その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は飯田真弓さんの『 税務署はやっぱり見ている。 』です。
税務署は副業も見ている―新版化に際してのまえがき
二〇〇八年に国税を後にして一五年。私が初めての書籍、『税務署は見ている。』を刊行してから一〇年が過ぎました。
「十年一昔」とはよく言ったもので、税務署を取り巻く環境も大きく変わりました。
もともと私が国税で働くきっかけは、「細く長く、結婚しても子どもを産んでからも勤められるだろう」という理由で公務員を選んだからでした。国家公務員税務職が、高卒女子を初めて採用するというもの珍しさだけで採用試験を受けたのです。
税務署がどんなところなのかも、税務調査という仕事があることも知りませんでした。
年功序列、終身雇用が当たり前の世代でした。
ひょんなことから私は定年を待たずして退職し、現在に至るわけですが、税務署に二六年勤め続けたことで、こんなふうに本を書けるのだから、人生何がどう転ぶかわからないものだと思っています。
最近は、テレビをつけると転職情報のCMをよく目にします。今や転職は珍しいことではなくなったということなんでしょう。働く人たちの間でも、「会社に骨を埋める」という感覚は薄れてきているように感じます。
税務調査に関する講演をする一方で、「若手社員が何を考えているのか知りたいんです」と訴える中小企業に出向き、離職率を下げるための研修を行っている私としては、ちょっと複雑な気持ちにもなります。
転職はしないまでも、「副業」をしているという会社員の方、結構いらっしゃいます。
かつては副業というと、会社に黙って小銭を稼ぐというイメージもありましたが、今では解禁する企業も増え、ライフプランの複線化という面から広く推奨されるようになりました。
副業は、キャリアの可能性を広げたり、スキルを豊かにする、などいろいろな効果がありますが、本業に加えて仕事をすれば、結果としてお金が手に入ります。大体において手取りが増えます。
手取りが増えるとは、平たく言うと「儲(もう)かる」ということです。
さて、「儲かる」と、私たちが必ずやらなければいけないことがあります。おわかりでしょうか。
そうです、納税です。
日本では、儲かったら、その分に対して税金を納めないといけません。法律がそう定めています。その手続きをする組織が税務署です。
今、この本を手に取ってくださっているのは、経営者の方や税理士の資格を持っている方かもしれません。あるいは会社員の方、さらには副業を始めて数年経つのだけれど、これまで我流で確定申告をしていて、
「はたして、このままで大丈夫なんだろうか……」
と不安になっている方かもしれません。いろいろな方がいらっしゃると思います。
さて、副業をされている方、ご注意ください。
実は、税務署は副業も見ています。
どのように見ているのか、そして「何か」を見つけたら、どのように動くのかは本文で事例を出して解説します。
私は、かつて『税務署は3年泳がせる。』という本も刊行しましたが、調査官はいろいろな理由から、すぐには、あなたのところへやって来ません。
後ろめたいことや不安なことがあっても、そのままにしていると、仕事にも身が入らなくなります。集中力を欠くとミスにつながります。
悪いことは言いません、適切な納税をお勧めします。
この本は、日経プレミアシリーズ『税務署は見ている。』をベースに、税務署とはどんな仕事をしているのか、税務調査はどんなふうに行われるのかについて、私が国税調査官として体験したこと、また税理士として全国の法人会や税理士会などで講演してきた経験をもとに解説したものです。
前作から新しくなった制度や変化した環境について、いろいろ加筆しています。
読み進めるうちに、あなたの税務署に対する不安が少しずつ和らいでいくことでしょう。
本書が、多くの方にとって、より活き活きと自分らしい人生を歩まれる助けになることを祈っています。
二〇二三年 飯田真弓
【目次】