいものが混じることになるわけですが、そこはインストア(独自採番)コードを使用して、完全に分けて処理できるようなシステムを組んでいます。
そうなんですね。ところで、個人が棚を借りて、そこで本を売って、採算は取れるものでしょうか。
シェア型書店の棚主で黒字にするのは難しい?
今村:一般論ですがぶっちゃけて言いますと、シェア型書店の棚主さんが、そこで本だけ売っているとしたら、7~8割方は赤字になると思います。
今、シェア型書店では一つの棚の借り賃が月に3000円から7000円程度の価格帯が通常ですが、それを上回る売り上げを本でつくるのは難しい。実をいうと、僕らもほかのシェア型書店さんで棚主になって本を売ってみたことがあるのですが、なかなか黒字にはできませんでした。
今村さんにしてそうだということは、ほかの方はもっと難しいのでは?
今村:そこから得た気付きがあります。「ほんまる」の棚を、発信力を高めるプラットフォームと見立ててもらえば、僕ら運営側が環境を充実させていくことで、棚主さんの納得感は高まるのではないかと考えているんです。
どういうことでしょうか?
今村:単に場所を貸すだけではなく、場所の価値を高めて、差別化を行っていく努力ですね。まず「ほんまる」は店舗も棚もロゴも、佐藤可士和さんがトータルでデザインしてくださっていることが一つ。その棚を借りることが、借り主さん個人のブランディングになる、ということです。
デザイナーズマンションに入居して、自分の満足度を高める、みたいな感じですね。
今村:もちろんそれだけではいけません。ここで黒字になる棚もたくさん出てきてほしいと思っています。そのために何をしなくてはいけないのかというと、まず、たくさんの人に足を運んでもらえる書店にすること、ですね。そうやって僕自身、プラスにもっていくための施策について、いろいろ頭をひねっているんです。
たとえばどんなアイデアがありますか。
今村:僕が作家であること、テレビやラジオといったマスメディアに露出していることを最大限に使って、つながりのある方との座談会をシリーズで企画するというアイデアが、一つありますね。
仮に2000円の入場料にするとして、そのうちの500円を会場費にいただいて、あとの1500円は「ほんまる」で使える金券に換えて、半年以内に使ってくださいね、と。そうしたらみな必然的に使おうとして、本が動き、それが棚主さんのところの売り上げになる。
店舗ビジネスとしてのスケール感についてはいかがでしょうか。
今村:このモデルはいずれ全国で、直営、フランチャイズ双方で展開していきたいと思っています。それがビジネスでいうスケーラビリティ(拡張性)につながるでしょうし、そうなったら各地域ならではの品ぞろえを棚主さんと一緒にできて、楽しいじゃないですか。
この町の人はめったやたら時代小説が好きやね、とか、ここの町はSF好きが多いんやね、となったら、そこから面白いコミュニティをつくっていけるでしょう。そうやってリアルでも、ネットでも交流できる仕掛けができたら、ゆくゆくはコミックマーケットみたいに、棚主さんが一堂に会するイベントも開きたい。そんな機会をがんがん増やしていきたいと思っています。
「ほんまる」に出店することが、本好きのコミュニティに参加することになる、ということでしょうか。
今村:はい、棚主さんにはオンラインサロンに参加しているような感覚で使っていただけるんじゃないかと思うんです。しかも「ほんまる」では、サロンに参加するだけじゃなくて、そこで能動的に本も売れます。
小さい書店の場合、新刊が取次から取れないということも聞きます。「ほんまる」で新刊を扱おうとすると、その問題に直面しませんか。
今村:その問題はあります。そしてより正確にいえば、欲しい本が取れないのではなくて、取れるまで時間がかかるということです。
たとえば超ベストセラーなど、配本競争が激烈熾烈な本の場合は、発売日に手配するのは厳しいと思います。ただ、そこの軸で争うんだったら、既存の本屋もAmazonに勝てないわけです。さらに、その上には電子書籍があるわけですよ。発売日の深夜12時にダウンロードできてしまうわけですから。
そういった速度のインフレが起こっている中で、それでも超ベストセラーをどうしても置きたいという理由があるんだったら、ほんまるに関しては発売日にこだわらなくても別に構わないんじゃないかと、僕は思っています。
それはその通りですね。
今村:それよりも、本屋を試しにやってみたいという人に体験の場を提供することの方が、意味が大きい。棚主さん、本を買ってくれる人、僕らという3者が参加型で回していくことを大事にしたい。一方で、もう一つの課題解消も意図していて、それは出版社に対してのBtoBモデルなのですが。
出版社も棚主になれるんですか。
今村:はい、もちろん。
どんなメリットが期待できるでしょうか。
人生で一番泣いた賞は
今村:出版という産業は厳しい状況下にありますが、それでも日本には全国に何百という出版社があり、それぞれに特色のある本を出して、工夫して売っています。
たとえば静岡県の羽衣出版や、僕のお膝元の滋賀県でいうとサンライズ出版など、地域に根差した本を出しながら、関連した活動も盛んに行っておられるところが、いろいろあります。
僕は本格的なデビュー前、2016年に『蹴れ、彦五郎』という作品で、羽衣出版が作品集を刊行している「伊豆文学賞」を受賞して、それで作家として立つ覚悟が持てました。どの賞も受賞はとてもうれしいですが、人生でいちばん泣いた賞は伊豆文学賞です。
今、書店の棚は大手の出版社が独占している状況ですので、そのような地域の出版社の本は、なかなか手に取ることができません。そんな版元さんが「ほんまる」で一堂に会したら、日本の縮図みたいになって面白いことになると思うんですね。
同時に大手の出版社は大手の発想で、また違う使い方ができるのではないかな、と。たとえば集英社が編集部ごとに棚を出したらどうかということで、「ジャンプ」は漫画棚、「小説すばる」は小説棚、「ノンノ」はファッション棚みたいになって、集英社のビルがミニチュア版で見られます、みたいな感じで。
本棚がマーケティング用のメディアになるということですね。
今村:はい、日経BPさんも、ぜひ活用してほしいです。
「私はこういう本が好きです」のアピールの場として
出版社もそうですし、ほかの業種の企業にとっても、いいアピールの場になりそうです。
今村:そうそう、企業のCSR活動的にも使えるな、と僕も思っています。コンテンツ産業とは対極にある堅いゼネコンなんかが、「うちの社長のお薦め」という棚を持っていただいてもいいですし、何かのプロジェクトをPRする際に使っていただいてもいい。
だったら政治家もありですね。
今村:その通りなんですよ。選挙期間中はどうなんだ、という微妙さがあるにせよ、たとえば市長選があるんだったら、その候補者がどういう本を読んでいるかって、知りたいと思うじゃないですか。
きれいごとだらけの選挙公報よりも本棚を見た方が、人となりが分かって、すごくいいアイデアだと思います。選挙期間中はカーテンを引いておけばいいんじゃないでしょうか。
今村:でしょう。市長さん、議員さんがどういった本を読んでいるか、ということが分かれば、市政の方向性だって分かるじゃないですか。ですので、いろいろな立場の人たちがPRの場として使っていただくのがいいと思っているんです。
BtoB、BtoC、どちらの使い方もありだ、と。
今村:BtoCも大事で、「ほんまる」が作家と読者の方との出会いの場になってほしいとも思っているんです。作家の多くは、読者のみなさんに会いたいんです。でも、市場が縮小する中では、書店でサイン会を催すにしても、それができるのは超売れっ子だけ、しかも都心の大手書店だけ、といった状況にどうしてもなっていて。
それだけじゃあかんやろと思って、僕は去年、滋賀県内で実験的に6カ所の学校を回ったんです。これを将来的には年間20校ぐらいまで広げたいんですよ。
直木賞受賞後の「今村翔吾のまつり旅」では、280カ所ほどを回られたのですよね。
今村:周囲に「アホや」と言われながら、一人で4カ月かけて全国の書店、学校、公民館などを回りました。これは資金的にも体力的にも、誰にでもできることではありません。僕にしても、生涯で1回だけの無茶です。
その間、家には一切帰っていないのですものね。
今村:もう1回やれ、と言われても無理です。ただ「まつり旅」をやる中で分かった単純なことは、一人で280カ所を巡るのは生涯に1回しかできなくても、280人が年間に1カ所回ることはできるな、ということでした。
ですから、まずは話し手となる作家や言葉を扱うプロの方などに100人ぐらい、集まってもらえたらなと。それができたら、次は300人。それで、訪問先とマッチングしながらフォーマットを作っていこうと。
アジャイル方式ですね。
今村:日経ビジネス的にいうと、R&Dを回しながら、スピード感を持ってビジネスモデルを磨いていく、ということですね(笑)。
いろいろな書店の数が増えていくことが大事
近年は書店の形が、ショッピングセンターにあるようなメガ書店と、町場の隠れ家みたいな、趣味的な書店とに二極化していますよね。趣味的な書店にしても、その中で店主の個性によって、さまざまな形態が出てきています。後者のような、いろいろな形の書店は参考にされていますか。
今村:参考にはしないけれども、書店の形に多様性があるのは、とてもいいことだと思っています。個人が経営する、いわゆる独立系書店と、大手の書店の間には、同じ書店といっても、大きな違いがありますよね。
独立系書店から見る大手は金太郎あめ的で面白くないと思うでしょうし、逆に大手が独立系書店を見ると、趣味だからできんねん、なんて思うでしょうし。両方が抱えている問題は、それぞれでまったく違うし、僕がやろうとしている「ほんまる」とも違います。
ですので、何を参考にするか、という話ではなくて、とにかく書店の数が増えていくこと――それぞれの形で、いろいろな書店が増えていくことが大切だと思っています。
私はブックオフでも本を買うのですが、町によって面白いブックオフと、そうでもないブックオフがある気がするんです。
今村:あります、あります。
いい本が集まっていると、この町は文化度が高いところなんだな、と、リスペクトが芽生えたりして。この先、「ほんまる」が東京以外にも増えていくとしたら、「ほんまる」の成立する町はいい町だ、という図式が成り立ってほしいですね。
今村:そうなったらいいですね。いや、そうしないといけませんね。
(※第5回に続きます)
[日経ビジネス電子版 2024年4月24日付の記事を転載]
清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)





