その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は原マサヒコさんの『 トヨタの時短術(日経ビジネス人文庫) 』です。

【はじめに】

 ああ、忙しい。なんでこんなに忙しいんだろう。
 仕事が全然終わらないし、やりたいこともできない……。
 もっと楽しんで仕事をしたいし、自分の時間も増やしたい。

 本書は、こんな悩みを抱える人に、仕事に関する「時短」を実現していただくことで、ご自身を忙しい毎日から解放し、充実した人生を送っていただくための本です。
 多くのビジネスパーソンが口にする「忙しい」という言葉。「心を亡くす」と書く、とてもネガティブな言葉。私はこの言葉がとても嫌いです。
 多くの人がこの言葉を使うのは、じつは「ラクだから」なのではないかと私は思っています。「忙しい、忙しい」といいながら、目の前の仕事をただただこなしていれば、自分の頭で何も考えずにすむわけですから。

 逆にいえば、ほんの少し考え方を変えるだけで、あなたの仕事は劇的に速くなり、自由に使える膨大な時間を作り出すことができるということ。
 本書でお伝えする時短術は、仕事にかかる時間を短縮し、あなたの人生をよりよくするための時間を作り出すと同時に、仕事の成果を挙げるためのものです。
 一見すると、この二つは相反することに思えるかもしれません。しかし、この二つには密接な関係があります。
 本編で詳しく解説しますが、多くのビジネスパーソンが日々向き合っている仕事のなかには、じつはやらなくてもいい仕事、やり方を少し変えるだけで大幅に効率化できる仕事がたくさんあります。
 そういったムダな仕事や動きを見つけ出し、より効率的なやり方に変えていくことができれば、最小の時間で最大の成果を挙げることができます。これが実現できれば、仕事がより楽しくなると同時に、自分の時間を増やすことができるのです。

 なぜ、私がこのようなことをあなたにお伝えできるのか。それは、私のこれまでの経験にあります。少し私のことをお話しさせてください。

 私は現在、会社を経営するかたわら、こうして執筆をしたり、全国を飛び回って講演活動をしたりと、楽しく仕事をさせていただいています。
 とはいえ、そのぶん家庭を犠牲にしているかというとそうではありません。子供が小さいうちは毎日のように一緒に遊ぶ時間をつくり、また毎月のように家族で旅行をしていました。
 では働く時間を短くして収入を落としているのか、というとそうでもありません。私は以前、サラリーマンをしていたのですが、そのときと比べ少なくとも収入は3倍以上に増えています。
 とても充実した人生を送っているところですが、なぜそうなっているのかというと、まさに本書のテーマである「時短」に秘密があります。「時短」を意識しながら仕事に臨んでいるからこそ、このような生活を送ることができているのです。

 じつは、私に「時短」の考え方のベースを叩き込んでくれたのは、最初に入社した「トヨタ」の販売店である神奈川トヨタ自動車でした。そして、今でもそのときの考え方を元にしながら仕事をし続けているというわけなのです。

 トヨタで学んださまざまな考え方やノウハウが、私の人生を変えてくれたのです。
 ご存じの方も多いと思いますが、トヨタには昔から、作業のムダを極限まで削り、生産性を高めていくという文化があります。本編で詳しく解説しますが、勤務中の歩く速さ一つにも意識を向けるくらいムダを嫌うのです。これを突き詰めて考えると、時間のムダをなくすこと、つまり「時短」につながる、と私は考えています。
 本書では、その考え方やノウハウを、順を追って解説していきたいと思います。とはいえ、「トヨタのやり方って、製造現場でしか通用しないんじゃない? ホワイトカラーの私にはマネできないよ……」と思った人も多いのではないでしょうか。もちろん、本書ではトヨタのやり方をただ紹介するわけではありません。製造現場のノウハウをそのままお伝えしても、ご自身のお仕事に応用していただくことが難しいからです。
 私は、トヨタの販売店を退職したあと、IT企業に転職。いわゆるホワイトカラーの職場を経験したのち、自分で会社を立ち上げました。
 また、さまざまな企業に講演を提供していることもあり、数多くの残業に悩むビジネスパーソンと接し、その方々にトヨタの時短術をお伝えしてきました。

 本書では、その経験を活かし、どんな仕事をしている人にもトヨタのノウハウを取り入れていただけるよう、アレンジしてお伝えしていきます。

 なお、2016年に単行本として出版された本書は、2026年に文庫化することとなりました。
 新型コロナウイルス禍などにより働き方改革が進み、長時間労働はよくないという認識が広まり、また時短に大いに役立つ生成AIのような新しいツールも登場しました。しかし、実際には思うように時短ができていない人も少なくありません。そんな人こそ、本書で解説するトヨタの時短の考え方が参考になるはずです。
 単行本の出版から10年たちましたが、基本的な考え方はいまでも十分に通用するものです。文庫化に際し、さまざまな仕事を取りまく状況の変化に合わせて適宜、加筆・修正しました。

 「忙しい、忙しい」とボヤいていても何もはじまりません。少し厳しいいい方になりますが、時間は自分で作り出すものであり、「時間がない」というのは「自己管理を怠っている」ということの裏返しでもあるのです。
 ぜひ、自分自身で時間を作り出し、好きなことに使っていきましょう。
 人生は時間の使い方一つで劇的に変わります。
 さあ、ページをめくって人生を変える扉を開けましょう。

原マサヒコ


【目次】

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