固定費・変動費による分析は、価格の設定やコスト構造の改善など、重要な経営判断をする際に知っておくべき重要なポイントである。また、事業投資プロジェクト評価の際に、費用や利益を予測するためにも活用できる。例題として、『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス』第4章で出題したクイズとその解答を抜粋する。

値上げをして販売数量が減少した場合、利益はどうなるか?

 財務諸表が読めるようになったら、次は財務数値を向上させるための具体策を検討する方法を理解することが重要である。業績向上に向けて、どんな手を打つと、どういう結果になりそうか、数字を使って想定し、方向性の検討に活かしていくのである。次のクイズは、そのような検討の例である。

[QⅠ]コストアップの中で、値上げの検討をしている場合を考えてほしい。価格を10%値上げして、その影響で販売数量が15%下がった場合、利益はどうなるだろうか? 前提として、原価と販売管理費の合計の50%が変動費、残りの50%が固定費で、営業利益率が10%の場合で考えてほしい。

[QⅡ]経済環境や外部環境の変化が激しくなる中で、大きく販売数量が減少する可能性が出てきている。そのような事態が発生した場合に業績の悪化を少しでも抑えるためには、日頃からコスト削減を徹底しておくことが対応策の1つと考えられる。コストを変動費と固定費に区分して考えた場合、どちらのコストをより積極的に削減しておくことが望ましいだろうか。

[QⅠ]の答え

 10%値上げをして販売数量が15%低下した場合、売上高は「単価1.1倍×販売数量0.85倍=0.935倍」となり、6.5%減少してしまう。売上高が減少するのであれば、単純に考えると利益も減少してしまうように考えられるが、どうであろうか。前提に従って簡単にシミュレーションしてみよう。

 仮に、単価が10,000円で、販売数量が100個、売上高1,000,000円の場合を考えてみる。前提に従って営業利益を10%とすると100,000円となり、結果として原価と販売管理費からなるコストが合計で900,000円となる。また、コストの50%ずつがそれぞれ固定費と変動費なので、それぞれ450,000円になる。なお、変動費の合計が450,000円で販売数量が100個ということは、1個当たりの変動費は4,500円となる。これをもとにPLを作成すると、図表4-4の左側のようになる。

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 これを前提に、価格が10%上昇して11,000円になり、販売数量が15%減少して85個になった場合のPLを作ってみよう(図表4-4の右側)。まず売上高は、11,000円×85個=935,000円となる。変動費は、1個当たり4,500円×85個=382,500円になる。固定費は変化がないので先ほどと同じ450,000円となる。その結果、費用の合計は382,500円+450,000=832,500円となる。これを売上高935,000円から差し引くと、営業利益は102,500円(=935,000円−832,500円)になる。もとのPLの営業利益100,000円よりもわずかではあるが増益となっている。

 つまり、一定比率で値上げをして販売数量がそれを上回る比率で落ち込み、売上高が減少しても、利益は増加しているのである。

 このような結果になった理由は、以下のように考えられる。

 まず、価格の値上げは、基本的に売上高が増加する分だけ、そのまま利益の増加につながる。一方で販売数量の減少は、売上高を減少させるのと同時に変動費も減少させるので、利益の減少は比較的小さくなる。結果として価格の値上げ効果のほうが販売数量の減少の影響を上回ることになり、利益は増加するのである。

 もちろん、これは価格の引き上げ幅や販売数量の減少幅、また変動費や固定費の構成比率や利益率などによっても変化する可能性がある。ただ、この結果は、販売価格の値上げは、それが一定の販売数量の減少につながったとしても、利益を高める可能性が高いことを意味している。

 一方で、逆のケースで考えると、一定比率の販売価格の値引きをした場合、それによって同じ比率程度の販売数量の増加があったとしても、利益が低下してしまう可能性が高いことも意味している。つまり、値引きをした場合は、かなりの販売数量の増加がない限りは、利益の減少につながる可能性が高いのである。

[QⅡ]の答え

 販売数量の減少に備えて、変動費を削減した場合と固定費を削減した場合を比較してみよう。このときの考え方は、Q4-2で説明した「変動費の比重が高い場合」と「固定費の比重が高い場合」のどちらのコスト構造を選ぶかということと重なる。それでは、具体的に計算してみよう。[QⅠ]の前提をそのまま使い、変動費を20%削減した場合と固定費を20%削減した場合とを比較してみる。

 図表4-5にあるように、変動費を20%減らした場合は、売上高は1,000,000円で変化していないが、変動費は20%減少し360,000円となる。固定費は変化していないため、結果として営業利益は変動費の削減分だけ上昇し、190,000円となっている。なお、この場合は変動費を削減したため、1個当たりの変動費は3,600円に低下している。

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 一方で固定費を20%減らした場合は、売上高と変動費に変化はないが、固定費が20%減少して360,000円となっている。その結果、営業利益は固定費の削減分だけ増加し、上記と同じく190,000円となっている。なお、この場合、変動費は削減していないので、1個当たりの変動費は4,500円のままである。

 全体として見ると、いずれの場合も、同じ金額である変動費と固定費をそれぞれ同じ比率で削減しているので、コスト削減金額、結果としての営業利益額は同じになっている。

 これをベースに、販売数量が20%減少して80個になった場合の営業利益を計算してみよう。

 売上高はどちらの場合も20%減少し、800,000円となる。変動費を20%削減した場合をみると、変動費は80個×1個当たり変動費3,600円=288,000円となる。固定費は前提と変わらずの450,000円となり、結果として営業利益は62,000円となる(800,000円−288,000円−450,000円=62,000円)。

 一方で固定費を20 % 削減した場合は、変動費は80個×4,500円=360,000円となっている。固定費は20%減らしているので360,000円となり、結果として営業利益は80,000円となる(800,000円−360,000円−360,000円=80,000円)。

 この結果を見ると、固定費を20%削減した場合(利益80,000円)のほうが、変動費を20%削減した場合(利益60,000円)よりも利益は多くなっている。つまり、同じ20%のコスト削減でも、変動費よりも固定費を削減した場合のほうが、販売数量が減少した時により多くの利益を確保できている。

 このような結果になっている理由は、以下のように考えられる。

 変動費を20%削減した場合は、Q4-2で説明した「固定費の比重が高い場合」と同じようなコスト構造になっているので、販売数量が減少してもコストがそれほど減らず、より強く利益を減少させてしまう。一方で固定費を20%削減した場合は、Q4-2で説明した「変動費の比重が高い場合」と同じようなコスト構造になっているので、販売数量が減少してもそれに合わせて変動費もそれなりに減少するので、利益の減少幅はやや小さくなってくる。

 もちろん、この利益の減少の大きさの違いは、販売数量の減少幅、また変動費や固定費の構成比率や利益率などによって変化する可能性はある。ただ、一般に、固定費を削減したほうが、販売数量が減少した時に利益の減少を抑えられる。つまり、販売数量の減少に備えるためには、岩盤のような固定費を減らすことがポイントになるのである。

(写真:takasu/stock.adobe.com)
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西山茂(著)/日経BP/2420円(税込み)