ファイナンスの考え方では、最低でも資本コストを上回る儲けを出すことが、事業を実行するときに求められる。今回は資本コストの意味、資本コストとして使われるWACCの意味について、クイズ形式で解説していく。『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス』第6章からの抜粋である。
WACC、金利、リスク、借金の関係
[QⅠ]図表6-1は、資本コストとして使われるWACCの値に影響するポイントをまとめたものである。WACCに関係する3つの要素(国債金利の水準、リスク、借金の水準)に分けて、それが変化した場合の影響の方向性を示している。WACCの高低は、それぞれの要素の高低とどう関係するだろうか。図の中の空欄(?)の中に「高い」「低い」のどちらが入るか、考えてほしい。このクイズは、ファイナンスの基本を理解できていれば、ある程度イメージできるはずである。
資本コストとは何か?
資本コストとは企業が調達している資金のコストのことである。逆にいうと、企業に資金を提供している銀行や社債の保有者、また株主が、企業に対して期待し要求している儲けのことである。
具体的には、借りた資金については、金利の支払いが必要になるので、その金利がコストになる。ただ、利益が出ている会社の場合、金利を支払うとその分だけ利益が減り、税金が安くなる。そうすると、実質的には、金利から、それを支払うことによる節税分を差し引いたものが借りた資金のコストになる。
次に、株主から預かった資金のコストは、株主が期待(要求)しているだけの儲けを上げる義務のようなモノになる。具体的には、株主にとっての儲けは配当と株価の上昇の合計になる。ただ、企業側から考えると、実際に配当を支払い、株価を上昇させるには、そのベースとなる当期純利益を十分に生み出す必要がある。
逆に、十分な当期純利益が生み出せないと、配当が十分に支払えず、株価も下落してしまい、株主は期待しているだけの儲けが得られないことになる。その結果、一部の株主が株を売却してしまう可能性も出てくる。つまり、多くの株主に継続して投資をしてもらい、株価を維持し上昇させていくためには、株主が期待し、要求しているだけの十分な当期純利益を生み出していくことが必要になる。
株主から資金を集める場合のコストというと、実際に株主に支払う配当が思い浮かぶかもしれない。ただ、配当はコストの一部であり、株主が配当と株価の上昇の合計で儲けを考えていることを考えると、その両方のベースとなる当期純利益を生み出すことが必要になる。つまり、当期純利益を株主が期待している水準で生み出すことをコストと考えるのである。
WACCとは何か?
資本コストを具体的に計算する手法の代表的なものがWACC(Weighted Average Cost of Capital、ワック、加重平均資本コスト)である。
WACCは、借入金や社債など借りたお金のコスト(金利がベース)と、株主から集めた資金のコスト(株主が求める儲けがべース)をトータルで考えて、資金を集めるときのコストとして計算したものである。具体的には、借りた資金と株主からの資金のコストを計算した上で、それぞれの大きさをもとに加重平均していく。そのため、資本コストに加重平均という言葉がついている。
WACCは2つの場面で使うことが多い。
1つはこれから行う事業投資を評価する場面である。具体的には、前章で解説したNPVを活用する中で将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く時の割引率として使ったり、IRRを使って評価を行う際のハードルレートとして使うことになる。
もう1つは、毎年の業績評価をする場面である。具体的には、毎年の業績評価の中で、事業に投入した資金に対する利益率を意味するROIC(投下資本利益率、後述)を活用する中で、その最低ラインの基準として使うことになる。
なお、WACCはまずは企業全体として計算することが一般的であるが、その上で事業分野や地域によってリスクに違いがある場合は、それを考慮して事業部門別や地域別に算出することもある。また、ROICを活用する場合も、部門別や地域別にROICを計算し、それぞれのWACCと比較した上で、部門別の業績評価や事業の継続判断などに使うこともある。
WACCの高さに影響するポイントは何か?
WACCの水準の高さは、基本的には3つの要素で決まる。
1つ目は国債の金利である。まず各企業の借入金や社債の金利は、通常、国債の金利の高さを基準にして、企業の信用力やリスクなどに応じて決まっていく。そのため国債の金利が高くなると、企業の借りた資金の金利も高くなる。また、株主も国債の金利を最低基準の儲けと考え、それにリスク分を加えた分だけ儲けたいと考えている。したがって、国債の金利が高くなると最低基準の儲けが高くなるために、株主が企業に対して期待・要求する儲けも高くなる。つまり、国債の金利が高くなるほどWACCは高くなり、逆に低くなるほどWACCは下がることになる。
2つ目はリスクの高さである。まず各企業の借入金や社債の金利は、事業業績などのブレが大きく事業のリスクが高い場合や、借りた資金が多く財務的にリスクが高い場合は、一般に上昇していく。また、株主が企業に対して期待・要求する儲けも、事業や財務のリスクが高くなるにつれて高くなっていく。結果として、リスクが高くなるほどWACCは高くなり、逆に低くなるほどWACCは下がることになる。
3つ目は借りた資金の大きさである。まず借りた資金については、金利を支払うとその分だけ利益が減り、税金が安くなるので、実質的には、金利から、それを支払うことによる節税分を差し引いたものがコストになる。通常、借りた資金の金利はそれほど高くはないため、その節税分を差し引いた借りた資金の資本コストは一般に低くなっている。
一方で、株主からの資金の資本コストは、株主が期待しているだけの儲けを確保することである。一般に株主にとっての儲けは、配当や株価の上昇分といった業績次第で変動してしまうという意味でリスクがある。また企業が破綻した場合にも株主は最後にしか請求権がないというリスクが高い状態に置かれている。したがって、株主の期待している儲けは、そのようなリスクの高さに見合う分だけ高くなっている。結果として、株主からの資金のコストのほうが、借りた資金のコストよりもかなり高くなっていることが普通である。
そのため、2つのコストの加重平均であるWACCは、借りた資金の比重が大きくなるほど低くなり、逆に借りた資金の比重が小さくなるほど高くなることになる。
まとめると、国債金利が低く、リスクが低く、借りた資金の比重が大きい場合にはWACCは低くなり、逆に、国債金利が高く、リスクが高く、借りた資金の比重が小さい場合には、WACCは高くなることになる。したがって、冒頭のクイズ[QⅠ]の解答は次の図のようになる。
西山茂(著)/日経BP/2420円(税込み)


