その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大石芳野さんの『 あすへの記憶 』です。
【はじめに】
「戦争は終わっても終わらない」とわたしは写真集や著作などでも主張し続けてきた。けれど現状は厳しく事態は深刻になり複雑化している。強国の攻撃を受けたら、弱小国は他国の援助に頼るしかない。人びとの人権と尊厳を護(まも)るのに必須(ひっす)だから。
生涯にわたって人びとの「踏み潰された」傷は心の奥に残り続ける。二十世紀の日本人が体験した戦争、その後のベトナム戦争などが再現される今の悍(おぞ)ましさのなかでわたしたちは生きている。
子どもが成人したら、心の奥底に疼(うず)くその傷は消えるだろうか。目の前で家族が殺され住まいが破壊され、飢えに苦しむ日々を忘れるだろうか。イスラエル人はナチスへの怨念も深く「被害意識」のトラウマから抜け出せないと謂(い)う。けれど、その姿はガザの人びとの未来に酷似する。
もしガザにわたしが生まれていたら……。ユダヤ人の歴史的な苦悩を鑑みて、今の途轍(とてつ)もない攻撃を仕方がないと思い、許せるだろうか。同じ人間として静かに深く考えてみたい。
「戦争は終わっても終わらない」。いまだに傷痕に苛(さいな)まれる個人。弾丸に苦しむパレスチナ、ウクライナ、はたまた内紛に苦しむミャンマーやスーダンの人びと。終わらない戦争という現実に暗澹(あんたん)となる。
惟(おもいみ)ると、小石を水面に投げれば波紋ができる。一人の声は小さくても伝播(でんぱ)していく。個人の存在は小さな石でも、集まれば広場にもなる。その力を信じながら写真の道を歩いてきただけに、微力だけれど諦めたくはない。小さな石を投げ続ければ、何かが変わる可能性に期待したい。
【目次】



