その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は豊島晋作さんの『 不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質 』です。

【はじめに】

 「あの人の話、つまらないよね」と文句を言っていた人が、次の瞬間、さらにつまらない話をはじめた。「あの人の話、長いよね」と言った人の話が、長かった。みなさんには、こんな経験がないでしょうか。
 もしかすると、あなた自身もそう思われているかもしれません。

 この本は、そういう「つまらない」話、「長い」話、「伝わらない」話の“負のループ”から抜け出し、あなたの話を少しでも面白く、人に効果的に伝わるよう、可能な限りお手伝いするための本です。

 他人にとって、あなたの印象はあなたの「」で決まります。あなたが「何を話したか」が、あなたの評判を決めます。
 同じように、こうしたあなたの評価は、あなたが「何を話さなかったか」そして、どれだけ「人の話を真剣に聞いたか」でも決まります。

 この本は、そんなあなたの印象や評判を、なるべく高めるための本であり、なるべく落とさないようにするための本でもあります。

 人は、ありのままに「伝え」、ありのままに「聞け」ばいい。それが理想です。
 しかし、本書はそんなキレイ事や理想論を語るものではありません。むしろ、真逆の本です。コミュニケーションにおいて「打算的だ」と見なされる可能性のある行動や方法論についても率直に書いています。なぜなら、ありのままに「伝え」「聞く」ことは、実は人生の多くの場面で通用しないからです。

 そもそも、話が相手に伝わらなければコミュニケーションは成り立ちません。コミュニケーションが成立しないと、ビジネスでは誤解や損失を生み、プライベートでは人間関係のすれ違いにつながります。適切に伝えられなければ、自分の考えが正しく理解されず、時には不要なトラブルを招くことさえあります。
 みなさんも学校や職場などで、伝え方が下手なせいで周囲から相手にされなかったり、輪の中に入れなかったりする人を見たことがあるかもしれません。上司から「君は何を言っているか分からない」と責められた経験があるかもしれません。そういう残酷な現実が確かにあります。
 人生は、楽ではなく、理不尽で、ストレスの多いものです。ストレスの大部分は人間関係からやってきます。そして、人間関係は、誰かに「伝えたり」、誰かの話を「聞く」ことで成り立っています。私たちは毎日、会社でもプライベートでも、この「伝える」そして「聞く」行為に膨大な時間を費やし、そして疲れています。
 「伝え方」を間違えると、誰かを傷つけ、炎上してしまいます。一言のミスがSNSで拡散され、非難の的になる世の中です。「安全で誰も傷つけない言い回し」が大事だと言われます。ただ、そうした「安全な」言い回しは本当に伝わるのでしょうか?
 また、私たちは、伝えるときに「感情的になるのはダメだ」とも言われます。確かにパワハラや暴言は許されません。しかし、人間社会は感情で動いています。感情は「伝える」ときに極めて重要な要素です。表向きは感情をタブー視しながら、内部ではパワハラが横行する企業もあります。こうした感情の問題にどう向き合えばいいのでしょうか?

 この本では、このような課題をどう解決するかも考えます。

 そもそも私たちビジネスパーソンの仕事の大部分は、人に何かを「伝える」こと、そして「聞く」ことです。
 街のスターバックス コーヒーなどに行くと、多くの人がノートパソコンと向き合ってメールを送ったり、プレゼン資料を作ったりしていますが、それらも誰かに何かを「伝える」ための作業です。また、会社で開かれる多くの会議は、大勢に何かを伝えるために開かれています。他部署との調整、プレゼン、新商品発表、商談など、私たちは仕事の多くを「伝える」こと、そして「聞く」ことに費やしています。仕事からご近所付き合いまで、終わることのない伝言ゲームを繰り返しているのが人間の社会です。
 同時に、私たちは人類史上かつてないほど膨大な情報が飛び交う世界に生きています。SNS空間は「誰かに伝えたい」というメッセージであふれています。スマホを開けば、短い時間でインパクトの強いメッセージを伝えようとする動画が次々と流れてきます。

 また最近は、何か分からないことがあっても、ChatGPTなどのAIツールが、Google検索よりも速く効率的に「答え」を探し出し、あなたに届けてくれます。質問から答えが出るまでの時間がはるかに短くなった結果、AIツールを使いこなしている人にとって、従来のネット検索は「時間のかかる非効率なもの」になってしまいました。つまり、人はますます“待てなく”なっているのです。
 このChatGPTが世界に広がる前から、人間が集中できる時間は、過去十数年で12秒から8秒まで短くなったというリポートも出ていました。動画配信サービスやSNSの利用が激増し、現代人がテレビやスマホなど複数の画面を同時に見ている影響もあるでしょう。諸説あるとしても、人間が集中できる時間が短くなっているのは事実だと思います。ちなみにそのリポートでは、金魚が集中できる時間は9秒とされ、人間はそれより少し短いくらいということです。
 みなさんも30秒のYouTube広告にイライラしたり、3~4秒待ってもつながらないサイトに我慢できず、別のページに移動した経験があるかもしれません。YouTube動画では、再生開始からわずか30秒もたたないうちに多くの視聴者が離脱するという傾向がデータとして示されています。

 これは、世界が情報過多になるにつれコミュニケーションの形が以前とは変わり、あなたの話が伝わりづらくなっている。つまり、聞いてもらいにくくなっていることを示唆しています。

 しかし、話を人に「聞いてもらいにくい」状況は、実はあなたにとってはチャンスでもあります。つまり、人の話を聞いてあげれば喜ばれるからです。

 実際、この世界で人に好かれるための最も簡単な方法は、人の話をとことん聞いてあげることです。会社でも友人の間でも、たいてい人に好かれている人というのは、人の話を黙って「聞く」人であり、「共感」してくれる人です。話し手は、そういう人から共感や同情を得ることができるからです。
 「相談がある」などと言われると、アドバイスをしたがる人がいますが、最も重要なことは、とにかくその人の話をまず「聞く」ことです。相談といっても、結局は自分の選択や決断を正当化してほしい場合がほとんどです。相談を持ちかける人は、話を聞いてもらった後で、ゆっくり「それでいいと思う」「あなたは正しい」と言ってほしいのです。
 もちろん、単に人の話を聞けばよい、というわけでもありません。そこには様々なテクニックや考え方があります。この本ではそういう「聞く力」についても考えます。

 つまりこの本は、「伝える」こと「聞く」ことの役に立つ「武器」を、読者のみなさんに少しでも多く手渡すことを目的にしています。打ち合わせや商談、プライベートなど1対1の対話、大勢を相手にしたプレゼンなど、リアルなコミュニケーションに使える方法論を、それぞれ「鉄則」としてなるべく多くそろえました。

この本を書きたくなかった理由/書いた理由

 はじめまして。私はテレビ東京の経済ニュース番組「WBS(ワールドビジネスサテライト)」でキャスターを務める豊島晋作という者です。日々の放送では、多くの視聴者のみなさんにビジネスニュースを中心とした話題をお届けしたり、YouTubeなどでニュースの解説動画を発信したりしています。

 先ほど、私が書いた「武器」という言葉を嫌う人がいるかもしれません。「もう、コミュニケーションについてのテクニックを書いた本はいらない」と思った人もいるでしょう。
 これまで数えきれないほどの「話し方」「伝え方」の本が世に出ており、多くの人がすでにそうした情報を頭に入れているからです。それでも、「本を読んでも実践できない」「自分の話が全然伝わらない」「面白く話すことができない」と感じた経験がある人は少なくないと思います。そのため、「また同じようなノウハウ本か……」と考え、もはや新しいテクニックは必要ないと感じるのも無理もない話です。

 正直に言うと、私も「テクニック」についての本は書きたくありませんでした。
 普段はWBSのスタジオにほぼ無表情で座っていますが、この本を読めば、私が「何を考えているのか」がバレてしまうと思ったからです。先ほども率直に書いた通り、本書には対人コミュニケーションで「打算的」と受け取られる可能性がある内容も書いています。私の仕事は、多くの取材対象者の話を「聞き」、「伝える」ことですが、その仕事の本音の部分を赤裸々に書いてしまうと、「豊島はこんなヤツだったのか」「イヤなヤツだな」と軽蔑されるかもしれないと怖かったからです。
 それに、テクニックはコミュニケーションの本質ではないからです。「伝え方」や「聞き方」のテクニックを持っていなくても、人を感動させるスピーチをしたり、人の本音を引き出したりする人はいます。あくまで、その人が伝えるメッセージの内容が本質であり、誠実さや信念、人生経験といった要素が伝える力に大きな影響を与えるからです。

 それでも、私はこの本を書くことにしました。
 理由は、かつての私が「話すのも聞くのも苦手な人間」だったからです。今も、私と同じように苦しんでいる人がいるかもしれません。そうであれば、私の失敗や挫折などの苦い経験が読者のみなさんの役に立つかもしれない、そう思ったからです。

 人に何かを伝える以前の問題として、私はそもそも世の中の物事を理解することに長年苦しんできました。幼少期は、一人だけ鍵盤ハーモニカが吹けない、本が読めない、幼稚園や小学校の先生が何を言っているのか理解できない──。物事を理解するのが遅く、勉強などでも当初は周りの友達についていけませんでした。
 また、幼少期に割とキツいいじめにあったせいで、自己肯定感は低く、人と話すのも苦手でした。友達も多くはありませんでした。正直、今も多くはありません。私の人生の多くのタイミングにおいて、他人との意思疎通、つまりコミュニケーションは苦痛でしかなかったのです。
 あまり振り返りたくはありませんが、学生時代から社会人になる頃も、人から「謙虚さを持て」と言われるたびに、卑屈になっていきました。「自分には価値が無い」と思って人との関わりを拒絶していた時期でした。一方、あまりに卑屈になっていると、逆に「自信を持て」と言われ、すると今度は高慢になっていたこともありました。

 そんな反省もある中で、今になって分かるのは、他人との意思疎通、コミュニケーションにおける最大の課題は、こうした自己の内面にあるバランスだということです。つまり「卑屈」にならず「謙虚」になること。「高慢」にならず「自信」を持つこと。この適切なバランスを「伝える」場面や「聞く」場面に生かすことです。
 他人との意思疎通が楽になれば人生は楽になり、他の人を不必要に傷つけることも少なくなります。本書には、私のように他人との意思疎通に苦痛や課題を感じてきた人に、ほんの少しでも楽になってもらいたいという強い思いも込めています。

 そして、先ほど「テクニック」は本質ではないと書きましたが、一方で「テクニックを重ねて本質にたどり着くことがある」のも事実です。
 日本の武道でも初心者は最初に「型」を学びます。型は単なる技の手順ではなく、身体の使い方や間合い、力の流れなどを身に付けるための基礎となるものです。こうした型の稽古を重ねることで、単なる動作の習得を超え、最終的にはその背後にある哲学や精神など本質の理解へとつながっていきます。同じような意味で、「テクニック」は決して馬鹿にはできないものです。
 それに何より、プレゼンやスピーチ、商談など多くの場面で「伝える」と「聞く」、両方のタスクを背負った社会人のみなさんにとって、テクニックを重ねることは実際問題として必要だと思います。

 もし、多くの人々が「伝える力」「聞く力」を持てば、互いの時間は節約され、無駄な会議の時間も減るでしょう。こうしたことも、私が本書を書いた動機になっています。

 「伝える」「聞く」について多くの失敗をしてきた私ですが、今はテレビやYouTubeを通じ、多くの人々に世の中の出来事を伝える仕事をしています。私が世界や経済のニュースなどを解説する「テレ東BIZ」のYouTube動画の再生回数は合計で2億回を超えました。

 この本では、私が過去の失敗や苦い思いを通して学んだ「自分の考えや情報を人に伝える方法」そして「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、非常に基本的な部分から応用的な要素まで、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。私が、人とのコミュニケーションにおいてもっと早く知っておけばよかったと考えていることを中心に書きました。
 読者のみなさんにとって「当たり前」だと思われる内容も含まれるでしょう。しかし、その無意識の「当たり前」をあえて言語化して意識付けすることが大事だと考えています。
 なぜなら、「当たり前」と思っていることほど、深く考えずに流してしまい、実際には正しく理解できていなかったり、意識せずに実践できていなかったりするからです。伝える力を高めるためには、そうした「当たり前」をしっかり踏まえたトレーニングがまず必要です。本書は、そうした実践のための本だと思って読んでいただければ幸いです。

【目次】

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