その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は今井むつみさんの『 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策 』です。

【はじめに】
認知科学が教える
コミュニケーションの本質と解決策

 伝えたいことがうまく伝わらなかった、という経験は、誰もが一度はしたことがあると思います。
 何回説明しても、伝わらない。
 依頼した通りのものができあがらなかった。
 厳守と伝えた締め切りが守られなかった。
 勘違いされて、物事がうまく進まなかった。
 一生懸命説明しているのに、部下や子どもの理解度が上がらない。
 大切な約束を忘れられて、トラブルやけんかになった。
 仕事に限らず、家庭でも学校でも、こうした悩みは後を絶ちません。

 本書では、私たちが抱えるコミュニケーションの困り事について、認知科学と心理学の視点から、その本質と解決策について考えていきます。
 認知科学や心理学に興味をお持ちの方はもちろん、上司や部下・同僚、取引先ともっと円滑に仕事を進めたいビジネスパーソンの方、指導法を学び日々工夫して子どもたちと向き合ってこられている教員の方、パートナーや子ども、親戚、友人、近隣の方との関係をもっとよくしたい方、あるいは、これまでに「伝え方」や「話し方」「説明の仕方」などの書籍を手に取られてきた方々に、新しい視点と考え方、そして実際のコミュニケーションの方法を提案していきます。

間違っているのは「言い方」ではなく「心の読み方」

 なぜ、コミュニケーションという日常の事柄について、認知科学や心理学の視点が役に立つのでしょうか。
 それは、私たちが日頃ひとまとめに「コミュニケーション」と呼んでいるものが、実は様々な認知の力(言語を理解する力、文脈を把握する力、記憶する力、思い出す力、想像する力など)に支えられているからです。
 また、詳細は本編で説明しますが、そもそもコミュニケーションの前提には「スキーマ(30ページ)」があります。私たちはそれぞれが頭の中に、「当たり前」を持っており、その「当たり前」は皆、同じわけではありません。

 こうしたことを念頭に置くと、冒頭で取り上げたような「伝えたいことがうまく伝わらない」原因は、この「当たり前」の違いを越えることができなかったり、認知の力がうまく働かなかったりすることにあるといえます。
 天動説を信じる人に「動いているのは私たちの立つ地面であり、地球なのだ」ということを、手を変え品を変え伝えても理解を得ることが困難であるように、間違っているのは「言い方」ではなく、そもそもの「心の読み方」なのです。

 こうした問題意識のため、本書で提案する解決策は、「言い方を工夫しましょう」「言い換えてみましょう」「わかってもらえるまで、何度も繰り返し説明しましょう」ということではありません。
 「人は、何をどう聞き逃し、都合よく解釈し、誤解し、忘れるのか」を知ること。そして、そうした特徴を持つ人間同士が、それでも伝え合えるように考えることが、「いいコミュニケーション」の実現には不可欠です。

 本書では、そうした観点に加え、コミュニケーションの達人への取材を通して、すぐに取り組むことのできる解決策も数多く取り上げました。
 「何回説明しても伝わらない」と悩む多くの方、そして、コミュニケーション能力の向上を通じてビジネスでの成功を目指す方にも、何かしらの形でお役立ていただければ幸いです。


【目次】

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