日本人は英語が苦手とよく言われるが、本当なのか。なぜなのか。認知科学者の今井むつみ氏が、AIを活用した新しい英語学習法を提案する新刊『 アブダクション英語学習法 認知科学者がAI時代に伝えたい独学の技法 』(日経BP)から抜粋してお届けする。

2023年に実施された「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」は、日本全国の英語教育関係者に大きな衝撃を与えました。
全国学力テストは毎年実施されていますが、中学校で英語の調査(テスト)が行われたのはこの年が2度目、2019年以来、4年ぶりのことでした。その結果があまりにも振るわないということで、衝撃が走ったのです。
調査対象になったのは、中学3年生。公立・国立・私立の9702校から92万人以上の生徒が、このテストを受けました。かなりの規模です。
英語の問題は「聞く、読む、書く、話す」の4技能に分けて、出題されました(* )。英語の先生たちがショックを受けたその正答率を、2019年の結果と比べて、見てみましょう。
【聞く】 正答率58.9%
2019年から9.4ポイントダウン
【読む】 正答率51.7%
2019年から4.5ポイントダウン
【書く】 正答率24.1%
2019年から22.3ポイントダウン
【話す】 正答率12.4%
2019年から18.4ポイントダウン
文部科学省は、英語教育について「聞く、読む、書く、話す」の4技能をバランスよく伸ばそうという方針を打ち出しています。しかし、見ての通り、「話す」の平均正答率が12.4%と突出して低く、これは問題だ、ということになりました。
そうはいっても、その他の「聞く」「読む」「書く」の正答率も軒並み低く、褒められた数字ではないことも認めざるを得ません。
やっぱり日本人は英語が苦手なんだな、特に話すのは、すごく苦手なのだな、ということがよくわかります。
4年前と比べて平均点が大きく下がったことから、「今回は問題が難しすぎた」という声も上がりました。「コロナ禍の影響」という分析も聞きますが、どうなのでしょう。
英語の授業は増えたのに
日本の小学校では近年、英語の授業が増えています。
2011年に5年生、6年生の「外国語活動」が必修化され、週1コマ(年間35コマ)の授業が始まりました。最初は「音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動」「コミュニケーション能力の素地を養うことを目標とする」といった位置づけで、簡単な英会話を中心とした緩やかな内容でスタートしました。
2020年には3年生、4年生でも「外国語活動」が必修となり、それと同時に5年生、6年生では英語が「教科化」され、通知表に「外国語」の成績がつくようになりました。
今では小学3、4年生は週に1 コマ、小学5、6年生は週に2 コマ、英語の授業を受けています。
2023年に全国学力テストを受けた中学3年生は、小学6年生のときには、すでに週2コマの英語の授業を受けていたはずです。それだけの時間を英語に費やした子どもたちの英語力が向上していないのではないか、もしかしたら下がっているかもしれない、ということですから、教育関係者にとっては非常にショックなことです。
小学校から英語を必修にしたことで、現場の先生たちには大変な負荷がかかっています。小学校の先生たちも大変ですが、中学校の英語の先生たちも悲鳴を上げています。
小学生が「英単語700 語」を習得できるか?
例えば、「小学校700語問題」。これは小学校で習った英単語の約700語が、中学校1年生の教科書で「既習」として扱われる問題です。
小学校の英語の授業は、もともと「音声によるコミュニケーション」を重視して始まったこともあり、英単語の「暗記」にはそれほど力を入れてきませんでした。そのため、子どもたちは英単語700語を「習った」といっても、その知識が定着しないまま、中学校へ進学します。
それなのに、子どもたちが英単語700語を「習得している」という前提で、中学校のカリキュラムがつくられ、授業をすることになっています。
しかも、ここにおいて、英単語を「暗記している」ことが「習得している」ことに置き換えられてしまっています。つまり、英単語の「暗記」が「生きた知識」として身についたこととイコールだとみなされ、子どもたちは、中学校に入学した時点で、英単語700語を「自由に使いこなせるはず」だとされてしまっているのです。
これでは、先生たちから悲鳴が上がるのも当然です。
英語嫌いが増えている
それ以上に大変なのは、子どもたちです。覚えていない単語を、覚えていることにされた状態で、中学1年生の授業がスタートするのです。その結果、多くの子どもたちが英語に挫折し、英語が嫌いになってしまいます。
実際、英語嫌いの中学生が増えていることを、2023年の全国学力テストは示唆しています。テストと一緒に実施されるアンケート調査(質問紙調査)で、生徒たちに「英語の勉強が好きですか?」を尋ねています。それに対する回答は、次の通りです。
【英語が好き】 25.5%
2019年から3.7ポイント減少
【英語が嫌い】 22.1%
2019年から2.4ポイント増加
英語が好きな生徒が減り、英語が嫌いな生徒が増えると同時に、英語の問題の正答率が下がったというのが、2023年の全国学力テストの結果です。小学校から始まる英語の授業の負荷が重すぎて、子どもたちの気持ちが英語から離れ、知識の定着にもマイナスに働いているという可能性は考えられないでしょうか。
この全国学力テストの結果は、子どもだけの問題ではありません。日本人全体の英語力に関わる、いくつもの重要な問題を浮き彫りにしています。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2026年3月27日付の記事を転載]
今井むつみ(著)/日経BP/1980円(税込み)
