その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は後田 亨さんの『 生命保険は「入るほど損」?!<新版> 』です。

【まえがき】

「これって、何かに似ている……生命保険の販売手法だ」

 「振り込め詐欺」の手口を紹介しているニュースを見て感じました。
 犯罪と金融庁の認可を受けた商品の売買という違いは明白です。とはいえ、不安喚起情報を用いて、人にお金を使わせる流れは同じだと思ったのです。冷静な判断が難しい点も似ているでしょう。
 実際、保険販売に携わる人たちの中には、合法的な業務を行いながら、罪悪感や自責の念に苛まれている人がいます。以下は、近年、私が金融関連のイベントなどでお会いした方たちの言葉です。

「お客様には、手数料が高くて、ひどい商品をすすめていたのだなと、申し訳ないやら、恥ずかしいやら……です」(元銀行員)
「他社にもっと安い、いい保険があると知っています。お客様に余計な損をさせるのが仕事なのかと悩んでいます」(大手生保営業職員)
「全般に保険料が高過ぎます。貯蓄商品以外、ほとんど半額くらいにできると思っています」(国内生保内勤職員)

 私が保険の商品や販売手法を疑問視していることをご存じなので、こうした発言が出るのだと思います。
「大半の保険は『演出』の力で売られています。本当に必要な保険は、あなた(筆者)が言うとおり、一定期間の死亡保険くらいでしょう。自分の半生を振り返ると複雑です」と語る商品設計の専門家もいるのです。
 たしかに、不測の事態を強く印象づける演出、実話を含むストーリーなどから離れ、お金の流れだけを見ると、保険の評価は一変します。
 本書で詳述していますが、保障目的の商品などは「専用口座に1万円入金すると、3000~7000円もの手数料が引かれる仕組み」に見えてくるからです。「利用しないほどいいに決まっている」のです。
 1995年、私はアパレルメーカーから日本生命に転職しました。研修所では「保険は相互扶助」と教えられ、「なるほど素晴らしい仕組みだ」と感じました。ところが、営業部は別世界でした。
 本部から視察に来た人は「うちは販売会社」と断言し、営業部長は、難解で高額な保険が売れる状況を「よくわかっていない奴(営業職員)が、もっとわかっていない奴(お客様)に売る。面白いだろう?」と笑っていたのです。
 それでも約10年、営業職を続けたのは、会社の看板を借りた個人事業と呼べそうな業態が、経理や総務部門で過ごした会社員生活より自分には合っていたからです。
 2004年に十数社の保険を扱う代理店に移ったのは、保険料が高い大手の商品だけを扱っていてはマズいと思ったからです。ただし「選択肢が広がった」と喜んだのもつかの間でした。投資信託に興味を持ったことから、投信より一桁大きい保険の販売手数料が「暴利」に見えてきたのです。
 その後独立できたのは、営業先で知り合った方とのご縁で、2007年に保険業界への疑問をぶつけた自著を上梓する機会に恵まれ、2011年ごろから執筆や講演と有料相談業務で生計を立てられるようになったからです。
 同時期に保険販売に関わる仕事をやめたのは、商品設計の専門家の知見なども得られるようになり、「売りたい保険」がほとんどなくなってしまったからです。どこまでも「顧客本位でありたい」と考えていたのではなく、「保険会社には貢献したくない」という消去法でした。
 今も昔も「保険のCMを見ない日はない」「全国の一等地に保険会社のビルがある」「何千万も稼ぐセールスの人がいるらしい」といった理由で、「(保険に入るのは)かなり損なのではないか?」と疑っている人は珍しくありません。
 それにしては「客の損が大きそうだから、保険には入らない」と言う人が少ないのは、保険の対象が「起こってほしくない事態」だからでしょう。「何かあったらどうする?」と自問すると、不安が勝ってしまうのだと思います。
 保険会社の高収益や営業担当者の高収入を想像する人たちの発言に、成功しているビジネスモデルや関係者への敬意が感じられないのは、保険の商品やサービスについて、心の底では納得していないからだと思うのです。

 本書は、「保険は入るほど損なのか、本当のところを知りたい」人に向けて、6年前に刊行し、読者の皆様や関係各位のおかげで版を重ねてきた本の新版です。
 商品関連情報その他、大部分を書き直しています。ただし、残念なことに、結論は前回と同じです。加入者全体で見ると、保障目的の保険は「ギャンブルより損が出やすい」仕組みであり、貯蓄商品も「会社側の取り分が大きく、お金が増えにくい」構造のままなのです。
 このように断言するのは、原稿を書く際、複数の商品設計の専門家に協力していただけたからです。
 一般の人たちの関心が高い「医療保険」や「がん保険」については、1章と2章をお読みください。「お客様の生涯に寄り添う」のはやめてほしい、「大胆な課金システム」に見えてくるかもしれません。
 保険の損得勘定を試算すると、「保険会社の経費や利益の分、加入者全体でマイナスになるのはわかりきったこと。その類の計算には意味がない。マイナスが嫌なら、保険に入らなければいい」と言う人もいます。
 私も、保険に限らず、あらゆる商取引において、販売側の経費が賄われ利益が残るのは、必要不可欠なことと認識しています。また、世の中には金銭に換算できない価値がある商品やサービスもあると思っています。
 それでも、先に紹介したような、保険料の妥当性を疑問視する人たちの証言もあるのです。検証する意味はあるのではないでしょうか。
 保険会社の人たちの知見は、3章以降、「貯蓄性がある保険」の損得や、都道府県民共済との比較から保険会社の経費の使い方について考える際にも、おおいに役に立ちました。
 これらの章をまとめながら、あらためて感じたのは、保険は「お金を失いやすい仕組み」なので、最小限の利用にとどめるほうが良いということです。
 ところが、保険会社が推奨するのは、死亡・医療・がん・介護・老後資金準備等、さまざまな目的別に、より広範囲の保障をより長く確保することです。消費者との「利益相反」を考えさせられます。
 そこで本書では、広告やキャッチコピーに惑わされない方法や、対面販売での営業術についても言及しています。簡単なチェックポイントを知ると、不安喚起情報の数々が、突っ込みどころ満載の「ネタ」に見えてくるはずです。
 また、不安喚起といえば、「老後資金」の問題も、一般論より「個人のナマの数字」のほうが断然わかりやすいと考え、60代を迎えた私自身の年金受給額をもとに、文字どおり、現実的な対処法を記しています。
 さらに、新規加入や見直し法から、少ないながらも検討に値する保険、ストレスがかからない解約の仕方まで、消費者の「よくある質問」に対応した章も用意しました。
 その結果、当初の目的ではなかったものの、本書に家計の負担を確実に軽減(適正化)できる実用書的な一面を持たせることもできたと思います。

 近年は、長寿化が進む中、「介護」や「認知症」に備える新たな保険も続々と登場していますが、保険に精通している保険会社の人たちは、目新しい保険に加入しているわけではありません。
 彼らが愛用しているのは、期間限定の保障を個人向け商品よりずっと安く持てる「団体保険」です。一生涯の保障がある保険を目的別に使い分けるのではなく、おそらく「加入者の損が最も少ない保険」を限定的に利用しているのです。

 言行不一致の裏にあるのは、「大人の事情」です。「自分は損しているのではないか?」という、あなたの疑問は正しいのです。ぜひ、最後までお付き合いください。

 *本書に引用しているデータ等は2021年3月1日現在のものです。

【目次】

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