その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は縄田健悟さんの『 だけどチームがワークしない “集団心理”から読み解く 残念な職場から一流のチームまで 』です。

【はじめに】

 組織は人の集まり、つまり「集団」です。
 この本では、みなさんが集団で働くときに感じる「なぜ職場でこんなことが起きるのか?」「どうしたらもっとうまく組織が動くのか?」という疑問に対して、「集団」の心理の視点から紐解いていきます。

 私たちは日々、会社や組織、あるいは学校や友達グループなど集団の中で過ごしています。
 集団から、私たちは多くの恩恵を受けています。

その1つが、1人ではできない仕事ができることです。

 集団で力を合わせて協力することで、私たちはより大きな成果を生み出せます。また、困ったときには集団の仲間から助けてもらえます。
 しかし、良いことばかりではありません。集団には短所もあります。職場では「みんな」で一緒に働くからこそ、うまくいかないことであふれています。
 たとえば、次のような経験はないでしょうか?

画像のクリックで拡大表示

 などなど。
 どれもこれも、「みんなで一緒に働く」からこそ生じる問題です。もしも1人で働くならばそもそも起きないことだと言えます。

なぜ集団で働くと、こうした問題が生まれるのでしょうか?

そして、それを解決するカギはどこにあるのでしょうか?

 こうした問題の背景には、群れをなして暮らすという私たち人間が持つ“集団心理”の特性が深く関わっています。この“集団心理”を適切に理解しなければ、問題の本質的な解決は望めません。

 私は「集団」に潜む問題とその解決策を、社会心理学や産業・組織心理学の観点から研究しています。一つひとつの組織はさまざまで違っていても、その根源には共通した人間の“集団心理”と、そこから生じる「集団」の課題があります。

 この本では、その一端を整理しながら解説していきます。

 心理学の研究から言えることは、きっと働くみなさんのお役に立てると思いますし、そもそもとてもおもしろいものです。
 読み進めていくうちに、「なんとなく思ってたアレはこういう理由で起きていたのか!」とか、「素朴に〇〇だと思ってたけど、実際は違ったんだなあ……」など、新たな気づきがたくさんあるはずです。

 みなさんの属する「集団」がどのように機能しているのか、一緒に読み解いていきましょう。

画像のクリックで拡大表示

“集団心理”の普遍的な面

 “集団心理” の特徴を考える際には、時代が下っても変わらない普遍的な面と、時代とともに変わってきた現代的な面という2つの軸を考えないといけません。

 私たちは古来より、狩猟採集社会で獲物や果実を分けあいながら暮らし、ムラ社会で農業を行いながら共同生活をしてきました。高度に文明が発達した現代、高層ビルでPCを使って働くようになっても、集団を形成して暮らすことは変わっていません。
 時代とともにライフスタイルは大きく変わりました。しかし「集団で他者と協力しながら生きていく」という根本は同じです。時代や状況を越えて共通した、いわば「人間だからそうなるものだ」ともいえる根源的な“集団心理”が存在します

“集団心理”の現代的な面

 一方で、文明化された現代社会ならではの“集団心理”の特徴もあります。
 グローバル化の影響でさまざまな文化的背景を持つ人々が同じ職場で集団を運営したり、テクノロジーの発達により、リモートワークが増えて、直接合わずにオンライン上でチームを運営することが必要になりました。これらは、現代社会の発展とともに立ち現れてきた現代的な“集団心理”だと考えられます。

 “集団心理”の研究では、こうした昔から変わらない普遍的な面と、現代社会固有の面とを踏まえ、人間と集団の性質を理解することを行っています。

画像のクリックで拡大表示

第1部は「負の“集団心理”」編です。

 いかにして集団の問題が生じるかに焦点を当てます。ここでは、社会心理学の研究から明らかにされた、“集団心理”の特に負の側面を中心に解説していきます。

 残念ながら、人間が集団になると、1人のときには見られないような行動がなされることがあります。

 たとえば、まわりのみんなが自分と違う意見を述べているときには、本音を隠して「自分もそう思ってた」と調子を合わせることがあるでしょう。もしくは、集団のまわりの人に任せきりになり、まじめに働かない人がいたり……。これらが組織の中でどのように悪影響を及ぼす可能性があるか、またそれをいかに克服していくかを考えていきます。
 集団浅慮、集団の問題解決と創造性、集団規範と同調、社会的手抜きというテーマを取り上げていきます。

第2部は「優れたチームを目指して」です。

 ここでは、チームワークに関するものを取り上げます。
 職場の集団は、単なる烏合の衆ではなく、共有した目標に向けて協力して働く「チーム」として機能させることが必要です

 このパートのキーワードは、チームワーク、リーダーシップ、対立です。チームにとって大切なのは目標管理や同僚との人間関係、リーダーのカリスマ性などとさまざまに言われます。
 しかし、実際のところ、どれがどのくらい重要なのでしょうか? またその根底にある中核原理は何なのでしょうか? 産業・組織心理学分野のチームワーク研究の理論と実践、および実証研究を中心に紹介していきます。

第3部は「チームが直面する現代ならではの課題」です。

 現代の企業が直面するチームの課題に焦点をあてます。最近の社会動向を踏まえて、特にここ30年で注目されるようになった心理的安全性、多様性、テレワークといった現代的トピックを扱います。たとえば、効率が悪いといわれがちなテレワークですが、チームワークの面から考えると「そうではない」という研究の結果が多くあります。これら、現代の新たな課題に対処するための効果的な対応策を検討していきます。

この本では各章が独立した内容を扱っており、興味のあるところから読むことも可能です。

 ただし、人間の“集団心理”の基礎的な特徴から、企業組織のチーム、さらには現代的トピックへと進んでいくように全体の流れを構成しています。そのため、最初から通して読めばより理解を深めることができるでしょう。

画像のクリックで拡大表示

 本書の全体を通して重要になる視点をお話しします。

画像のクリックで拡大表示

 というものです。これは本書が依拠する社会心理学という学問分野の視点でもあります。

性格が原因だと思いやすい私たち

 日常生活でも職場でも、私たちは個人の「性格」の影響を過大評価しています。特に他人の行動に対して、「あの人は繊細だから」とか「不まじめな人だから」などすぐに性格のせいにしてしまうのです

 これは「基本的帰属のエラー」と呼ばれる認知バイアスの1つです。人間は「行動の原因が状況にある」と認識するのが苦手で、なにか他人の行動を見ると、すぐに個人の性格や能力がその原因だと捉えがちです。

 たとえば、信号無視をした車の運転手を見かけたという場面を思い浮かべてください。あなたが信号待ちをしているときに、目の前の赤信号を無視して車が横断歩道を横切りました。なぜその運転手は信号無視をしたのでしょうか?
 こんな場面では、「無謀でルールを守らない性格の人だからだろう」とパッと思う人が多いのではないでしょうか。このとき、信号無視という行動の原因は、その人の性格にあると推測しています。

画像のクリックで拡大表示

 しかし、もしかすると車の後部座席には大怪我をした子供が乗っていて、慌てて病院に連れて行く途中なのかもしれません。もしくは、人生のかかった大事な試験に遅れそうなのかもしれません。

 もちろん、だから信号無視が許されるといった話をしたいのではありません。私たちは「なにかその人が置かれた状況や事情があるから、信号無視という行動を取ったのだろう」と推測することが苦手です。そして、デフォルトで「無謀でルール違反をしやすい性格だ」といったその個人の内面が原因だと思いやすいのです。

 この後本章で詳しく説明しますが、「集団が持つ影響力」は強いものです。しかし、すぐに私たちは物事の原因を個人の内面ばかりに持っていってしまい、集団の影響力を無視してしまいがちだとも言えます。

 それは職場でも同じです。

画像のクリックで拡大表示

 しかしもしも、そういう人が職場にたくさんいるなら、この人たち全員が「もともと自己中心的で怒りっぽい性格」の人だというわけではないでしょう。
 職場全体がそうであるならば、原因は個人だけの問題ではなく、そうふるまわせるその集団側に原因があるのです

個人の性格や能力ばかり注目しても組織は変わらない

 もちろん性格は人間の行動に影響をもたらします。これは性格心理学で数多く研究されてきたことです。性格の役割を完全に無視するべきではありません。

 ただし、性格は変えにくいものです。少なくとも短期的に変えるのは難しいものです。

 むしろ、変わりにくい心理・行動の傾向を性格と呼んでいるので、そもそも短期的な変化や改善を考えにくいともいえます。

 そのため、性格の影響はたしかにないわけでもないのですが、仮に「〇〇さんがチームでうまく働けていない原因は〇〇な性格にある」というように性格が原因だと分かったとしても、「そういう人だからね」で終わってしまい、それ以上の対策が取れなくなってしまいます

 組織として管理・対策するためには、変えられるものを対象にしないといけません。変えにくい性格ばかりに固執してもその先がないのです。

 基本的帰属のエラーによって、私たちはそもそも「性格が原因だと過度に思いこみやすい」からこそ、うまくいかない原因を性格だけに押しつけずに、性格ではないところからアプローチをしていくことが必要になります。

集団の「状況」から手を入れていこう

画像のクリックで拡大表示

 人間の行動は、性格や能力だけではなく、その人が置かれている状況に大きく左右されます。

 再度、信号無視を例に考えてみましょう。

 たとえば、警察官が見ている前では、ほとんどの人が信号無視をしなくなるでしょう。あるいはビュンビュンと速度の早い車がたくさん通っている交差点でも、事故にあう可能性が高い中でわざわざ赤信号を無視して通ろうとすることもないでしょう。

 このとき、この人が信号無視をしない理由は、「ルール違反をしない真面目な性格だから」と性格から解釈するよりも、「警察官が見ているから」「交通量が多くて危険だから」という状況から考える方が適切でしょう

 これはあまりに当たり前です。しかし、この例から気づくのは、いつでもどこでも誰の前でも信号無視をする性格の人がいるわけではないという点です。「誰が見ているか」や「交通量」という状況次第で人間は行動を変えているのです

 これは他の場面でも同様にあてはまります。

 おしゃべりな人だって、映画館や卒業式では、ほとんど口を開かず静かに座っているでしょう。
 部下の前では不機嫌で横柄な態度を取る人も、社長の前ではニコニコ愛想よく話すかもしれません。
 人間の行動というのは、実はとても状況に依存しています。逆にいうと、状況を適切にマネジメントすれば人間の行動は変えることができるのです。

画像のクリックで拡大表示

誰か1人を「犯人」にしても、組織の問題は解決しない

 本書のメインテーマである「集団」というのは、まさにメンバーに与える状況そのものです

 集団という状況によってメンバーの行動が変わり、メンバーの行動が変わることで集団全体が変わっていきます。個々のメンバーと集団全体が相互に影響を与え合い、集団が形づくられていきます。こうした集団とメンバーとがお互いに影響しあい変化していくダイナミズムを考えていくことが必要です。

 組織で問題を起こす個人を「腐ったリンゴ(bad apple)」と呼ぶ英語の比喩表現があります。日本だとみかんで表現されることが多いでしょうか。メンバー個人を「腐った」などと呼ぶひどい表現でもありますが、この比喩はある意味で示唆的です。

「腐ったリンゴ」があったときに、そのリンゴ自体に腐りやすい性質があったのでしょうか?
 しかし、それは先ほどから述べているように、個人の性格や能力に過度に原因を求めすぎています。

 むしろ「腐ったリンゴ」が複数現れるなら、リンゴを入れている「カゴ」、つまりメンバーが入っている集団の方に腐らせる原因があるのかもしれません。
 私たちは「カゴ」の方から改善を試みることが必要です。さらには、「カゴ」次第で「有能なリンゴ」の活躍をさらに高めることもできるかもしれません

 組織の中では、個人の性格や能力だけに注目していても、適切に理解できません

画像のクリックで拡大表示

 どれも誰か1人の「犯人」がいるケースではありません。無理やり「犯人」に見える誰か1人に責任を押しつけても、問題の解決は見込めないでしょう。

 その反対に、成功している集団の中でも、誰か1人のスタープレイヤーや功労者を見つけて、その人だけに報奨を与えても、継続したチーム全体の成功につながるとは限りません。

 つまり、集団全体の成功や失敗は、単純に誰か1人には還元することができません。
 メンバー同士の相互作用の産物として、集団全体のダイナミズムが生まれるのです。このダイナミズムを理解しないといけないのです。

集団という入れ物ごとよくすることが必要

 ここで重要となるのは、集団という「入れ物」をいかに機能させるかです。集団全体を的確に機能させる方法を考えることが必要です。

 もちろんそれは簡単なことではありません。長年の慣習の中で悪い風土がはびこってしまい、変えるのが難しい場合も多いでしょう。それでも、集団という入れ物ごと良くしないことには、そこにいるメンバーの行動は改善しません。

 集団という入れ物次第で、人は変わるのであり、人が変わることで、集団が変わります。
 この循環構造を理解して、適切にマネジメントしていかなくてはなりません。

画像のクリックで拡大表示

本書が示す良い集団とは

 さて「良い集団」とはどんな集団なのでしょうか。読み進めるうちにお気づきになるかもしれませんが、本書では似たようなトピックの話が繰り返し登場します。
 たとえば、集団の愚かな意思決定、メンバー間の意見対立、リーダーシップなど、さまざまなテーマの中で「信頼」や「心理的安全性」の重要性が繰り返し説明されます。

 このように内容が重複する理由は、それが優れた集団において本質的な要素であるからです。根源的に重要な要素だからこそ、どの現象を説明する際にも繰り返し言及されるのです。

 本書ではそういった重要な要素を4つのキーポイントに整理しました。協力、受容、信頼、コミットメントです。この4つがある集団が「良い集団」です。当たり前に思えるかもしれません。しかし、これらがあなたの属する集団ではどのくらいできているでしょうか?
 この4つを適切に満たした集団をつくることは、決して容易なことではありません

画像のクリックで拡大表示

 これらの要素は緊密に関係し合っているものです。

 まずはこの4つのポイントを押さえながら本書を読み進めていただくと、「ここでは『協力』が重視されている」「確かに他人を尊重して『受容』することは大事だ」といったように、勘所が思い浮かべやすく洞察が得やすくなるでしょう。

 ここまでこの本の重要な視点をざっと眺めてみました。
 この章は改めて、全体を読んでもらった上で、もう一回戻ってきて読んでいただくとより理解も深まります。

 ではさっそく、次の章から詳しく見ていきましょう。

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示