その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は池田昌人さんの『 仕事は1枚の表にまとめなさい。 』です。
【はじめに】
「表で」考えるということ
私が様々なことを表にまとめ、考える際にも表を用いるようになったきっかけは、次のような孫正義社長(当時。以下、孫さん)の言葉でした。
「お前は凡人なんだから、三次元、四次元でものを考えられないだろう? だから二次元のものをたくさん作れ。二次元の分析が重なって立体となり、より深い理解ができる」
忘れもしない、ソフトバンクの前身、東京デジタルホンからソフトバンクモバイルになり、マーケティングの部署にいた2008年のことです。
当時私は、携帯電話の新しい料金サービスや割引サービスなどを企画する業務に携わっており、その提案を孫さんにする機会がありました。私が様々なデータを収集して分析し、資料を作成したところ、
「分析の仕方が甘い」
と指摘されたのです。
さらには、分析結果として提示した事柄についても、
「この1つの図でそこまで言うのは言い過ぎだ」
とも言われ、提案の内容以前の問題で突き返されることとなりました。
そのとき、困惑する私に投げかけられた言葉が、先の「二次元のものをたくさん作れ」だったのです。
二次元、つまり表を作って考えろと言われたものの、何をどう表にするか、最初は戸惑(とまど)いました。
マーケティング施策は多くの場合、年齢や性別、都道府県といった複数の基礎データに、購入実績や嗜好(しこう)などの行動データ、期待される施策の効果やコストなどを掛け合わせて考えます。複数のデータを掛け合わせて考えるのだから、資料が三次元、四次元の図になるのは当たり前のこと。当時の私は、そう思い込んでいました。
それを二次元の表にするということは、掛け合わせられる要素(軸)が2つに絞られるということです。それでどんな結果が見えるのか、正直、最初は半信半疑でした。
とはいえ、孫さんの言うとおり、当時の私は、孫さんほどの経験や直観、洞察力はとうてい持っておらず、周囲の優れた上司たちのような分析力や専門性もない、本当に「凡人」でした。
それでも、孫さんに提案を通さなければならない。ならば、その言葉にあえて逆らう理由はありません。
まずは孫さんに言われたとおりに、とにかく手元のデータを「2つの軸」で掛け合わせていくことにしたのです。
まさに暗中模索。
ところが何枚も何枚も表を作っていく中で、不思議と、これまでの自分の分析の甘さや、提案すべきことが見えてくるように感じたのです。
様々なデータを2つの軸で掛け合わせることで、3つ以上のデータを掛け合わせるよりも鮮明に、そして単独のデータからは見えてこなかった価値が浮かび上がってくるように感じました。いわば二次元の表が自分の中で立体になったのです。
作った表は掛け合わせても散乱し、傾向が出ないもの少なくありませんでした。しかし、その無数の意味のない表に紛れて、新しい方向性が見えてきたのです。
これまで見落としてきたものまで見える。例えば、若い世代がターゲットだと思っていたけれども、むしろシニア層に向けたアプローチが必要だったというような示唆(しさ)を得ることができたのです。
なるほど、これが“二次元でものを考える”ということか!
孫さんの言葉がすっと腑(ふ)に落ちた瞬間でした。同時に、孫さんは表を作らずとも、頭の中でこれが構築できるのか、とその偉大さを再認識しました。
それから私は、必ず二次元の表を作成してものを考えるようになりました。
手元のデータを表にするという作業は、「マーケティングとはこういうもの」「この層にはこういう施策が当たるはず」といった思い込みを外し、多角的にものを考えることそのものだ、と気づいたからです。
もちろん仕事や案件は、その都度、状況や内容が異なるので、「この表を作れば必ずいい企画ができる」なんてものはありません。しかし、表は作れば作るほど、核心を捉えたものを作れるようになり、精度も上がっていきます。
私自身は今でも、表こそが、凡人の私が抜け漏れなく、ごまかしもなく深く物事を考えるための最良のツールだと思っています。
本書では、私が考え出したこの「表で考え、仕事を進め、形にしていく」方法について、みなさんにお伝えしていきたいと思っています。
仕事でも、プライベートでも
「大事な決断」ほど、私が表を使う理由
私は今でも、何か考えるべきことがあるときは、必ず二次元の表で考えています。
■仕事×表で考える
2020年初頭、世界中が「新型コロナウイルス」という未知の疾病(しっぺい)に襲われ、各地で死者も続出していた頃、私は日本で初めての民間企業によるPCR検査センターの立ち上げに奔走(ほんそう)していました。スクリーニング検査という新しい概念での検査です。
「PCR」という言葉すら聞いたことのなかった私が、その後1カ月で事業を立ち上げ、1日最大検査可能件数が2万1000件のセンターを作り上げることができた背景にもまた、この「表で考える」というプロセスがありました。
PCRとは何か? どんな人に協力を要請する必要があるのか? どんな設備・場所が必要か? 短期間で、実現は可能なのか?
孫さんに「手軽にPCR検査を受けられるようにしたい」と言われた当初は、わかることのほうが少ないくらいでした。
私にこの話が降ってきたのも、ソフトバンクのCSR部門を担当し、東日本大震災発災時に子ども支援の公益財団法人の立ち上げ・運用を経験しているから。私が医療に詳しいからではありませんでした。
こうしたビジネスの難題に対しても、私は数え切れないほどの表を作ることで、なんとか形にしてきました。
このとき、私がどんな表を作ることで、「SB新型コロナウイルス検査センター」を立ち上げることができたのか。その詳細は、具体的な情報整理の仕方や思考のプロセスとともに、2章でお話ししていきます。
■プライベート×表で考える
「表で考える」のは、プライベートでも同じです。
例えば休日の家族での外出先を決めるときも、頭の中に簡単な表を作ります。
「あそこに行けば近くに公園もあるし、帰りに買い物もできる、この時期は人出も少ない」
と表に当てはめながら分析するのです。
この習慣はもはや、私だけではなく、家族の習慣にもなりつつあります。何年か前に、念願のマイホームを持とうという話になったのですが、そのときには家族総出で表を作りました。
マイホームは言うまでもなく大きな買い物ですから、失敗はできません。
「なんでこんなところを買っちゃったのよ!」
「あのとき、お前がここがいいって言ったからだろ!」
なんてもめごとは、絶対に避けたい。
そこで、候補となる土地を横軸に置き、縦軸には家族それぞれの要望を聞き、重視したいポイントを並べていきました。
例えば私は「駅からの距離」や「通勤時間」、妻は「公園への距離」や「スーパーや病院などの利便性」、子どもたちは「学校までの距離」。書き出していくことで、それぞれのプライオリティの違いが浮かび上がりました。
立地だけでなく、広さや地盤など、気になることをとにかくピックアップするのです。家に関しても、施工業者ごとの耐震強度や断熱性、屋根や壁などの耐用年数をまとめた表も別に作っていきました。
まずは表の外枠を作り、わかっていることを書き込んでいきますが、最初からすべては埋まりません。
必ず、表が埋まらない箇所、すなわち「本当は必要なのに、まだわかっていない情報」があるはずです。
「表が埋まらない」ことで、「何を調べればいいのか」「誰に聞くべきか」が見えてくる。ならば、調べたり話を聞いたりして、表を埋めていけばいい。
「表を埋める」ことが、「抜け漏れなく考える」ことにつながるのです。
「現時点ではこれが最良だけど、子どもたちが大きくなったらどうだろう?」
「ここに家を建てたら、こんな過ごし方ができそうで、いい感じだね」
と、将来のシミュレーションや暮らし方にも考えが及び、家族間の理解や絆(きずな)も深まったように感じます。
また、表ができた時点で頭の中は整理されていますから、その後の不動産会社や工務店との交渉ごとも、とても円滑に進みました。何しろ、自分たちが重視している点が一覧表になっていて、その点についての業者間の違いを明確にした上で、相手と話せるのです。私のような不動産の素人(しろうと)でも、
「A社では、ここの費用はかからないと言われたのですが、なぜ御社では20万円が計上されているんでしょう?」
などと尋ねることができる。業者としても丁寧に説明せざるを得ない、というわけです。
この思考法は、引っ越し以外でも、人生に様々訪れる大事な選択で大いに役立つと思っています。
例えば進学や就職、転職。恋愛や結婚といった、感情面が大きく関わることも、いったん表にすることで見えてくるものがあるかもしれません。
これは、ビジネスでも同じです。ビジネスにおいては、上司やクライアントと対等でないことがほとんどです。立場が違う、権限が違う、視座が違う、情報量が違う……違いを挙げていけばキリがありません。
しかし、表を作ることで、どんな相手とも「同じフィールド」で議論ができるようになります。「天才と凡人」「上と下」という関係性ではなく、「ともに表を埋めていくパートナー」になれるのです。
被災地の子どもたちと一緒に
アメリカで学んで生まれたメソッド
みなさん、初めまして。池田昌人(いけだまさと)と申します。遅ればせながら簡単な自己紹介と、私がこの本を書くことになった経緯について、お話しさせてください。
私は1974年生まれの49歳。1997年に、現・ソフトバンクの前身である東京デジタルホンに入社以来、営業部門やマーケティング戦略部門を15年弱経験した後、2011年に異動。現在はソフトバンクのCSR本部長・ESG推進室長と、ソフトバンクグループのサステナビリティ部を兼任しています。
CSR担当としては、前述のPCR検査センターの立ち上げだけでなく、「つながる募金(インターネットを活用した日本初の募金プラットフォーム。2019年には累計寄付額10億円を突破)」や「Pepper社会貢献プログラム(人型ロボット「Pepper」を使ったプログラミング教育。2022年3月までに累計授業回数5万回を突破)」といったICTを活用した社会課題への取り組みや、地方創生と地域課題解決のための「地域CSR部門」を立ち上げたりしています。
なぜ、営業畑・マーケティング畑だった私が、CSR部門を束ねるに至ったのか。そのきっかけは、2011年、東日本大震災発災時の、社内有志で立ち上げた震災支援プロジェクト、そして、東日本大震災復興支援財団(現・子ども未来支援財団)の立ち上げへの参画にありました。
ただボランティアチームを組んだり寄付活動をしたりするのではなく、財団を立ち上げようと思ったのには、理由があります。それは、私自身も子どもを持つ親として、
「被災した子どもたちが大人になり、そして地域の中で活躍できるようになるまでは、支援を継続するべきだ」
と強く感じていたからです。
幸いにもこうした思いをくんでくれる上司に恵まれたことで、CSR部門に異動することができました。
ソフトバンクグループのCSR部門として、被災地の子どもたちに何ができるかと考えて立ち上げたのが、在日アメリカ大使館の協力を得て実現した「TOMODACHI(トモダチ)サマー・ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム(現・TOMODACHI サマー・ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム2.0~未来に向けてのレジリエントなコミュニティづくり~)」です。
東北の未来を担う人材・未来の起業家や自ら行動できる人材を育成するために、東日本大震災発生時に岩手県・宮城県・福島県に居住していた高校生(2.0からは大学生も対象)に米国カリフォルニア大学バークレー校などで3週間、地域貢献やリーダーシップについて学んでもらう。このプログラムは2012年からスタートし、のべ1000人を超える高校生に参加してもらいました。
町の課題を把握し、それを解決する方法を探すために、フィールドワークやワークショップを行い、ディスカッションやプレゼンテーションでよりよい策を提案していくという内容です。
「ディスカッションが楽しかった」
「初めての経験ばかりで興味深かった」
など、参加した高校生たちからのうれしい感想も寄せられました。しかし、このプログラムを組んだ者の一人として、一抹の不安がありました。
3週間の間、高校生たちは確かに、実習が中心の米国流の学びに没頭していました。しかし、日本の座学中心の教育を受けてきた高校生たちの多くは、「それらの実習にはどういう意味があり、今後の現実の社会の中でどう生かしていけるのか」というところまで、考えられていなかったのです。
実習にちりばめられた米国一流大学の先生方の「思考のスキル」に気づき、吸収している高校生はごくわずかでした。
米国での学びが、ただの「いい思い出」になってしまっては、もったいない。どうすれば彼ら・彼女らが能動的に課題を見つけ、解決策を考え、目的を見据えて実行できるのか。
そこで、帰国した高校生たちに向けて、米国での学びを復習する講座を実施することにしました。
どうすれば、米国での経験を生かすことができるのか。実践できる能力として身につけられるのか。どうすれば、より多くのことを社会に還元できるのか。そう考え抜いて生まれたのが、本書でお伝えするメソッドの原型です。
そう、実は私が孫さんの近くで仕事をする中で学んできたことと、米国の先生方の教えには、共通点がとても多かったのです。米国での高校生の学びを間近に見ていく中で、私自身が実務を通して学んできた細切れのノウハウが、体系化されていったのだと思います。
ありがたいことにこのノウハウは、高校生はもちろん、体験していただいた社会人からもご好評をいただいたことで、これまでにのべ6000人を超える方々に「池田ゼミ」として研修をさせていただきました。北海道から沖縄までの全国の市町村だけでなく、経営者のみなさんへの研修にも呼んでいただいています。
本書は、そうした研修のテキストとしても活用できる1冊だと考えています。
本書でお伝えしていくこと
さて、これまでお見せした表に、どのような感想を持ちましたか? もしかしたら、
「方法を教えてもらうまでもなく、簡単にできそう」
と思われたり、
「2次元の表だけで本当に抜け漏れなく考えられるのか、疑わしい」
と思われた方もいるかもしれません。
確かに、2次元の表ならば、私たちは子どもの頃から何かと作ってきているはずです。「それらしい表」であれば、誰でも作ることができると思います。
ただ、そうした表を、単なる情報の整理のために使っていたり、「見える化」の一環としていたり、記録として残すための形式的なものと捉えたりしている方も多いのではないでしょうか。
その使い方では、表の本質を理解しているとも、表の実力を使い切っているとも言いがたい、と私は考えます。
表というのは、「抜け漏れなく、多角的に物事を考える」ツールであり、「思考を整理する」ツールでもあります。複雑な物事も、表に適切に落とし込めば、すっきりクリアに見えてくるでしょう。
また、例えば「キックオフ時点であっても、打ち合わせの前にはこのくらいまでは最低限考えていかなければいけない」とか「ここまで考え抜いてはじめて“ベストを尽くした”と言える」というような、プロとしての心構えの部分も、表を通して理解することができるでしょう。
表はコミュニケーションツールでもあり、合意形成に至るための最短ルートともなり得るものです。さらに言えば、会社の上司や部下・同僚、ビジネスパートナー、お客様とのいい関係性の形成につながったり、家族で楽しく過ごすことができたりと、表の可能性は無限に広がります。
表で考えるというのは、ただ単に事実を整理したり、見た目をよくしたりすることとは本質的に違います。
本書では、そのシンプルな2次元の表が持つ力とその活用法だけでなく、私自身が得てきたビジネスの心構え──仕事で成功するために大事にしていることなども、お伝えしていきます。
私自身が決して優秀なビジネスパーソンとはいえなかった未熟な頃、私は冒頭のような言葉を孫さんからかけられたことをきっかけに、数千枚、いや数万枚でも足りないくらいの表を作ってきました。その中で編み出した表の作り方・使い方を、少しでもみなさんにお役立ていただければ幸いです。
【目次】













