その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は榎本博明さんの『 「指示通り」ができない人たち 』。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】
周囲にこんな人はいないだろうか?

 かつてのような呑気な時代と違って、管理職もさらなる成果を問われるようになり、自分の部署を成果を上げる集団にしていかなければならない。そのような立場からすると、何とも気になるのが今イチ使えない人材だ。これを何とか使える人材にすべく、教育的な働きかけをしたり、適材適所を工夫したりする必要がある。

 だが、これまで出会ったことのないような特徴を備えた人材を前にして、どうしたらよいのかわからず、途方に暮れることもある。管理職の人たちと話すと、自分の想像を超える行動パターンを示す人もいて、なぜそうなるのか、その心理メカニズムがまったくわからず、処遇に困ることがあるという人も少なくない。

 まずは、そのような人を前にして、どう指導したらよいのかわからず困惑する管理職の声を示すことにしたい。

「自分がまとめている部署のメンバーを見ていると、有能で成果をきちんと出しており、取引先での評判もいいのに、なぜか自信なげで不安が強く、ちょっとしたことがうまくいかないだけで自己嫌悪に陥る者がいるかと思えば、意気込みがあるわりには成果が出ず、取引先での評判も今イチなのに、なぜか自信満々で反省することを知らない感じの者もいる。なんでそうなのか不思議だし、どうしたらよいかわからず結構手を焼いている」

「非常にモチベーションが高く、最初からやる気がみなぎっていたので、大いに期待していたのだが、実際に仕事をやらせてみると、これがなかなか使えるようにならない。仕事の段取りが頭に入らないのか、どうもやる気が空回りしている」

「ふだんの同僚たちとやり取りしている様子を見ていると、けっして感じが悪いようなところはないのに、なぜか客とのトラブルが絶えない。本人は『お客がおかしなことを言うんです』と言うのだが、あるとき仲裁に入り、両者の言い分を聞いていて、客の言うことを理解せずに対応しているのがわかった。どうも人の話を理解する力が不足しているようなのだ」

「とても勉強熱心で、自己啓発にも励んでいるようなのだが、仕事上必要な知識の習得がなかなかできず、仕事を任せられるようにならない。勉強の仕方に問題があるとしか思えない」

「しょっちゅう積極的に質問してくるし、早く仕事を覚えたいという意欲は伝わってくるのだけれども、何度教えても同じようなミスをして、未熟なやり方がなかなか改善されない。どうも頭の中が整理されていないように思う」

「とても感じがよく、仲間からも好かれているのだが、なぜか取引先での印象が良くない。先方に探りを入れてみると、約束したことを忘れたり、勘違いしたりすることが多いとのことだった。3日後の約束なのに2日後に来たり、3週間後の約束なのに2週間後に来たりして困るのだという。本人に確認してみると、どうやら数え方を間違えているようなのだった」

「とても積極的で、仕事へ取り組む姿勢もまじめで評価していたのだけれど、一緒に仕事をしている同僚たちと何となく折り合いが悪いように感じ、いじめとかがあったらいけないと思って事情を調べてみた。すると、たしかに積極的に動いてくれるのだが、間違ったやり方をすることが多く、正しいやり方を教えようとするのだけれど、いくら説明してもわからないみたいで、どうにも理屈が通じず閉口しているという」

「コミュニケーション力重視で採用したため、職場にすぐに溶け込み、この採用は成功だと思っていた。これならお客相手でも気持ちの良い応対をしてくれるだろうと期待したのだが、これが大誤算だった。お客と揉めることがあり、しばしばクレームが来るため、事情を聴取すると、どうもお客の要求や説明を理解できないようなのだ」

「先輩が意地悪をして仕事を教えてくれず、やり方をマスターできず困っているという相談を受け、これは困った、いったいどうなっているのかと思い、先輩にあたる人物に率直に尋ねてみると、『何度も教えてますよ。何度教えても頭に入らないみたいで、また同じことを聞いてくるので、前にも教えたけどと言って教えると、それは教わってません、初めて知りました、なんて言うんですよ。頭が悪いのか、被害妄想なのか、ほんとに困っちゃいますよ』と言うので、こっちも困っちゃいます」

「ふつうは教わりながら仕事をしているうちに、だんだんできるようになっていくじゃないですか。だけど、今度の人は、ようやく先月できるようになったことが、突然できなくなったりするんです。まずはじめは簡単なことから教えるから何とかできるんですけど、だんだん複雑なことを教えていくと頭の中が混乱して、前はできたことまでできなくなるみたいなんです。どう指導していったらいいのか、悩んじゃいます」

「ふつうにできるだろうと思う判断ができないんです。だからなかなか仕事を任せられない。本人と話しててわかったのは、記憶がすぐに消えてしまうらしいということ。前日に取引先から相談の電話があったと本人から聞いたため、『昨日相談があった件だけど』と言うと『何のことですか?』と言う。それで『取引先から相談の電話があったと君が言ってた件だよ』と言うと、『それ、私じゃないですよ』と真顔で言う。こんなふうに記憶がなくなるから適切な判断ができないのかと思うのだけど、じゃあどう指導したらいいのか、ほんとに困惑しています」

「新人が見当違いな説明を顧客にしているのが聞こえてきたため、『そんないい加減な説明をしちゃダメだろう。だれに教わったんだ?』と尋ねると『……だれからも教わってません』と言う。そこで、『勝手にいい加減な説明をしちゃ困るな。なんであんなことを言ったの?』と重ねて尋ねると『……何となくそう思ったから……』などと言う。頭の中がどうなってるのか、さっぱりわかりません」

「できるようになってもらうには、仕事のやり方が間違っていたり、効率の悪いやり方をしていたりしたら、注意したり、アドバイスしたりしないといけないじゃないですか。そうしないと仕事力が向上しない。ところが、注意したとたんに暗い表情になって、やる気をなくしちゃうんです。そんなに落ち込むことはないし、修正してくれたらいいだけなのに。何だかパワハラを疑われそうで、もう指導を放棄してしまいたいと本気で思うこともあります」

「仕事上のミスがあまりに多いので、ミスを指摘して、『やった後に振り返って、間違ってないかどうか確認した方がいいよ』と親切のつもりでアドバイスしたのに、ムッとした表情になって、『それって説教ですか? 上から目線でものを言うの、やめてもらえませんか』とか言うんですよ。嫌になっちゃいますよ。すぐに感情的にならずに、もっと冷静に受け止めてほしいんですけどね」

「まじめだし、頭もいいと思うのですが、人と接するのが苦手みたいで、せっかく商品知識とかきちんと頭に入っているのに、営業の仕事は向いていないので、自信がないって言うんです。人と雑談がうまくできないので、営業先の人と話さないといけないって思うだけで不安になり、気持ちが萎縮してしまうみたいなんです。どうしたら不安を和らげてあげられるのか、悩んでいます」

 このように管理職を困惑させるさまざまな事例があるが、多くの事例で感じるのは、こちらが当然と思う理屈は相手も理解するものと信じているということである。そのため、こちらが相手のためと思って言ったのに納得してもらえなかったり、反発されたりすると、何か誤解があるに違いないと思う。そして、こちらの理屈をもっとていねいにわかりやすく説明すればわかってもらえるはずだと思う。だが、いくらわかりやすく、論理立てて説明したつもりでも納得してもらえなかったりする。

 そこには大きな勘違いがある。

 まず第1に、人はだれでも理屈を理解すると思っている、つまり論理的に物事を考えることを前提としているが、それは違う。立場や理解によって物事をとらえる枠組みが異なるため、採用する理屈が違って当然だというような高次の話ではない。単に理屈を理解できない人もいるということだ。頭の中が論理的に整理できていない人もいるのだ。そういう人は意外に多いのではないか。その場合、何か誤解しているというより、論理能力が鍛えられていないため、こっちの言う理屈を理解できないのだ。間違っていることを指摘し、理由を説明してあげても、その理屈が理解できなければ、いちゃもんをつけられたように感じるかもしれない。

 第2に、人はだれでも理屈で判断するものと思い込んでいるのも大きな勘違いだ。常に冷静に物事を論理的に判断する人もいるが、気持ちで判断する人もいる。むしろ常に理詰めで判断する人より、気持ちに流される人の方が多いのではないだろうか。理屈に耳を傾ける前に、気持ちが拒否していたら、いくらていねいに説明したところで、まずは気持ちをほぐさない限り、わかろうという思いがないのだから、理解してもらえない。

 第3に、頭の中に蓄積されている言葉や知識が違えば思考の仕方が違うということを踏まえずに、話が通じるはずと思うのも大きな勘違いである。こちらが使う言葉、別に専門用語でなく日常の言葉であっても、日頃から本をよく読んでいる人とまったく読まない人では、持っている言葉が大きく違っている。理屈というのは言葉の組み合わせで成り立つものだし、私たちは言葉でものを考えるのだから、持っている言葉が違えば話はなかなか通じない。知識も同じだ。持っている言葉や知識が違えば、頭の中にはまったく異なった世界が構成されている。そこを踏まえて説明の仕方を工夫しないと、なかなかわかってもらえない。

 第4に、以前に経験したことや話したことを覚えているのを前提としているところに大きな勘違いがある。人により記憶力には著しい違いがある。それは、家族の間でも「言った」「言わない」、「言った」「聞いてない」のすれ違いがしばしば生じることから、だれもが日常的に知っているはずだ。ゆえに、こちらが過去の出来事や話したことを踏まえて言っているのになぜわかってくれないのかと苛立ってもしようがない。向こうにはそんな記憶がないのだから、話が通じないのも当然なのである。

 第5に、だれもが根拠があってものを言ったり行動したりしていると思い込んでいるのも大きな勘違いである。ただの思いつきでものを言ったり行動したりする人もいるのだ。仕事の場ではそんないい加減なことをする人などいるはずがないと思うかもしれないが、自分の内面の動機を振り返る心の習慣のない人にとっては、それはごく自然なことだったりするのである。

 このような事例はあげていったらきりがないが、おおまかに3つの問題に分けることができる。それは、認知能力の問題、メタ認知能力の問題、非認知能力の問題の3つである。そこで、つぎの章から順番にこれら3つの問題に相当する事例を見ていきたい。

 認知能力の問題、メタ認知能力の問題、非認知能力の問題、それぞれが何なのかについては、第4章で整理するとして、まずは具体的な事例を通して、職場にありがちな今イチな人材にみられる問題点とその対処法について考えていきたい。

【目次】

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