その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はリナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン(著)、吉見・ホフストラ・真紀子(訳)の『 オランダ人のシンプルですごい子育て(日経ビジネス人文庫) 』です。
【はじめに】
ある日の公園でのすてきな1コマ
2、3歳の子どもが2人、ジャングルジムのてっぺんによじ登ったかと思うと、今度はどちらが先に降りられるかと競争している。穏やかな陽だまりの中で、お母さんたちはその近くのベンチに座って、カフェラテを飲みながら会話に夢中になっている。
少し離れたところでは犬がワンワン鳴き、ベビーカーを押すおじいちゃんにくっついて、小さな男の子がキックバイクにまたがっている。若いお母さんが3人乗りの自転車に、赤ちゃんを前に、2、3歳の子を後ろに乗せてバランスをとりながらゆっくりと走っている。そのお母さんをジャージを着た年長の子どもたちが追い越していく。
芝生では2人の女の子がボールを投げ合い、その真ん中で別の女の子がボールをキャッチしようとしている。彼女たちの楽しそうなキャッキャという声が、その場の空気を和やかに満たしていた。でも、この公園の中には子どもに付き添って監視するような親は、どこにも見あたらない。
まるで絵に描いたような幸せな光景だが、べつに映画の一場面というわけではない。春が訪れたばかりのある水曜日の昼下がり、アムステルダムのフォンデルパーク公園でのごく普通の見慣れた光景だ。
オランダの子どもは、世界一幸せ
2013年のユニセフ調査で、オランダの子どもは世界で一番幸せな子どもであると発表された。この調査によると、先進国29か国の中で、オランダの子どもたちは、幸せな子ども時代を過ごしたかどうかという点で突出しているという。同じ調査では、イギリスは16番目、アメリカは26番目だった。ちなみにこの順位は、調査対象となっている国のうち、最貧国といわれるリトアニア、ラトビア、ルーマニアのちょっと上という残念な結果だった(訳者註:同様の条件下で日本を調査したところ、日本は総合6位と発表されている)。
この調査は、①物的幸福、②健康と安全、③教育、④日常生活上のリスク、⑤家族と環境、という5つの分野で行われたが、オランダの子どもたちは、いずれの分野でもトップ5に入っていた。そのうえ、③教育、④日常生活上のリスクという2分野においては、オランダが最上位という結果が出たのである(ちなみにイギリスはこの分野で24番目だった)。
オランダでは、じつに95%以上の子どもが自分自身が幸せであると認識していた。児童の貧困根絶と、低所得層の子どもの生活改善に取り組むイギリスチャリティー団体である「英国子どもの貧困根絶アクショングループ(Britain's Child Poverty Action Group)」や世界保健機関(WHO)など、いくつかほかの調査結果を見ても、同じような結果が出ている。オランダが子育てをするには間違いなく良い国であると強調されているのである。
2007年に行われたユニセフの補足調査でも、オランダは幸せな子ども時代を過ごすには、もっとも良い国であると賞賛された。ちなみにこの補足調査でイギリスとアメリカは、またもや最下位と最下位から2番目という順位だった。
また、ある最新の調査では、オランダの赤ちゃんは、アメリカの赤ちゃんよりも幸せであるということが示唆されている。アメリカとオランダの赤ちゃんを比較すると、オランダの赤ちゃんの方がよく声を出し、ニコニコと笑い、抱きつくなどのスキンシップを好む。アメリカの赤ちゃんが不安や悲しみや不満な様子を見せた場面でも、オランダの赤ちゃんはすぐに落ち着いて安心した様子を見せた。
心理学者たちは、こうした違いが生じるのは2つの国の子育てに関する文化的、社会的慣習の違いだと言っている。そして、この意見に対して異論を唱えた人が今のところいないことに、私たち自身がとても驚いている。
私たちは、オランダ人の男性と結婚したアメリカ人とイギリス人の母親だ。つまりオランダの中ではいわゆる外国人である。私たち外国人の目から見ると、オランダの子どもたちがいかに幸せであるかを感じずにはいられない。
前述のような公園でのありふれた光景の中にも、イギリスやアメリカでは否定されていた子どもの自由をオランダの子どもたちが大いに満喫し、すくすくと成長していることを想像できると思う。
オランダの子どもがイギリスやアメリカの子どもと比べて、どんなところが違うのか、いくつか挙げてみよう。
- オランダの赤ちゃんはよく眠る
- オランダの子どもは小学校での宿題がほとんどない
- オランダの子どもは自分たちの話をきちんと聞いてもらえる
- オランダの子どもは保護者と一緒でなくても外でのびのびと遊べる
- オランダの子どもは家族と一緒に定期的に食事をとっている
- オランダの子どもは両親と過ごす時間がたくさんある
- オランダの子どもはお古のおもちゃでも楽しみ、小さな幸せを感じることができる
- そして……、大事なことを1つ言い忘れていた! オランダの子どもは、朝食のパンにチョコレートふりかけ(「hagelslag」ハーゲルスラッグという)をかけて食べる
反抗期のないオランダの子どもたち
オランダの子ども時代は、自由にのびのび遊ぶことができ、勉強に関するストレスが少ないようだ。だから、オランダの子どもはいつも元気で生き生きとしている。
はじめてオランダの子どもに会った人は、もしかしたら無愛想だと感じるかもしれない。でも、よく知ってみると、とても社交的で、親しみやすく、おしゃべり好きで、悪意がなく、正直者で素直だとわかる。そして、オランダの子どもは面倒見がいい。何事にも自分から率先して取り組もうとする。それに自分たちで楽しむ方法をきちんと知っているので、大人にかまってもらえなくても気にしない。
ここで1つ、誤解のないよう断っておきたい。オランダの子どもは幸せだと書いたが、それは、オランダの子どもがいつも喜んでいて、飛び跳ねたりそっくり返ったりしているという意味ではない。ここで言うオランダの子どもたちの幸せとは、自己認識をちゃんと持っていて、家族と深い絆や誠実な友情を築くことができ、周囲の愛情を感じ取り、自分の居場所をきちんと見つけられるということだ。たとえば、オランダの親は子どもたちの言葉に耳を傾け、尊重し、その行為に対して子どもは幸せを実感している。
子どもが10代の思春期にさしかかると、親ならだれでも子育てに悩むものだ。しかしオランダの子育てには、何事に対しても自信と責任を持って人を敬うことのできる子どもを形成する手がかりがある。
オランダの思春期の子どもたちにはいわゆる反抗期のようなものは見られない。というのも、彼らは傲慢な気取った態度を格好良いとは思っていないからだ。それよりも、大人らしい自信を持ち合わせ、物事に対処できることを望んでいる。
オランダでは、10代の子どもたちが、ボーイフレンドやガールフレンドとの外泊を許される文化がある。しかしその一方で、オランダは10代での妊娠率が世界的に見てもっとも低い。このような事例もオランダの子育ての良い結果と言えるのではないか。
オランダでは、子どもが成長したときに社会に上手く適応し、これから直面するであろう苦労や試練に対処できるよう心の準備をさせるのである。
心配しすぎないのがオランダ流
17世紀のイギリス人哲学者であるジョン・ロックはこう述べている。
「生まれたばかりの子どもというのは無垢な状態だが、その後、アングロ・サクソン式の徹底した子育てにより、個人が形成されていく」
意識が異常に高く、何事にも関与しようとする親が、新しい常識をつくり出しているという人もいる。そうした親のもとで育った子どもは、何かしようとするたび周囲のプレッシャーを感じ、上手く物事が運ぶよう、敷かれたレールの上を歩くように強いられる。こういう子どもたちは、自分のペースで独自の能力を伸ばすことが許されない。
最近のイギリスやアメリカの親は、その前の世代に比べても、子どもをより縛りつけ、子どもがしようとすることにいちいち目を配り、口出しすることが親の役目であると信じているようだ。
今日のイギリスやアメリカの親の特徴として言えることは、心配に囚われているということ。私たちの故郷の友だちは、子育てでいろいろと気にしすぎ、何ごとにも疑いの目で判断し、何度も考え直しては罪悪感を持ち、自分自身を追い詰めている。
なぜオランダの親は子どもを心配しすぎたり常に監視したりはしないのだろう?
オランダはセックスやドラッグやお酒に関して寛容な国だというイメージがある。しかし、実際にあまり知られていないが、オランダ人は本当はかなり保守的な国民である。オランダ文化の根本には、子育てを生活の中心に置く家庭的な人々の考え方がある。
オランダの親は自分の子どもを所有物としてではなく、1人の人間として見ており、とても健全な態度で接している。オランダの親は「成功」や「幸福」についての世間一般の見解や、子育てに関する現代の風潮、社会の持つ歪んだ期待感に左右されない。目標を達成することだけが必ずしも子どもの幸せにつながるとも考えない。親と子どもの両方が幸せであることではじめて自分の力を高め、成功することができるということをきちんとわかっている。
オランダの子育てスタイルは、何でも話せるオープンな関係と、その反面、子どものしていることにあまり口を出さない絶妙なバランスの間で成り立っている。
オランダの親は、子どもに対して厳然たる態度を取るが、決して独裁主義的ではない。
オランダ人は、本来子どもが持っている能力を大事にする。一方で親は、子育て以外の自分の生活も大事にするという近代的な考え方をし、かつ昔ながらの家族の価値観も大切にするという二面性を持ち合わせている。オランダという国は一般的にシンプルで質素な文化だ。何かとシンプルで費用のあまりかからない活動を選ぶ傾向があり、本質に従い物事を考えようとする。
親も幸せでいるための時間の使い方
オランダは、誰もがうらやむような仕事と生活のバランスのとれた理想的な暮らしを勝ち取るため、これまで戦ってきた。その結果、今ではヨーロッパの中でオランダといえば、パートタイムワーキング大国と呼ばれるようになった。
オランダ人の週平均就業時間は29時間。少なくとも週1日は子どもと過ごす時間を取っており、ささやかながら自分自身のプライベートの時間もある。オランダではどこを探しても、子どもと過ごす時間が短いと罪悪感を抱くお母さんはおらず、母親業や仕事以外の場所でも、自分のための時間を見つけるよう心がけているようだ。
オランダのお母さんは逆境に強く、自分に対して自信を持っており、冷静な判断ができる人が多い。たとえば、出産し、退院した後すぐに自分を元の体型に戻そうと躍起になることはないし、イギリスやアメリカで見られるようなバカな母親同士の争いごとに巻き込まれることもない。子どもは年齢に応じて独立心を促すことが大事だと思っているため、子どもたちが自分でできると思うことについて手取り足取り手伝ったりしない。
そして、オランダのお父さんは家事や育児をお母さんと分担している。仕事の休みの日には子どもの世話をし、小さい子どもをお風呂へ入れる。お母さんと変わらずベビーカーを押したり、抱っこ紐で子どもを連れて歩いている姿をよく目にする。こういうお父さんは、自分が尻に敷かれた男に見られることを心配することもない。子どもが熱を出したらお母さんとお父さんは交代で病気の子どもの看病をする。こうしたことに対して、オランダのほとんどの会社では、寛容に理解を示してくれる。
オランダのお父さんは、縮れた髪をジェルで固めたヘアスタイルや、真っ赤なセーターにエスキモーが着るようなモコモコの黄色いパーカージャケットといった独特のファッションセンスを、私たちのような外国人がからかってもまったく気にする様子はなく、胸を張って堂々と歩き、思ったことを率直に口にする。
それに対し、イギリスやアメリカの親たちは、自分で課した非現実的な期待や他人の意見に流され、絶えず何かの課題を抱え、平静さを失っているように感じる。その結果、子どもたちが人生において有利なスタートを切れるようにと親が何でもかんでも(超人的に!)お膳立てすることや物質的な豊かさがいつも必要だと考えている。こうした傾向は、イギリスやアメリカ文化の中に根深く残っているようだ。
子どものために自己犠牲を払い、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にいつも写真をアップし、子どものために何をするにも必死でいるというような、社会が理想とする母親像に応えることができないと、お母さんは社会的に後ろ指を指される。
しかし、いつからこうした社会常識に沿った子育てをする親が良い親だ、と言われるようになったのだろうか?
子育ては、親同士の競争?
こうした画一的な考え方が押しつけられるようになったのは、学校で優秀な成績を取れるのが良い子であり、良い教育の指標であるという社会のものさしのせいでもある。イギリスやアメリカの一般的な親たちは、エルゴの抱っこ紐やおしゃれなベビーカー、オーガニックのおやつ、びっくりするほど月謝の高い塾やスポーツクラブや音楽教室のことばかり気にしている。こうして学校の校庭は、子どもたちが遊ぶ場所から、親同士の競争の場へと変わっていった。
ニューヨークに住む友だちは、高級住宅街にある保育園に子どもを通わせようと空きを確保していたのに、知人が不意打ちで横入りをしてきて裏切られたなんてことを話していた。保育園入園は親と3歳の子どもにとって厳しい選考過程があり、それに落ちるということは何にも堪え難い屈辱となるそうだ。
自分の子がクラスで一番早く誕生日を迎えて年長になれば、学力的にもほかの子どもたちに差をつけられると考え、どの誕生日が良いとか悪いとか気にしている人もいる。
ニューヨークやロンドンの大都市ではこうした母親同士の競争がずっと熾烈だったが、今ではほかの都市や郊外、田舎まで広がっている。
こうして子育ては、ひどい競争で心身ともにボロボロになるビジネスへと発展し、学校教育は親同士の戦いの場となっていった。
しかしこの平坦な西ヨーロッパの小国オランダでは、これまで話してきたイギリスやアメリカとはまったく違う子育てをしている。その結果、オランダは世界でもっとも幸福満足度の高い子どもを生み出す国となった。
かつてドイツの詩人ハインリヒ・ハイネは「もし世界の終わりが来るなら、50年後に起こりうるすべてのために、オランダへ行くだろう」という冗談を言っている。
オランダの生活の中には、今どきのよく見慣れたものと古き良きものとが混在している。オランダの子どもは、保護者の同伴がなくても自分1人で学校まで自転車で通学したり、道端で友だちと遊んだり、放課後に友だちの家へ遊びに行ったりと、とてつもない自由を満喫している。
オランダの子どもは、夕食の席で家族の会話に参加しており、家族もまた子どもと一緒にいる時間をきちんとつくっている。
オランダの小学生に宿題はなく、試験のための猛勉強もない。
オランダにあるのはレトロなモノクロ写真や古い映画、あるいはイギリス児童文学作家のイーニット・ブライトンの世界のような、古き良き子ども時代そのものだ。
でも、こうした子ども時代は、ただ古くさいだけのものだろうか? もしかしたら進歩的な時代の先端をいくものなのではないだろうか?
オランダ人はこの子ども時代の情景を、どこか意図的に残そうとしたのかもしれないのだ。
オランダメソッドには、子どもを幸せにする秘密がある
オランダではどうして子どもたちがストレスのない暮らしをすることができるのだろうか? この小さな国はほかの国に比べてずっと安全な国なのだろうか?
オランダは西ヨーロッパ先進国の1つである。便利な現代生活を謳歌する一方で、第一次世界大戦の副産物で生じた、殺人や子どもの誘拐といった犯罪にも苦しむ国である。しかし、オランダにはそれに伴う心配事をあおるようなタブロイド紙はなく、オランダの親は子どもに迫る多くの危険に個別に対処し、物事を上手く大局的に捉えることができる。
こうした態度のことをオランダでは「relativeren」という。この言葉の意味は、幼児誘拐や小児性愛者による犯罪などのあらゆる惨事が起こるのではないか、子どもたちが溺れるのではないか、交通事故に巻き込まれるのではないかとあれこれ心配するよりも、子どもたちが溺れないように泳げる指導をする、交通事故に巻き込まれないように自転車の乗り方や道の渡り方を教えるというように、危険に備えて物事の良い点と悪い点を教え、自分で判断させるということだ。
平均的なオランダ人の家庭が抱える負債は、ヨーロッパ全体を見ても非常に高く、これが社会的な問題にもなっている。しかし、オランダにおける社会的、財政的な不平等問題は、イギリスやアメリカよりも少ない。
オランダの生活水準はすべての人にとって完かんぺき璧ではないが、良いものだと言える。
先述のユニセフ調査によると、家族と環境のカテゴリーにおいて、スイス、アイルランド、ノルウェーに次いでオランダがランク入りしている。でもここで忘れてはいけないことは、オランダという国はほとんどの土地が海抜以下の水の多い湿った人口過密国であり、年がら年中空に広がる灰色の雲は気分を滅入らせるし、決してバラ色の楽園ではないということだ。
これから本書の中で、私たちオランダ出身ではない母親が学んだオランダ流の子育てを紹介し、その真相を紐解いていきたい。
私たち著者のうち、リナは5歳以下の子どもたちの話を担当し、リナよりも大きな子どもがいるミッシェルは、小学生以上の子どもたちの話を中心に本書を展開する。
オランダ人にとっては当然のことであっても、私たちが忘れていたり、見落としていたと感じたことについては、周囲のオランダ人の親御さんやその子どもたちにも話を聞いた。
幸せな子や反抗期のない10代の子を、オランダの親はどうやって育てたのだろう?
オランダの子がパンにかけて食べるチョコレートの小粒に答えがあるのだろうか?
それともどこへでも自転車で出かけるから?
あまり心配しないから?
自宅で出産をするから?
あるいは、乳製品が大好きだから?
休暇のときに家族でよくキャンプに出かけるから?
能力別にクラス分けされた教育システムがあるから?
この本の中に「あっ、そうなのか!」と思える瞬間があり、あなたのお子さんがオランダの子どもたちのように「幸せ」を感じて育つためのメッセージを受け取っていただけるとうれしい。
【目次】






