その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は葉石かおり(著)、浅部伸一(監修)の『 名医が教える飲酒の科学(日経ビジネス人文庫) 』です。

【はじめに】

 「酒を飲むこと」が自分の中でかつてないほど揺らいでいた。

 酒はいつも自分のそばにあった。酒を飲みながら多くのことを語らい、酒に関わる仕事をするようになり、11年前からは「酒と健康」をテーマに執筆するようになった。

 そんな私が、「このまま今までのように飲み続けていいのだろうか?」という大きな不安を抱いたのである。

 きっかけは、世界的に未曽有の災害となった新型コロナウイルス感染症だ。

 自粛生活を強いられ、外で酒を飲む機会が激減し、その結果、自宅で飲む酒の量が増えてしまった。

 そして、ネット通販で5リットルの業務用ウイスキーを買い、それが瞬く間に空になってしまったとき、自分の中で「さすがにこれはまずい」と気づいたのである。

 このまま飲酒量が増え続ければ、アルコール依存症になるかもしれない。そこまでいかなくても、確実に病気のリスクは上がるだろう。

 こんな状況は私だけに限ったことではなかったようだ。コロナ禍は、人類に対し、酒との付き合い方についても再考を迫ってきたのである。

 一例を挙げよう。日経ビジネス電子版と日経グッデイの読者を対象に2022年1月に行われたアンケートでは、コロナ禍をきっかけに飲酒習慣が変わったと答えた人が46.2%にも上った(回答数1296、以下同)。媒体の特性を考えると、回答者は社会の前線でバリバリと活躍する酒が好きな人たちであろう。そして、コロナ禍でどのように飲酒習慣が変わったのかについては、飲食店で酒を飲まなくなったという回答が多く、また私と同様に日々の飲酒量が増えた人や、逆に飲酒量が減ったという人もいた。

 酒をこよなく愛し、酒とともに生きてきた私たちが、酒との付き合い方を考え直していたそのタイミングで必要だったのは、できるだけ科学的に、客観的に、酒が人間の体に与える影響を把握することだと思った。

 酒を飲み過ぎれば病気になることは、誰しも頭では理解している。しかし、そうは言っても飲む量を減らしたくないのが酒好きというもの。だから、どれぐらい飲めばどんな病気のリスクがどれほど上がるのか、なるべく正確に把握したい。人によって体質は異なるが、自分が酒を飲むことでどんな病気に気をつけたほうがいいのかが分かれば、少しは安心して酒が飲めるようになるはずだ。

 そこで私は、世の酒好きを代表して、さまざまな病気のスペシャリストや、酒の人体への影響について研究する専門家のもとを訪ね、その専門的な知見をできるだけ分かりやすく解説してもらった。それをまとめたのが本書である。

 例えば、先ほどのアンケートでは、酒にまつわる悩みの第1位が「最近、酒に弱くなった」(29.4%)なのだが、なぜ人は酒に弱くなったり強くなったりするのか、そもそも酒の強さの正体とは何なのかについては、第1章「飲む前に読む飲酒の科学」(19ページ)で解説している。そのほか、第1章では、いつまでも健康でいられる「適量」についてや、二日酔いのメカニズム、健診結果が悪い人が飲み続けるとどうなるかなど、酒との付き合い方を考えるうえでの基本となる知識についてまとめている。

 飲み過ぎて後悔したことは誰しもあるが、第2章「後悔する飲み方、しない飲み方」(69ページ)を読めば、もうそんな経験をしないですむだろう。例えば、飲み過ぎると下痢になるのはなぜか、という話を腸の専門家に聞いたときは、目からウロコが落ちた。お腹を壊さないような飲み方を心がければ、多くの酒による後悔を同時に防ぐことができるのだ。

 酒が原因の病気で特に怖いのが、日本人の死因第1位の「がん」だろう。先ほどのアンケートでも、がんが心配だと答えた人は実に34.9%に上った。そこで、第3章「がんのリスクは酒でどれぐらい上がるか」(113ページ)では、がんと酒の関係についての最新研究をまとめた。恐ろしいことに、「ほどほど」の飲酒量でも毎日飲むとがんのリスクが上がってしまうことが研究から分かってきたのだが、がんの部位ごとに見ていくと、そのリスクの上昇にはバラつきがある。自分がどのがんに気をつけなければならないのかが分かれば、定期的に検診を受けることで、安心して飲むことができるだろう。

 そして、第4章「酒飲みの宿命―胃酸逆流―」(147ページ)では、逆流性食道炎について取り上げている。実は、私自身が逆流性食道炎になってしまったのだが(酒量を減らしたので現在は完治しております)、そのことをSNSに書いたところ、「実はオレもなんだ」という酒好きからのコメントがわんさか入ってきた。なぜこの病気が酒飲みの宿命なのか、放っておくとどんな合併症が起きてしまうのか、悪化させないためにはどのように飲み方に気をつければいいのかについて、しっかりまとめておいた。この章はとても切実なトーンになっているかもしれない。

 切実といえば第5章「結局、酒を飲むと太るのか」(167ページ)も同様だ。酒にもカロリーがあり、飲み過ぎれば酒のせいで太ってしまう。コロナ禍で体重が増えた人は多いが、飲酒量が増えれば体重は増加の一途をたどり、そのせいで病気のリスクも上がってしまう。先ほどのアンケートでも、メタボが心配と答えた人は22.3%、ダイエットしたいが酒を飲んでしまうと答えた人は14.5%に上った。確かに酒飲みにダイエットは難しいが、酒を飲みながらでもダイエットできる方法を専門家に聞いてきたので参考にしてほしい。

 コロナ禍では「免疫」について注目が集まることになった。新型コロナウイルスに感染するかどうか、また感染したときに重症化するかどうかは、免疫次第だ。だが、やっかいなことに、酒を多く飲む人ほど免疫に悪い影響を受けやすいのだという。このあたりの話は、第6章「酒と免疫」(207ページ)でしっかりと解説しているので、ぜひ読んでいただきたい。

 最後の第7章「依存症のリスク」(231ページ)では、アルコール依存症について取り上げている。先ほどのアンケートでも、酒に関連してどのような病気が心配か尋ねたところ、アルコール依存症と答えた人が20%にも上った。どういう人が依存症のリスクが高いのか、依存症を避けるためにどのように酒を減らせばいいのか、飲み方のコツなどについて、専門家の提言をまとめたので参考にしていただきたい。依存症を扱う専門家の言葉はみな真摯で、このアドバイスに従えば末永く酒と付き合っていけると実感できた。

 本書を通じて得た知識と専門家のアドバイスのおかげで、私自身、飲酒量を減らすことに成功した。それもイヤイヤ減らしたのではなく、納得した上で、きちんと酒を楽しめる余地を残しながら、休肝日を設けることにも成功したのである。

 本書は、読むだけで「飲酒寿命」が延びるバイブルとして、酒瓶とともにそばに置いていただけたら、酒好きのひとりとしてこれほど嬉しいことはない。

酒ジャーナリスト 葉石かおり


【目次】

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