その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は鈴木眞里子(グエル)著、日経PC21編の『 PDF最強実務ワザ大全 』です。
【はじめに】
書類はパソコンで作成するのが常識となり、電子メールも普及したことから、ビジネス文書を“オンライン”でやり取りする機会が増えました。もちろん、作成した資料を印刷して会議で配ったり、紙の申請書に手書きして提出したりすることは今日でもあります。それでも、会議資料の元ファイルを事前にメールで送り準備を促すのはよくあること。申請書などを電子化し、手書きの負担を減らしつつ、押印のために紙を回覧する手間を省こうという企業も確実に増えています。
コロナ禍を経て、在宅勤務やテレワークが一気に普及したことも、紙の文書が減る大きなきっかけとなりました。書類にハンコを押すためだけに出社をするという非効率。上司が在宅のため、なかなか書類を渡せないことによる時間のロス。そんな課題があらわとなり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の観点からも、デジタル文書をオンラインでやり取りすることの必要性、メリットが明白になっています。ビデオ会議やチャットといった新たなコミュニケーションツールを日常的に使うようになり、紙の文書を見る機会が激減したという人も少なくないでしょう。
そんな状況において、利用頻度が増しているのが「PDF(Portable Document Format)」です。アドビが開発したデジタル文書のフォーマットで、OSやアプリなどの環境が異なっても同じ見た目を再現できるファイル形式として、広く普及しています。普段からPDFを閲覧・作成している人は多いと思いますが、昨今はその機会がますます増えているに違いありません。
PDFの大きな利点は、上記の通り「同じ見た目を再現できる」ところです。Wordや一太郎などのワープロ文書の場合、相手がそのアプリを持っていなければ、ファイルを開くことすらままなりません。アプリを持っていたとしても、バージョンが異なったり、フォント(書体)のデータがなかったりすると、正しく表示できないトラブルが発生します。また、通常のワープロ文書はアプリでそのまま編集できるので、ファイルを受け取った相手が誤操作で内容を消してしまったり、意図的に改ざんしたりする恐れもあります。
これに対し、PDFは文書の再現性を担保するのみならず、簡単には編集や改ざんができません。そのため、完成形の“正式な文書”として取引先に渡したり、Webサイトなどで公開したりする用途にも使えます。電子メールやWebサイトなど、オンラインでの文書のやり取りが増えている今、うってつけの文書形式といえるでしょう。
裏を返せば、PDFを用いる場面は、特定の相手を意識した、ある程度オフィシャルな文書の作成時であるといえます。その意味で、読みやすさや信頼性、セキュリティなどについて、通常以上に配慮しなければなりません。PDFには、そのための機能も充実しているので、使いこなすスキルを身に付けておく必要があります。
「PDFは編集できない」というのは誤解
前述の通り、PDFには簡単に編集や改ざんができないという特徴がありますが、「PDFは編集できない」というのは誤解です。編集禁止の設定をしていなければ、PDFに赤字でメモを書き加えたり、申請書などのひな型に文字を入力して完成させたりできます(図1)。さらに、Acrobat Proなどの有料アプリを使えば、Word文書などと同じように中身を編集することができますし、一部の文字修正やページの入れ替え、挿入、抽出といった編集なら、無料のアプリやWebサービスでも可能です(図2)。手持ちのPDFを一部書き換えて再利用したり、PDFをWord文書やExcelの表に変換して新たなテキスト/データとして取り込んだりと、PDFの活用範囲は多岐にわたります。
PDFは作成して終わりというものではありません。閲覧するためだけのものでもありません。PDFが備える各種機能や便利な使い方をマスターすれば、仕事の無駄をなくし、業務効率をグンと上げることが可能です。
「PDFで配布された申請書のひな型に、パソコン上で直接入力して提出したい」「PDFで保存された契約書を流用して別の契約書を作りたい」「PDFでもらった統計資料をExcelに取り込んで分析したい」……。ビジネスの現場で遭遇するさまざまな課題や悩みを解決するには、PDFの活用ノウハウが不可欠です。その実務的なスキルを獲得するために、本書がお役に立てば幸いです。
日経PC21 編集長 田村 規雄
【目次】