その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はフィリッパ・ペリー(著)、高山真由美(訳)の『 身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本 』です。

【はじめに】

 私は長年、心理療法士として働いていますが、同業の仲間うちでなされる議論が、閉じた空間の中で完結する傾向にあることをつねづね残念に思ってきました。心理学の考え方は、どんな人にとっても非常に役に立つものだからです。

 そこで、私のもとに送られてくるさまざまな疑問や悩みから、人生について多くの人が知りたがっていることは何かを考え、それに答えてみようと思いました。本書の目的は、心理学的な発想や考え方を、より広い世の中に向けて提示することであり、そうした知恵を消化しやすいようにいくつかの固まりに分けてシェアすることで、多くの人の役に立つ本にしようと考えました。

 この本は、私が心理療法士や人生相談コーナーのコラムニストとして働く中で、また、イベントや日々のやりとりの中で、長年にわたり人々から寄せられた質問と、その答えをまとめたものです。私はみなさんの質問が大好きです。質問を見れば、みなさんがどこに困難を感じているかがわかるからです。

 人はそれぞれに異なり、それぞれに独自の質問をしてきますが、悩みには一定のパターンや共通点があるので、それに対処するための知恵やテクニックもある程度一般化することができます。みなさんの質問には何かしら教わるところがありますが、私のほうもみなさんが「なるほど!」と思える瞬間を持てるようにお手伝いできたらと思います。

 私たちはみな幼いころに、自分の環境に合った価値基準や適応能力を発達させます。そうやって人生の初期段階に身につけた独自のものの見方に沿って、人と接したり、決断を下したりするのですが、自分がそのように動いていることをたいていは意識すらしていません。

 成長し、新たな人と出会い、社会でさまざまな経験をするにつれ、人生の初期に身につけた価値基準や適応方法が以前のようには機能しなくなり、昔の思考や行動のパターンから抜けだせずに行き詰まってしまうこともあります。

 本書のねらいは、あなたが幼いころに身につけた価値基準や適応方法を理解し、いまでも役に立っているものは何か、更新したほうがよいものは何かを自覚できるように、お手伝いすることです。ここでいう「自覚」とは、自分が地図上のどこにいるかを知ることです。スタート地点がわからなければ、行きたい場所に向かう道筋もわかりません。

 外の世界に対していかに反応するか、いかに怒るか、他者のありようをいかに受けとめるか、自分のことをいかに説明するかを学ぶことはとても大事です。自分の行動をあるがままに自覚しなければ、何を変えるべきかがわからないからです。

 初めてセラピーを受けに来る人は、必ずといっていいほど自分以外の人々の話をしたがります。そこで私はこうお話しするのです――「私たちには他人を変えることはできません。ただし、自分自身をコントロールする力があります」。多くの人は自分がそういう力を持っていることを理解していませんが、私たちは自分の反応や行動を変えることができます。優先順位や価値基準、習慣的な対応を変えることができるのです。

 もちろん、変化には時間がかかります。新しい習慣を身につけるにはある程度の期間を要します。しかし自らの人生に対して、自分で思うよりずっと大きな力を持っていることがわかれば、変わろうと試してみることができます。とくに、自分の心をどこに向けるかは誰もが自分で決められます。たとえどんなに弱っていても、物事をどう考えるか、体をどう整えるか、他人とどう関わるかを決めることはできるのです。

 ちなみに、体を整えるというのは、体のどこを緊張させ、どこの力を抜くかを意識することです。たとえば、顎(あご)を意識してみてください。顎のまわりの筋肉はゆるんでいますか、緊張していますか。次は呼吸を意識してみてください。息を深く吸っていますか、それとも浅い呼吸をしているでしょうか。

 私たちはよく、自分に向かって間違った問いを投げかけます。いつだって「なぜ?」と自問してしまうのです。人は物事に意味を求める生き物であり、ストーリーを必要とするからです。「なぜあの人は私と別れたがったのだろう」「なぜうちの子は行儀が悪いのか」「なぜ私はこんなに不幸なのだろう」。感情が昂(たかぶ)ると「なぜ(ホワイ)」という問いが必ず出てきます。私たちは物語や説明が大好きなのです。

 しかし自分に向かって「なぜ」とたずねても、あまり役に立ちません。答えはたいてい「どのように(ハウ)」という問いの中にあるのです。私が知りたいのは、みなさんが「どのように」いまの心境に至ったかです。みなさんがどのように大切な人とのつながりを築き、どのように議論し、どのように変化し、どのように満足を見いだすかに関心があるのです。だからこの本も、4つの「どのように(ハウ)」を問う章でできています。私たちはこの4つをそれぞれ個別の問題と見なすことが多いのですが、実はすべてつながっているのです。

 心理療法士という仕事を通して私が学んだのは、人はみな自分なりの方法で、自分なりに時間をかけて成長するということです。そして私たちには、ありのままの自分でいられる環境、どんな自分になれるかを試せる環境が必要です。誰かが(あるいは自分で)どんな人間になるべきかを言い聞かせてもあまりうまくいきません。私が相手に沿ったアプローチを目指すのもそのためです。

 私の考えるよいアドバイスとは、相手が漠然とわかっていながらうまく言葉にできずにいた物事を、はっきり表現できるように手助けすることです。常に正しい人などどこにもいませんし、もちろん私自身も常に正しいわけではありません。もし、自分はどんなときも常に正しいと思っている人に出会ったら、警戒するべきです。なぜなら、「常に正しい人」は、周囲の人間を「常に間違っている人」に仕立てようとするからです。そういう人のそばにいるのは居心地のいいものではありません。

 最初に1つアドバイスをするなら、自己啓発分野の第一人者であるスーザン・ジェファーズ博士の言葉を借りて、みなさんにこうお伝えしようと思います。「あなたはそのままでいいのです。いまのままで充分にパワフルで、愛すべき存在であり、日々学びと成長を続けています」。つまり、ありのままの自分を受けとめればいいのです。もし、物事が自分の思いどおりに進んでいて、それに気づいていないだけなら、どうやってその状況に至ったかを知ることが助けになるでしょう。

 私たちは自らつらい状況をつくりだしていることがあります。それは決して珍しいことではありません。私は毎週のようにこんな言葉を聞いています。「私は人間関係を築くのが下手なんです」「私は友人として最低です」「私はバカだから」「私は内気すぎるんです」……。もうおわかりでしょう。自分自身をこんなふうにジャッジする必要はないのです。もちろん、人はみな間違いをおかします。けれども、その間違いと、間違いをした本人とは、イコールではありません。

 人が間違いから学ぶのは、次の新しい間違いをするためです。私たちは自分の望むものや必要とするものを夢見て、その夢が実現すると、自分の考えの間違いに気づきます。そこでその間違いを正し、そこから学び、また別の決断をして、しばらくはそれでうまくいくのですが、やがてまた調整が必要になります。人生が終わるまでそのくり返しで、私たちはさまざまな望みを持ちながら、試行錯誤を続けるのです。

 そんなときに自分の限界を決めつけたり、自分を裁いたり責めたりしても、何の役にも立ちません。判断を保留することも、ときには必要です。私たちには多くの共通点があります。私たちはみな弱さを抱えた人間であり、見せかけだけの強さにこだわるよりも、弱さを自覚したほうが強くなれることを知るべきなのです。

 最後になりましたが、みなさんが本書を楽しく読んでくださることを願っています。些細(ささい)なことのように思えるかもしれませんが、人生において、「楽しみ」はもっと優先されていいのです。その楽しみに加え、もしほんの少しでも共感できたり、「そうそう!」と思えるところが見つかったりするなら、それはとてもすばらしいことです。それこそこの本が目指すところなのですから。それに成功しているかどうかは、本書を読めばおわかりいただけるはずです。

【目次】

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