その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は前野剛さんの『 超高周波・パワエレ時代にノイズトラブルを防ぐ EMC設計 』です。
【はじめに】
電子機器が存在すれば、大なり小なり必ずEMC問題が存在する。例えば、指先で軽く触れるだけで反応する電子スイッチが外来電磁波によって勝手にオンにされ、その機器が勝手に動作し始めたり止まったりすることがあり得るというような困った問題である。こうしたことは電子機器が半導体を使用することに多く起因し、製品設計においては必ず考慮しなければならない問題である。
ここでEMCとはElectromagnetic Compatibility(電磁両立性)の略であり、その意味するところは「許容できない電磁妨害波を他に与えず、使用される電磁環境において満足に機能する機器・装置・システムの能力」のことである。
このたび日経BPより電子機器のEMC対応設計に関する執筆依頼を頂いた。しかも、その内容においては「大学の工学部電気系学科の学生から見てハードルが高過ぎず、企業の新人教育にも使用でき、かといってベテランの技術者諸氏から見ても物足りないことのないようなものを」という、大変欲張った難しい注文である。さらに、教科書のように体系的なものという、果たして筆者の力量で執筆できるのかという大層なシリーズの一環でもある。
これに対してまず思ったことは、大学時代にお世辞にも出来が良いとはいえなかった筆者が、工学部電気系の学科を卒業後に、企業で電子機器の設計に携わるようになった時のことだ。学生時代には、電磁気学や電気回路学の科目の中でも難しくて授業についていけず、こんな抽象的な概念など、どうせ電子回路の設計にはほとんど関係ないだろうと勝手に解釈していた。ところが、新製品開発を行う過程において、取りこぼした項目の多くが思いがけずEMCに直結していたのだ。いわば学生時代に不勉強であった部分から今頃になって報復されているのがEMC問題であるように感じたことを、まずは正直に告白しておこう。
従って、まずはEMC入門者から前記ハードルを何とか取り除いた上で、昔から参考にされてきた「設計慣習」などのうち、現在および将来のEMC環境においてふさわしくないと思われる事項をできる限り取り上げ、筆者なりの体験に基づいた事柄にできる限り実事例と実験事例を引き合いに出して、EMC問題を起こしにくい電子機器の設計全般について、普遍的に解説することを試みたのが本書である。
ということで、本書は理論書ではなく実務書として執筆したということを最初にお断りしておきたい。しかし、ここに出てくる実事例や実験結果については原則として、全てに考察を加えて、読者の腑に落ちるように意識したつもりである。これらにより、EMC初心者のハードルをいくらかでも低くすると共に、ベテラン技術者にも参考にしていただけそうな部分も多く含めたつもりである。
本書は以下の構成によって成り立っている。
第1章は、「EMC問題とは何か」から始め、各種EMC規格について簡単に触れて、民生機器から自動車用機器のEMC環境の概要と動向について解説している。
第2章は、ノイズ源となる信号の基礎、および、電子機器単体からシステム化に至る過程において、EMC設計のポイントとなる事項をまとめている。ここでは高周波ノイズ電力の伝送を、電磁場を基調として、これがEMC設計の全てにつながる基礎となることを示して、アンテナなどを設計するわけではないということ、そして、EMCの場合には放射源としての機構がより複雑であるため、計算よりも直感的に理解することの方が重要であるという考えの基に記述した。
第3章は、電子機器内部の重要部品である回路基板のEMC設計について記載した。信号配線パターン間の電磁誘導結合と電界結合が基板内でのノイズの拡散~基板外の配線への流入出雑音電流に及ぼす影響などを中心に述べている。また、漠然としたグラウンドパターンのイメージを電気的に具体的に明らかにしたつもりである。
第4章は、シールド筐体の形状や回路グラウンドとの電気的接続について、必要と思われるポイントについて述べている。またシールドや電磁波吸収シートの使用の良否についても考察する。
第5章は、回路基板を金属筐体内部に装着する際において、回路基板グラウンドの金属筐体への電気的接続がEMC性能に及ぼす影響について記載している。回路グラウンドの接地処理がいかに重要であるかを感じていただければ幸いである。
第6章は、電子機器間をワイヤハーネスで接続してシステム化したときに起こり得るEMC問題と対策事例の概要について述べている。
第7章は、前記ワイヤそのものの電磁遮蔽の原理と遮蔽性能、特にシールド線の内外部導体分離部分の及ぼす影響について示し、また、よく話題になる外部導体の1点接地から多点接地について取り上げている。
第8章は、読者の興味の対象になると思われる個別事項について一部概略を記述する。加えて、設計の進め方とEMCの設計審査(DR:デザインレビュー)についても、筆者なりの考えと経験に基づいて取り上げている。
これらの内容においては、筆者の技術者としての生い立ち上、具体的な事例などは自動車用電子システムを多く引き合いに出している。そこに違和感を持つ人もいるかもしれないが、自動車用電子機器が特殊というわけではなく、基本的な原理や考え方の大部分は他のジャンルの電子機器の場合と何ら変わることはないと思っている。
また、逆に、他ジャンルの一般電子機器に存在していながら見過ごされてきたような技術的な課題も、自動車用としてレビューすることによって、改めてはっきりと姿を現す部分も少なからずあるのではないかとも思う。
以上の内容であるが、浅学菲才な筆者のこと故、思わぬ誤りなどがあるやもしれず、その場合には読者諸賢よりのご指摘、ご叱責をお願いする次第である。
前野 剛
【目次】



