米トランプ政権は、「米国市場にアクセスしたければ言うことを聞け」と言わんばかりに、敵対国か友好国かを問わず、追加関税などの措置を発動させ、それに対して、相手国の一部が対抗措置を打ち出すなど「経済戦争」の様相を呈してきている。今や企業にとって、こうした地政学・経済安全保障リスクへの対応は避けて通れず、打ち手を誤れば利益は一気に吹き飛びかねない。初代・経済安全保障担当大臣で衆議院議員の小林鷹之氏と、『ビジネスと地政学・経済安全保障』の著者である羽生田慶介氏の対談の後編。今回は、グローバルサウスとの関係構築やルール形成について対談してもらった。

国と企業とのギブ・アンド・テイクが必要

羽生田慶介氏(以下、羽生田):経済安全保障の施策の実効性を高めるには、官民連携が1つのポイントになると感じています。ただ、企業側から見ると、情報共有など政府と連携することに不安を抱えているところも少なくありません。

小林鷹之氏(以下、小林):繰り返し申し上げているのは、企業活動というのは原則、自由であり、政府が必要以上に縛るものではないということです。その認識を政府と企業が共有しながら連携することで、中長期的に見れば企業にとってメリットが出てくると思います。

 官民が連携するに当たっては、政府が上から目線で民間企業を一方的に縛るのではなく、お互いがこのメリットをしっかりと享受できるようにしなければなりません。例えば情報の共有にしても、民間企業に情報を出していただくインセンティブがないと、それは動かないだろうなと思います。

 この通常国会で、アクティブ・サイバーディフェンスの法案(「サイバー対処能力強化法案」と「サイバー対処能力強化法整備法案」)の成立を目指していますが、その中では、インシデントがあったとき、基幹インフラの事業者に対して政府への報告義務を課しています。その分、例えば、これと表裏の関係にあるセキュリティ・クリアランス制度を活用することで、一定の条件をクリアした方たちに対して、国が持っている機微な情報をシェアする仕組みをつくっていきます。このような双方向のやり取りがないと、企業とのギブ・アンド・テイクは進まないと思っています。

小林鷹之(こばやし・たかゆき)氏=衆議院議員(自由民主党)/1974年生まれ。99年、東京大学法学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省。米ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(公共政策学修士)。理財局、在米国日本大使館への出向を経て、2010年に退職。12年に衆院議員に当選。防衛大臣政務官、党新国際秩序創造戦略本部事務局長などを務めた後、21年に第1次岸田内閣で初代の経済安全保障担当大臣に就任。現在、自民党で経済安全保障推進本部本部長や日・グローバルサウス連携本部本部長を務める。 (写真:洞澤佐智子、以下同)
小林鷹之(こばやし・たかゆき)氏=衆議院議員(自由民主党)/1974年生まれ。99年、東京大学法学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省。米ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(公共政策学修士)。理財局、在米国日本大使館への出向を経て、2010年に退職。12年に衆院議員に当選。防衛大臣政務官、党新国際秩序創造戦略本部事務局長などを務めた後、21年に第1次岸田内閣で初代の経済安全保障担当大臣に就任。現在、自民党で経済安全保障推進本部本部長や日・グローバルサウス連携本部本部長を務める。 (写真:洞澤佐智子、以下同)
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米国不在で生まれた空白を埋めるのが中国でいいのか?

羽生田:地政学、経済安全保障に関して、今、小林議員が気になっていることはありますか。

羽生田慶介(はにゅうだ・けいすけ)氏=オウルズコンサルティンググループ代表・CEO/2000年国際基督教大学教養学部卒業。経済産業省通商政策局でFTA交渉、ASEAN地域担当。キヤノン(経営企画・M&A担当)、 A.T. カーニー(戦略コンサルティング)、デロイトトーマツコンサルティング執行役員・パートナーを経て、20年にオウルズコンサルティンググループを設立。著書に『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』 『稼げるFTA大全』(ともに日経BP)などがある。経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、内閣府知的財産戦略本部国際標準戦略部会委員を務める。
羽生田慶介(はにゅうだ・けいすけ)氏=オウルズコンサルティンググループ代表・CEO/2000年国際基督教大学教養学部卒業。経済産業省通商政策局でFTA交渉、ASEAN地域担当。キヤノン(経営企画・M&A担当)、 A.T. カーニー(戦略コンサルティング)、デロイトトーマツコンサルティング執行役員・パートナーを経て、20年にオウルズコンサルティンググループを設立。著書に『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』 『稼げるFTA大全』(ともに日経BP)などがある。経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、内閣府知的財産戦略本部国際標準戦略部会委員を務める。
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小林:米国は今も世界ナンバーワンのパワーを持っていますが、相対的な国力は低下し、一方で中国の脅威が増しています。そうした状況の中で、最近、特筆すべき動きは、インドをはじめとするグローバルサウスの台頭であり、欧米先進国との間に、価値や利害を巡る対立が芽生えていることが非常に気になります。

 米バイデン政権までの話で言うと、民主主義やグリーン化は欧米先進国にとってよいものであり、ある意味でそれを他国に押し付けるような傾向がありました。けれども、グローバルサウスから見れば、そうした「お説教」よりも、橋や道路といったインフラをつくってくれる他の権威主義の大国のほうが実利をもたらしてくれるのでありがたいわけです。

 米国はオバマ政権のときに世界の警察をやめると宣言し、2025年からの第2期トランプ政権では、完全に内向きになってしまいました。これは、東南アジアやグローバルサウスへの経済的支援などからも、米国が身を引いていくことを意味しています。では、米国が引いたことでできた空白を誰が埋めるのか、それは中国でいいのか。私は日本が主体的にその空白を埋めていく努力をしなければいけないと思っています。

 大きな話で言うと、G7(主要7カ国)など先進国を中心としたグループがありますが、もうGのない世界、先進国のグループだけでは決められない世界に当面は突入していくような様相を呈しており、不確実性が大きくなっているというのが現状認識です。

羽生田:グローバルサウスの話が出ましたが、日本がアフリカとの関係を今後どう構築していくか、非常に注目しています。アフリカ諸国には、欧州や米国の言う通りにしていたら経済成長できなかったという思いがあります。こうした思いをアフリカが抱えていると意識しながら昨今の動きを見てみると、米国よりも中国のほうが、自由貿易の推進やWTO(世界貿易機関)ルールの順守など国際レジームにかなった発言をしているように見えます。もちろん実態はその通りではないとしても、アフリカ諸国がそれをどう見るかが、非常に気になるところです。

日本企業はアフリカとの関係構築を視野に入れるべき

小林:中国のWTOを含めた国際秩序や国際ルールへの関わり方でいうと、非常にうまいナラティブ(物語)を上手に展開しているなと思います。多国間主義、国際協調、つまり、みんなで良い世界をつくっていこうとの主張に対しては、誰も反論できません。

 しかし、その多国間主義の主張の裏を返せば、米国一強はよくないというメッセージです。欧米を中心としたグループと、中国・ロシアといったグループのどちらが仲間を多くつくれるかという競争において、中国は、欧米を中心としたスモールグループと、中国を中心にした大きな家族(ビッグ・ファミリー)という2項対立をうまく打ち出して、外交展開していると思います。

 アフリカは、人口も経済力も世界で最も伸びしろがあるエリアであり、それを踏まえて日本の外交や安全保障に関しても、中長期で考えていく必要があると思っています。2050年の姿を思い描いたとき、仮にG7をつくろうとすると、おそらくインドネシアやインドは確実にそこに入ってきます。2075年になれば、例えばゴールドマン・サックスのレポート「2075年への道筋」を見ると、GDP上位10カ国にアフリカの国(編集注:ナイジェリアやエジプト)がランクインします。

 そうなれば、今まで関係が薄く地理的にも遠い、だからこれからも関係を深めなくてもいい、というわけにはいきません。現在私は、党の日グローバルサウス連携本部の本部長を務めています。一口にアフリカといっても様々な国があるので、経済安全保障上、どの国が日本にとってどのような戦略的価値を持っているのか、詳細に分析する必要があります。

 例えば、ODA(政府開発援助)においても、アフリカ諸国の中には、重要鉱物など日本が必要とする資源を持っている国があるわけですから、戦略的な優先順位をある程度つけて、リソースを配分していく必要があると思っています。優先順位の高い国や地域については、それぞれの国が日本に対して何を求めているか、それに応えられるものが日本にあるか、マトリックスをつくって綿密かつ戦略的に支援を進めるべきだと、党から提言をしているところです。

 できれば国家安全保障会議(NSC)のような最高意思決定機関で、アフリカを含めたグローバルサウスへの関わり方をしっかりと決めて政府内で共有し、民間企業とも可能な範囲で大きな方向性を共有して、アフリカへの展開を図るべきだと思っていますが、残念ながらそこに達していません。

羽生田:日本の企業はこれまで、地理的に遠いアフリカを、ビジネスの相手としては優先度高く見てきませんでした。ただ、これから先の経済安全保障の観点でも、アフリカとのリレーションをつくっていかなければならないと考えています。

 国との経済連携には、バイ(2国間)とマルチ(多国間)がありますが、グローバルサウスとの関係づくりにおいて、日本のユニークな強みはマルチのノウハウです。日本は長年、東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済協力において、バイとマルチを同時に進めることで、マルチならではの意義ある取り組みを追求してきました。貿易円滑化だけでなく、新しい技術やビジネスの標準化などは、マルチ協力が有効になる領域です。

 ASEANと違って、アフリカ全域ではサプライチェーンがつながっているわけではありません。だからこそ、有益なマルチの枠組みを日本がつくれたときに、アフリカとの協力関係はとても戦略的なものになるのではないでしょうか。おそらくデジタルでつながることがポイントになると思います。

ルール形成力を高めるにはどうすればいいか?

小林:確かにバイだけではなくマルチの枠組みをうまくつくって活用していくのはいいアイデアだと思います。個別の国と関係をつくっていくことは重要ですが、アフリカの複数の国を巻き込んで、また、他の先進国を巻き込んでもいいかもしれません。そういう枠組みをつくれたら面白いですね。

 アフリカとデジタルという話が出ましたが、アフリカは人口が多く、これからも増加していくので、アフリカで生み出されるデータは本当に貴重です。そこで生まれるデータは当然その国の発展のために利用すべきですが、そこに日本が連携して関与していくことが極めて重要です。

羽生田:これから先の地政学におけるパワーのひとつは、ルールメイキングのリーダーシップです。小林議員とは、知的財産関連の検討でこれまでもご一緒させていただきましたが、日本のルールメイキングの新たな一手として国際標準戦略が重要とみられています。

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小林:国際ルールの形成では、数こそ力です。だから(27カ国が加盟する)EUは、いわゆるブリュッセル効果(編集注:EUの規制をEU域外の国や企業が自主的に順守することでグローバル・ルールとなる規範形成力)を発揮できるので、強いわけですよね。

 ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)なども、まさに数の力が働きます。技術やマネジメントの規格はいまや、経済安全保障にそのまま結びついていて、国際標準を決める場への日本の参画はとても重要です。同時に、技術や製品・サービスを認証する日本の機関が、海外に比べてとても小さく、競争力に欠けることには大きなてこ入れが必要でしょう。地政学や経済安全保障は、関税や補助金だけの話ではないのです。

米国による対中半導体規制、台湾有事リスク、欧州の気候変動規制、トランプ政権による関税強化など、地政学・経済安全保障に関するリスクが顕在化し、企業が振り回されるケースが年々増えています。本書は、地政学・経済安全保障リスクの必須知識と、ピンチをチャンスに変えるための具体的方策をまとめました。「守り」だけでなく「攻め」の経済安保対応を事例とともに解説します。

羽生田慶介著/日経BP/2750円(税込み)