※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第19回。

 このシリーズは「書店再興」をテーマにしていますが、最近は行政が本を媒介に「地域再興」を図る例が全国で増えています。2022年9月、福井県・JR敦賀駅前にオープンした「ちえなみき」は、敦賀市による公設民営書店で、運営は民間が担当するという新時代の書店モデル。前回取り上げた「八戸ブックセンター」(青森県八戸市)の公設公営とは、また違う手法を聞いていきます。

「ちえなみき」の外観。後ろに見える白い建物がJR敦賀駅
「ちえなみき」の外観。後ろに見える白い建物がJR敦賀駅

2024年3月に、北陸新幹線の金沢~敦賀間が開通したことを機に、JR敦賀駅と駅前がずいぶん変わりました。その象徴が、駅の西口前に広がる「otta(オッタ)」(TSURUGA POLT SQUARE「otta」)という、芝生の庭を囲んだ低層の複合施設です。そのottaにある書店「ちえなみき」(TSURUGA BOOKS & COMMONS ちえなみき)が、全国の本好きの間で話題になっています。

敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん(以下、西村):今日は東京からですよね。どのようにいらっしゃいましたか?

東海道新幹線の米原経由で来ました。のぞみで出て、名古屋でひかりに乗り換え、そして特急しらさぎという乗り継ぎですが、意外と楽に、速くアクセスできました。

西村:北陸新幹線の金沢~敦賀駅間延伸で、その途中にある福井駅は東京までの所要時間が短縮されましたが、敦賀は東海道新幹線のルートもあるので、所要時間は変わっていないんです(笑)。東京まで1本でつながり、往来が楽になったとはよく聞きます。

とはいえ、新装となった敦賀駅のにぎわいは、以前とはだいぶ違って、目を見張りました。

手招きしてくる書籍空間

西村:もう、ちえなみきの中はご覧いただきましたか。

早めに到着したので、1階も2階もぐるっとひと回りしました。入り口を入ったところから引きずり込まれて、欲しい本、読みたい本だらけ。座り読み自由で、いたるところに座り心地のいい椅子がある。「おいで、おいで~」と、空間全体に手招きされている気がしました(笑)。こんな場所が東京にあったら、混雑して大変じゃないでしょうか。

中は迷路のよう、興味にひかれるまま迷い込める
中は迷路のよう、興味にひかれるまま迷い込める

西村:今日は平日の昼間ですので、ゆったりしていますが、夕方からは高校生たちがたくさん集まってきます。土日は家族連れを中心に、一日中わいわいと、すごくにぎわっています。

公設書店は、2016年にオープンした「八戸ブックセンター」(青森県八戸市)が先行しています。八戸は「公設・公営」で注目を集めましたが、ちえなみきは「公設・民営」。これもまた全国的に珍しい書店の形です。ちえなみきが入居するotta自体が公共の施設なのですか?

西村:ottaが立っている土地は敦賀市の所有で、そこに立つ建物は民間の所有・運営です。そのottaの一角を敦賀市がテナントとして借り受けて、ちえなみきを運営しています。ここは敦賀駅前の再開発で市が採用した官民連携事業の一環として誕生した施設なんです。

官民連携は近年、地域開発で多用されていますが、目玉として図書館ではなく書店がある、というところが新しいですね。書店としての特色を教えていただけますでしょうか。

西村:ご覧いただいたように、「世界樹」と名付けた空間コンセプトとレイアウト、それに沿った選書がいちばんの特徴になっています。本は新刊、古書、洋書、絶版本と多岐にわたっていて、テーマが大きな樹のように、幹、枝葉と展開しています。従来のアイウエオ順や、スポーツ、ビジネス、アートなどのジャンルごとの陳列ではなく、「文脈棚」の並べ方です。

ちえなみきの象徴「世界樹」と、それを具体化した幹、枝、葉のように並ぶ「文脈棚」
ちえなみきの象徴「世界樹」と、それを具体化した幹、枝、葉のように並ぶ「文脈棚」

東京・丸の内の「松丸本舗」の系譜を継ぐ

世界樹の名の通り、1冊の本のタイトルに引かれて棚をたどっていくと、その奥に隠れたスペースが出てきて、また違う世界が広がる。路地の先に、見知らぬ小さな広場を見つけていくような、まち歩きに通じるワクワク感がありますね。

西村:そのような特徴には、民間運営者の手腕が発揮されています。並べ方、見せ方もそうですし、ちょっと開いた引き出しの奥に本が隠れていたり、スペースごとに雰囲気が変わったりと、探す楽しみがあるんです。本を売る以前に、本との出合いをすごく意識しています。運営は市の指定管理という形で、丸善雄松堂(東京・港)と、その子会社である編集工学研究所(東京・世田谷)が担当されています。

編集工学研究所は、編集界のカリスマとして活躍された松岡正剛さん(1944-2024年)が所長を務めておられました。松岡さんは2009年から12年にかけて、「丸善丸の内本店」内で「松丸本舗」をプロデュースされた時に、文脈で本を並べていくという「文脈棚」の概念を実現されました。松丸本舗の話題、衝撃は、本好きには忘れられないものです。

西村:こちらに来て、松丸本舗の話をされるお客さまはいまも多いですね。ちえなみきの店内の構成で言うと、「世界知」と呼ぶ1階は、編集工学研究所が特に深く関わっている部分です。2階は「日常知」のフロアで、文字通り日常的で身近なテーマに沿って本が並んでいます。

古書や絶版本があるということは、本の仕入れは買い取りで行っているのでしょうか。

西村:取次を通しての購入と、買い取りとの両方です。買い取りの方は、それこそ東京の神保町に行ったりもしながら、スタッフが目当ての本を買い足しています。

ちえなみきは、1階に敦賀の老舗が営むカフェ「中道源蔵茶舗」が入っていて、ここでお茶、コーヒーや甘いものがいただけます。館内では、ほかのお店で買った飲み物も持ち込み自由とのことで、太っ腹で開放的です(注:2026年6月時点では運用が変更されています)。八戸ブックセンターも、全くお役所っぽくなくて驚きましたが、ちえなみきも同じくらい驚きました。どういう経緯で、このような書店ができあがったのでしょうか。

塩漬けになっていた駅前一等地

2016年(平成28年)の敦賀駅西地区(写真:敦賀市役所)
2016年(平成28年)の敦賀駅西地区(写真:敦賀市役所)

西村:昔のモノクロ写真を見ていただくとお分かりのように、ここの敷地は駅前の一等地だったにもかかわらず、長年、塩漬けになっている更地だったんです。市では20年ほど前から駅周辺整備構想を立ち上げていて、駅前で土地区画整理事業に着手していました。

 敦賀市は現在人口約6万2000人の規模ですが、原子力発電所でも栄えたまちですので、当初は原子力にちなんだコンテンツを活用し、再開発を進めていこうと考えていました。ところが東日本大震災で、その話が白紙に戻り、しばらく空白の期間ができてしまったんです。その後、今度は北陸新幹線の延伸が3年、前倒しになるというニュースが入ってきました。

後ろ倒しはよくあることですが、前倒しというのはなかなか稀(まれ)。延伸の期日が伸びると、石川県の金沢に経済活動が集中して、福井と差ができてしまう、という福井県側の声があったんですよね。

西村:前倒しをすると決まった時点で、我々の方も「もう検討、検討と言っている場合じゃない」となり、本腰を入れて再開発をスタートすることになりました。

 まず、プロポーザル(企画競争)でコンサルタントを選定し、市の駅前再開発に本当に興味を持ってくださる民間の方がいるのか、サウンディング調査(対話型市場調査)をした上で公募をかけ、事業会社を選定しました。5社に手を挙げていただいた中から、東京の「青山財産ネットワークス」による事業体が選ばれて、いまのottaになっている部分を整備していただいています。

再開発、土地活用のスキームとして公的不動産の利活用になっていますが、当初から市はそこにテナントとして入居するつもりがあったのでしょうか。

西村:敦賀のような小都市ですと、私たちにもノウハウはないですし、土地は官、上物は民という形だけでもいいかと、そのくらいの熱量に落ち着いても不思議ではありません。

敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん
敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん

 ただ、サウンディング調査の結果からも、民間が参入しやすい公募要件の設定は必要と考え、そこで民間整備の中に公共施設もうまく組み入れていこうとなり、それが最終的に、ちえなみきにつながった。そういう流れです。

リスクから逃げるとにぎわいは生まれない

市が土地を民間に貸せば、その土地代が市に入る。一方、市の公共施設がテナントとしてその民間の建物に入れば、民間事業者にとってリスク軽減になる。

西村:ちえなみきに視察に来られる行政の方は、そこに強い関心をお示しになります。というのは、民間施設の運営に公共のサポートや視点がないと、駅前は優先的にマンションがぼんと建ち、1階はコンビニ、ドラッグストアといった利益追求型の店舗になってしまいますので。

民間がリスクを避けようとした結果、せっかくの駅前開発が、さらなる地域の魅力低下につながる負の例は、いろいろなところで見てきました。敦賀市は自分でもリスクを取ることでその類型を逃れることができた。これはどういう経緯で可能になったのですか。

敦賀駅西地区全体エリア名称が「TSURUGA POLT SQUARE otta」。敦賀駅西広場公園を中心に、「ちえなみき」(物販棟を併設)、飲食棟のAゾーン、ホテル、スターバックスのBゾーンが配置されている(写真:敦賀市役所)
敦賀駅西地区全体エリア名称が「TSURUGA POLT SQUARE otta」。敦賀駅西広場公園を中心に、「ちえなみき」(物販棟を併設)、飲食棟のAゾーン、ホテル、スターバックスのBゾーンが配置されている(写真:敦賀市役所)

西村:市民や議会の総意として、「駅前の一等地なら、やはりにぎわいを生み出す場所にしたい」という思いがあったからです。同時に、新幹線の駅ができるとなれば、観光客も見込めますので、その玄関口としてもにぎわいを生み出すべきだろうと。

なるほど。

西村:さらに、もっと大事な視点を、市民の方々とワークショップを重ねる中で見つけることができました。それは、「玄関口としての役割も、にぎわいも大事だけれど、住んでいる自分たちが普段使いできるような、憩えるような居場所が欲しい」という視点でした。

ああ、そこはとても大事な気づきですね。

西村:はい。学生さんたちが勉強できるスペースや、親子連れの方々が雨の日でも遊びに来られる場所が欲しい。そういった要望が多かったので、普段使いの居場所と、玄関口としての機能と、両側面から再開発を考えていくことになりました。その場合、宿泊、飲食、物販は、民間でビジネスになりやすい。一方、市民の普段使いの居場所はビジネスになりにくい。だとしたら、こちらを行政で受け持ち、それぞれの役割分担を明確にして進めていきましょう、と、話を詰めていくことができたのです。

参考にされた事例はありましたか。

西村:当時、私はここの担当ではなかったのですが、その時の担当者と担当部長は全国津々浦々を回ったといいます。その中から、「本」というもの、それに関連する「知育・啓発」というテーマがいいんじゃないか、となったと聞きました。

例えばどんなところをご覧になったのですか。

西村:都内のTSUTAYA各店や恵文社一乗寺店(京都市)、遠いところでは「延岡エンクロス」(延岡市駅前複合施設エンクロス、宮崎県延岡市)など、担当部長を含めれば100カ所以上を視察したと聞いています。公設として八戸ブックセンターを参考にしつつ、松丸本舗をはじめとする民間の事例を取り入れていったということです。

まず3万7000冊を市が購入した理由

そうだったんですか。八戸ブックセンターから、ちえなみきへと話が自然とつながっていきますね。

西村:その視察時期が2015、16年ぐらいです。そこから役所の中で「本ってどう思う?」といった議論が広がって、「いいんじゃないか」という方向に向かっていったんです。

まさに、そのころから「本」や「本屋さん」を、地域開発のキーファクターにしようという流れが世の中に出てきています。

西村:世の中の流れとともに、当時の担当が本好きだったことも、大いにあったと思います。本に対して熱い思いを持っていて、こちらが1を聞いたら10を返してくる。本当に誰よりも本が好きなんだな、と思える人です。

今、そのご担当はどちらの部署にいらっしゃいますか。

西村:今、観光課にいます(笑)。

ちゃんと地続きになっているんですね。

 指定管理について、もっと教えてください。年間の運営費用は市で決まった金額があり、それを指定管理業者が受け取って、自由に使うという形になるのでしょうか。

西村:そうです。ちえなみきでは、市が年間約5000万円の指定管理料を運営者にお支払いしています。実はちえなみきがオープンする際、最初の品ぞろえになる3万7000冊は、指定管理者とタイトルを吟味した上で、市で買い上げているんです。3万7000冊は全冊が買い取りで、その額は8000万円ぐらいでした。そこが指定管理者の参入リスクを低減したところですね。

なんと。ここでも太っ腹ですね。

西村:そこが公設書店たるゆえんですね。ちえなみきは、市民を中心にした知への投資で、僕らは「知的情報インフラ」という言い方をしています。市が本を購入することは、市民へ知的情報を提供することと同意義だ、と捉えています。

文脈棚の意図を示す短い説明が知的情報の奥へと誘う
文脈棚の意図を示す短い説明が知的情報の奥へと誘う

販売で上がった利益は、どういう扱いになるのですか。

西村:最初に購入した本は、市の本という扱いになりますので、ちえなみきで売れた分の金額は市に返してもらっています。ただ、ここでは1冊当たり5~10%の手数料を市が指定管理者に支払うようにしています。そうでないと、運営側のモチベーションが保てないですよね。

 指定管理者の方も、売れた本をまた機械的に仕入れるのではなく、テーマの構成にかなう本として同じ本なり、違う本なりを、年間運営費の中でやりくりしていくという方法です。

最重要ファクターは書店員のレベル

公設・公営の八戸ブックセンターは、市民にとって意義のある施設だから、全部を税金で賄います、という考え方です。こちらは「民」が付いた分、より細かな立て付けになっています。年間の指定管理料約5000万円は、もちろん安くはありませんが、ものすごく高いというほどでもありません。指定管理者にも企業努力が求められますね。「民」が入るメリットというのをさらにうかがえれば。

西村:僕らは八戸ブックセンターさんをモデルにさせていただいて、敦賀ならではのやり方を考えていったのですが、その中で大事なファクターは、やっぱり書店員さんのレベルなんです。

 八戸には知識量、能力が高い書店員さん、司書さんが何人もいらっしゃいます。敦賀のようなまちで、そういった人材を最初から発掘できるかは大きな課題でした。

やはり市としての規模の差があるということでしょうか(八戸市は人口約21万3000人、敦賀市は約6万2000人)。

西村:ええ。東京圏、大阪圏ではない一地方の行政では、そこはなかなか難しい。その意味でも、ノウハウのある民間にお任せすることが適切じゃないか、という話になったのです。

ちえなみきでは今、その役割を店長の笹本早夕里さんをはじめとしたスタッフが担っています。次回、続けてお話を聞いていきます。

(*中編に続きます)

日経ビジネス電子版 2025年5月21日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)