その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は古野俊幸さんの『 宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを伸ばす部下、つぶす部下 』です。
【はじめに】(本書の考え方)
上司と部下との不幸なすれ違いをなくし
お互いに成長できる関係性を築く
「上司は部下をどう導けばいいのか」という議論が盛んです。しかし、人間関係は必ず双方向です。部下は上司に影響を受け、そして上司も、部下に影響を受けます。関係性が良ければ部下だけではなく上司も大きく成長しますし、悪ければ上司がつぶれることもあります。強い組織をつくるマネジメントは「上司と部下」の両方で考えることが必要です。
しかし、ただでさえ忙しい現場を支えるマネジャーにはこれはなかなかの難問です。
しかも、最前線の現場マネジャー(一般的には「課長職」)は、「プレイヤーとして優秀であった」ことから『マネジャーになった人たち』。つまり、人のマネジメントに長けた人ではないケースがほとんどです。
あるメーカーの開発部門の課長が、こんな話をしてくれました。
「私は昔から人付き合いが苦手でした。機械いじりが好きだし、あまり人と関わらなくて済むと思ってエンジニアになりました。しかし、気がついたら部下を持つ立場になってしまったのです。部下とどう接すれば良いのか、不安な毎日です」。
これまで、数万人の現場マネジャーと会う機会がありましたが、「現場の仕事だけでなく、人のマネジメントもできそうだな」と思えた人は、2割程度でした。残念ながら約8割は、頑張ろうとされているのでしょうが、未経験の人のマネジメントで悩んでいたり、手探り状態で悶々としているのが現状なのです。
部下側の人たちは「上司は選べない」ことを「上司ガチャ」と揶揄(やゆ)しているようです。でもマネジャー側にとっても「部下は選べない」ことがほとんどです。それなのに、風向きは上司側に厳しいのです。人をマネジメントするという「負荷」「責任」のほとんどは、現場マネジャーが担っている。そう言っても過言ではありません。だからこそ、少しでも救いたいと、今回の企画になりました。
人の行動原理を5つの因子で読む
この本でご紹介するFFS理論(開発者は小林惠智博士)は、TOPPANホールディングス、レゾナック、ポーラ・オルビスホールディングス、リクルートグループ、マネーフォワードなど、延べ約900社で導入されている、人の個性を科学的に分析し、組織作りやチーム運営を支援するためのツールです。「その人にとって何がストレスになるか」に注目し、ストレスの原因を5つの因子(「凝縮性(A)」「受容性(B)」「弁別性(C)」「拡散性(D)」「保全性(E)」)に分けて、その高低とバランスで診断します。
最も高い因子(第一因子)の特徴が強く出ますが、第二、第三因子の影響も重要になります。複数の因子が拮抗することもあります。とはいえ人の行動原理は、ほぼこの5つの因子の相関で説明できる、というのがFFS理論の考え方です。
5つの因子の高低とバランスが、その人の生活態度、仕事への姿勢、コミュニケーションの取り方、勉強の仕方などに影響を与えている、とご理解ください。「何をやっているとストレスをいいほうに受け止めてのびのび活躍できるか(ユーストレス状態)」「どんな環境にいるとストレスを悪いほうに受けて、不安を感じたり、興味を失ったりして、パフォーマンスが落ちるか(ディストレス状態)」は、人によって違い、その違いがその人の行動原理となり、思考・行動のパターンをつくります。
例えば、こつこつと一つのことを積み重ねるのが好きな人もいれば、気分次第で脈絡なく、いろいろやってみたい人もいます。
「正解がないほうが楽しめる」人もいれば、「正解を提示されたほうが安心」という人もいます。自然にやってしまう〝思考のクセ〟なのです。それは得手であり、強みや持ち味とも言えます。当然、得手を活かすほうが何事も上手くやりやすい。
しかし、私たちは社会の中で生きています。ということは否応なく、自分とは行動原理が異なる他人との関わりが生まれます。
問題は、我々人間は自分の行動原理を「世の中で最も一般的なものであり、他の人もほとんど同じはず」と考えてしまうことです。
実際には行動原理にはズレがあります。例えば、物事に取り組む際に「好きか嫌いか」を重視する人もいれば、「合理的かどうか」に重きを置く人もいるでしょう。重視するポイントが異なる人が一緒に同じ物事に取り組むと、そこにはどうしても誤解や「あいつのやることは分からない、おかしい」という不信感が生まれがちです。
行動原理の違いが「悪意」と受け取られる悲劇
行動原理が違う人が一緒に働く場合、立場が平等な同僚ならばまだ逃げ場もあるのですが、問題は上司と部下のような、上下関係がある場合です。
上司は、自分の行動原理にマッチした成功パターンをよかれと思って部下に教えようとしますし、自分だったらこう扱われたい、というやり方で部下に接します。同じタイプの人間同士ならば問題は起こりにくい(なので、新人のチューター役は同じ因子が高い人が向いています)のですが、行動原理がまったく食い違う組み合わせも存在します。
上司は、自分の教えをはねつける部下に困惑し、部下は、自分には理解できないやり方を押し付けてくる上司に反発します。パワハラ、逆パワハラが生まれかねませんし、最悪なのは、「理解できない」という気持ちが「相手が自分に悪意を抱いているから、こんなことをするのでは」という恐れ、不安に転化してしまうことです。
職場での人間関係の悩みやトラブルが絶えないのは、ここに大きな原因があると私は考えています。行動原理の食い違いが「悪意ゆえの反発・押し付け」と誤解されるのです。ちなみに、ちょっと古いのですが、厚生労働省の「労働者健康状況調査報告」(2012年)では、41.3%の人が「職場の人間関係」をストレスの原因に挙げていました。
そこで、もしムッとすることがあったら「この人は、おそらくこういう行動原理で動いている。だから自分のやりたいことと食い違いが起きるのだ」と理解し、「この人の行動原理からすれば、こういう言い方をすれば理解の糸口になりそうだ」と考える。ここから対話への一歩が始まり、誤解が解け、組織が正常に機能します。自分の行動原理を理解し、相手の行動原理を見抜き、その上でアプローチするわけです。
うまくいけば、お互いの苦手なところを相互に補い合う理想的な補完関係もつくれます。
上司と部下で考えると、組織のために先に変化を起こすのはやはり上司の側の役割というものでしょう。この本では、上司であるあなたがまず自分の個性を診断し、その個性が部下からどう見られがちか、それぞれの行動原理を持つ部下とどう付き合い、お互いの特徴を伸ばしていけばいいのかを具体的に紹介しています。
日頃の振る舞いから個性を分析するチェックシートを用意
「そうは言っても、彼/彼女がどんな個性なのか分からない」ですよね。そこで46ページに、「外部観察」による診断が可能になるチェックシートを用意しました。簡易なものですが、十分、手がかりになると思います。
そしてもし可能ならば、部下の方にもFFS理論の診断を受けてもらって、ざっくばらんに腹を割って話すことをお勧めします。自分と部下は「似ているのか・いないのか」「弱点を補完しやすいのか・しにくいのか」を把握し、相手の個性に合った育成法や動機付けの方法を学んでいただくことで、ミスコミュニケーションを減らし、部下の、そして自分の持ち味を引き出すことができるはずです。それは自分の成長にもつながります。
もちろん、あなたが部下の側でも、自分から行動を起こすことは可能ですし、この本をそのように使って頂けたらとても嬉しく思います。
十人十色、と、私たちは昔から知識としては知っていて、自らを戒めてきました。しかし同時に我々は、根拠もなく「自分の色は一般的」と思ってしまう生き物でもあります。自他共に認める数々の一流企業が、FFS理論を自己理解、コミュニケーション改善、人材育成、チーム編成に活用しているのは、それほど「自分の色は一般的」という思い込みが強固かつ広く社会に根を張っている、ということでしょう。そこから脱出し、あなたとあなたの周囲を、笑顔があふれ、後輩が育ち、成果を挙げる組織にしていく一助となれば、これに勝る喜びはありません。
異質な出会いが力を生み、たいまつを引き継ぐ
小山宙哉さんの『宇宙兄弟』とのコラボレーションもこの本で3冊目となりました。5つの因子の特徴を理解しやすくお伝えするために、小山さんの鋭い人間観察と演出力に基づくこのコミックはまたとないものです。例えば中盤、物語を支えるキャラクター3人(宇宙飛行士のビンセント、技術者のピコ、そして主人公ムッタ)が、拳(こぶし)を打ち合わせるシーンがあります。ここでムッタは、事故で早世したビンセントとピコのかけがえのない親友、リックの位置に立ちました。そして拳の痛みを通し、彼らが培ってきた情熱と、渡された責任を実感します。
ビンセントもピコも付き合いやすい上司ではなく、ムッタはできのいい部下ではありませんでしたので、叱責(しっせき)も低評価もくらいました。それでも時間を掛けて彼らは、相互に補完し合い、ムッタだけでなくビンセント、ピコも大きく成長して、宇宙への熱意というたいまつを支え、引き継ぐ、信頼し合える仲間になったのです。
異質な人同士による補完と成長。これこそがFFS理論の最大のテーマだと思います。『宇宙兄弟』の物語には、こうした人間同士の素晴らしい関係性があふれています。ぜひ皆さんも楽しんでください。
なお、本書を購入していただいた方への特典として、FFS理論による個性診断(宇宙兄弟バージョン)ができる特設サイトを設けています。18ページの解説に従ってお試しください(企業向けに提供している正規版とは異なりますことをご了承ください。ご勤務先などですでに診断を済まされている方は、ご自身の結果を見ながら本書を読んでいただければ、より理解が進むと思います)。また、今回の本は上司と部下との関係性について紙幅を割いています。個々のタイプについてより深く理解されたい場合は、本書と重複する箇所もありますが、『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』『同 あなたを引き出す自己分析』をご覧ください。
【目次】




