その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はさわぐちけいすけ(マンガ)、小川仁志(監修・解説)の『 哲学を知ったら生きやすくなった 』です。

【はじめに】

みんながモヤモヤを抱える不確実な現代。
今こそ「哲学スイッチ」をオンしよう

 戦争や災害、パンデミック、テクノロジーの進化に伴う働き方の変化……。先が見えない、複雑で不確実な現代。みんなが何かを抱えていて、その答えや生きるための指針を模索しています。そんな時代を切り開くためのツールとして、近年注目されているのが「哲学」です。
 私も哲学者として活動を続けるなかで、哲学が求められる機会――いうなれば「哲学スイッチ」をオンする頻度が年々増えているように感じます。裏を返せば、哲学が必要とされる時代は、今までの常識が通用しない厳しい時期であるとも言えるでしょう。

 では、哲学とは何か? ひと言で表すなら「常識を超えて考える」思考法のことです。
 それをよく表すのが、ドイツの哲学者・ヘーゲルの名言として知られる「ミネルヴァのフクロウは黄昏(たそがれ)に飛び立つ」という言葉。ミネルヴァとは、知=哲学の象徴です。これには2つの意味があり、哲学は事態が収束した後に現れて真理を語るものだということ、そして他に方法がない状況を突破する“最後の手段”ということです。

 実際に歴史上の哲学者たちは、その時々の常識的な考え方を超えた視点を提示し、世の人々に大きな影響を与えてきました。だからこそ、哲学は二千数百年の歴史を通して「最後の砦(とりで)」として重宝されてきたわけです。

 同時に、哲学は「自分の考え方を変えるための手段」ともいえます。現実に行き詰まったとき、環境や社会、人を変えることは簡単ではありません。
 そんな私たちに最後にできるのは、「自分の気持ちを変える」ことだけです。哲学を知り新しい視点に気づくことで、視界が開けて自分の意識が変わる。そうすれば気持ちもラクになりますし、外部や社会に対するアプローチも変わってきます。それが結果として、世の中の課題を大きく変えていくのかもしれません。

私たちの日常と「哲学のある世界」をつなぐ扉に

 この本の20のエピソードは前後半に分かれていて、前半のマンガでは、日常やキャリアを通していろいろなモヤモヤを抱えた3人の人物が登場します。
 「上司の意見に反論すべき?」「自分の人生これでいいの?」「人間関係のしがらみにうんざり」といった悩みは、日常的に誰しもが抱くものばかり。漫画の登場人物たちがいろいろと悩む姿を見るなかで、日常の問題を振り返って「もしかしたら私はこれにモヤモヤしていたのかも」と、気づくきっかけになるかもしれません。

 もちろん読み物としても楽しめますが、ぜひ試してほしいのが「自分を投影して読む」ことです。登場人物のひとりになってみたり、4人目の主人公として“参加”したりして、3人と一緒に悩み、語り、考えてみる。そうすることで、それぞれのテーマが自分の問題として受け止められます。またそのなかで、日常には哲学的な問いや、哲学によって解決できる物事がたくさん存在することに気づくでしょう。

 後半は、哲学の視点からの解説です。このパートはいわば、日常では訪れることができない「哲学のある世界」です。普段の生活では悩みに気づいても、解決策はなかなか見つからないもの。ですから、後半はぜひ私を含めたさまざまな哲学者たちに悩み相談をするような気持ちで読み、問題解決のヒントを見つけてみてください。
 また「対話」形式であることもポイントです。古代ギリシアの哲学の父として知られるソクラテスは、対話から相手の考える力や真理を引き出しました。自分ひとりでは答えが出せないときも、もうひとりの自分や他者と対話することで、多様な視点から答えを探すことができます。そうした対話のプロセスを楽しみながら、モヤモヤを突破するきっかけにしていただけると幸いです。

 一方で、「哲学は難解」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし意識して思考を続けていると、だんだん考える力や客観的にものごとを見る力がついてきて、必要なときに「哲学スイッチ」を使えるようになります。気がついたら、同じことでクヨクヨと悩んだり、愚痴ったりすることも減っているかもしれません

 この本の最後には、未来の3人を描いた書き下ろしマンガも掲載しています。悩みに向き合い、対話しながら考え続けた彼女たちは、いったいどうなっていくのでしょうか? ぜひ、最後まで楽しんで読んでくださいね。

小川仁志

【目次】

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