その本の「はじめに」には「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はユージーン・H・スパフォード、レイ・メトカーフ、ジョサイヤ・ダイクストラ(著)、金井哲夫(訳)、徳丸浩(監訳)の『 はじめて学ぶ最新サイバーセキュリティ講義 「都市伝説」と「誤解」を乗り越え、正しい知識と対策を身につける 』。ヴィントン・サーフ氏による「前書き」をお届けします。
【前書き】
ユージーン・スパフォードから前書きを依頼されたとき、私は先に少しだけ読ませてほしいと頼みました。まず目次を見て、人を惑わす都市伝説を面白おかしく紹介しているところに引き込まれました。タイトルはいっそ、『Cybersecurity Mythconception』(訳注1)にすべきだと思ったほどです。素晴らしく明瞭にして平易な掴み、自虐的で飄々(ひょうひょう)とした語り口でもって、自分もきっと都市伝説を信じてしまうに違いないと思わせます(まあ、すぐに理性を取り戻すことと思いますが、それほど説得力があるということです)。
冗談はさておき、これは重要な本です。総じてサイバーセキュリティとは、どのソフトウェアを使うか、どの対策をとるか、どの安全原則に従うかを判断することだと言えます。私たちはなぜミスリードされるのか、その明確な説明はじつに効果的です。サイバーセキュリティの都市伝説をひとつずつ解き明かすにつれ、「こんなアホらしいことを信じるとは気が知れない!」と我々は優越感を抱くようになります。誰がそんなものに引っかかるものかと人は思いがちですが、それがかえって個々のケースを頭に焼き付けてくれます。
そのスタイルは、かの有名なC.S.ルイスの『悪魔の手紙』を思い起こさせます。老いた悪魔が若き弟子ワームウッドに、善の道から遠ざけその行動を正当化することで人間は簡単に操れると諭す話です。ネットワークの安全を保つのは難しい問題です。インターネットおよびプログラミング可能なあらゆるものは、悪意のある行為ばかりでなく、プログラマーやネットワークオペレーターや、その他の人たちのミスによって危険にさらされることもあります。
私は昔から、オンラインのサーバー環境における安全の鍵(かぎ)は結果責任とエージェンシー(主体性)だと信じています。悪者は、探し出して責任を負わせなければなりません。そのためには、匿名性の隠れ蓑(みの)を見抜く力と国際協力が必要になります。なぜならインターネットのようなサイバー空間では、日常的に国境を越える運用がなされているからです。エージェンシーもきわめて重要です。サイバー空間の参加者は自衛手段を備えるべきですが、それには危険な、または犯罪的な行為を追跡する法的枠組みや協定も含まれます。
なかでも強力な防衛ツールに「クリティカルシンキング(懐疑的思考)」があります。この本が伝えようとしているのは、サイバー空間でのリスクに対してもっと懐疑的になる方法です。たやすく身につくものではないので、多少の訓練は必要になるでしょう。悪者は我々の人間としての弱みにつけ込んできます。悲しいかな、困っている人を助けずにはいられない私たちの善意すら狙われます。そのため、そうした人間性やポジティブな社会感情を狙った詐欺は数知れません。この本は、そんな策略を見破る方法を教えてくれます。また、2要素認証や多要素認証、暗号化、バックアップ、冗長化といった安全施策・対策も伝授しています。21世紀のこの複雑なサイバー空間では、問題はさまざまな形で発生します。人もビジネスも政治も、リスクから身を守らなければなりません。いつの場合も、転ばぬ先の杖なのです。
この本を読んで、笑うところでは笑って、学んだことを実践していただきたい。決して後悔はさせません。
インターネットの父ことヴィントン・サーフ
2022年8月
【目次】








