その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社米州総局(編)の『 あなたの知らないアメリカ 』です。
【まえがき】
アメリカとはどんな国か。
日本でもアメリカに関する情報はあふれています。日々の新聞やテレビ、SNSでも、トランプ米大統領の奔放な発言やウォール街の投資情報、シリコンバレーの人工知能(AI)開発、メジャーリーグでの大谷翔平選手の活躍ぶりなどが伝えられない日はありません。
街を歩けば、あるいはSNSのアプリを開けば、アメリカ発の音楽が流れ、ハリウッドのスタジオ制作の映像が目に飛び込んできます。肌身離さずアップルのiPhoneを持ち歩き、チャットGPTやグーグル検索が生活に欠かせない多くの人からすれば、アメリカほど身近な国はないということにもなるでしょう。
それでも「どんな国か」という問いに答えるのは簡単ではありません。
華やかなセレブとホームレスが、同じ街の数ブロック離れた場所で共存する国。移民の頭脳が最先端のテクノロジーを生み出し、移民労働力に生活に必須な多くのサービスを頼りながら、政権が不法移民の締め出しに躍起になる国。そして、保守とリベラルの分断が深まり、政権交代のたびに政策が揺れ動きながら、世界最強の経済と軍隊を維持している国──。
不思議の国、アメリカ。この国の実相に近づくためには、政治や経済、文化といった特定の断面から分析するだけでは十分ではないでしょう。
私たち取材班が選んだのは、アメリカで暮らす様々な人々の生活や思いについて、背景にある経済や制度、歴史を含め、ストーリーとして描くという手法。一見余分にも見えるディテールにも配慮し、いくつものストーリーを積み上げていけば、アメリカという国のありようが立体的に浮かび上がるのではないかと考えました。
本書に登場するのは、月30万円の保育料に悩む40歳の妊婦、歯科治療に700万円かかると言われてコスタリカでの治療を選択したコロラド州の男性、シリコンバレーの「ハッカーハウス」で腕を競う30歳のエンジニア、仲間に裏切られて足を洗ったマフィアの元大物といった人々。アメリカ発の一般的なニュースにはあまり登場しない人々を日本経済新聞米州総局の記者が追いかけ、36のストーリーを用意しました。
アメリカの中流の人々の暮らしにくさを実感できれば、この国の分断がよりリアルに思えるかもしれません。ワシントンのロビイストの活況ぶりを知ることは、時に矛盾しているようにもみえる政権の政策決定の理解につながるでしょう。
アメリカという国を完全に理解することはもとより至難の業です。ただ、理解しようと努めることで見えてくるものが多いこともまた事実です。アメリカに何らかの関わり、興味があり、この国をもっと知りたいと願う人々の一助になれば、取材班一同、これに勝る喜びはありません。
2026年3月
日本経済新聞米州総局 「あなたの知らないアメリカ」取材班
(本書は日本経済新聞電子版の記事を基に加筆・再構成した。登場人物の年齢や肩書、社名、為替換算などは原則として電子版掲載時のままとした)【目次】






