その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大宮エリーさんの『 大宮エリーの なんでコレ買ったぁ?! 』。「まえがき」と「この本の楽しみ方」をお届けします。
【まえがき】
ついに本になってしまいました。こんなゆるいエッセイが。
そもそもこれは日経MJではじまった連載をまとめたものなのです。
そして「なんでコレ買ったぁ?!」という連載は、苦し紛れ、から生まれました。
「日経MJで連載やりませんか?!」とある日、N編集長(当時)がやってきた。日経なんて無縁なので、面白いなと思ってお会いすることに。そして編集長に聞いた。「MJって、なんの略ですか?」すると編集長は言った。
「みうらじゅん、かな?!」「……」「マーケティング、なんだろ、ジャパン、かな?」「……」
大丈夫かな……と思ったとき、さらに編集長は言った。「私ね、あなたの文章読んだことないんですよ!」
失礼なやつ、来た。と思った。が、うんうん、と話をニコニコ聞いてみた。
「でもね、うちの女子社員みんながねエリーさんがいい。大宮エリーさんに新連載やってもらいたい!と言うんですよ。みーんな。でも私知らなくてね、すみませんね」「いえいえ」「で、エリーさんのところにやって来たというわけです。連載やってもらえませんか?」
「……」。でも、やろうかな、と思った。このおっさん、いや、編集長さんは、私の文章を知らないし打ち合わせ前に読んでも来ないわけだけれど、でも、女子社員みんなの支持!総意です!ってうれしいものね。
それに、なんか、この編集長、やじゃない。やじゃなかった。なんかむしろ、話しているとだんだん、おもしろくなり、好きになってくる感じ。もっと失礼なこと言って!言って!みたいな。
「どんなこと書けばいいんでしょうか、私、マーケティングとかよくわからないんです。経済とか」
すると編集長は言った
「そんなの、いいのいいの! 経済とかいらないし、マーケティングとかいらないし!」
横にさきほどから控えていた、副編集長さんが、少し、え?という感じで、編集長を見た。
でも、「な?!」と、殿に言われると、「はい、ぜんぜんいらないです!」と老中が答える。そんな感じ。
「おもしろければいいから! 生きるコントみたいなやつ、お願い! な?!」
すると老中、いや、副編集長が、ええ、ええ、と頷いた。
ものの20分足らずで打ち合わせが終了。
お引き受けする返事を正式にし、しばらくしたある日、副編集長からこんなメールがきた。
「やっぱり、経済紙なので、経済、物流にまつわることでお願いします」
え――っ、と声を出してしまった。あんなに経済じゃなくていいよね?って確認したのに。
でも引き受けちゃったし……。
「おもしろくなくていいんですよね?」とメールすると
「いえ、それは編集長のいうように、ありで、お願いします」と副編集長。
経済や、物流で面白くって、無理だよ……。
でもなぁ、もう引き受けちゃったし……。考えなきゃ、考えなきゃとうんうん唸(うな)って、ふとこんなタイトルが思いついた。
「なんでコレ買ったぁ?!」
買ってしまったもので、理由がわからないものが家に多い。なんとなく気に入ってはいるんだけど、なんでそもそもこれ買ったんだっけなと。いまいちどその購買心理を探求するわけである。
記憶を紐解いていく。その購入時の、私の心理状況、衝動の理由を書いてみようじゃないか。
メールをした。これ、マーケティングや物流に入るかどうかを。すると、
「入ります」
ほんとかよ、と思ったが、そんなゆるい感じではじまってしまった連載を、本書は、加筆し、修正もし、まとめたものである。
私とてそりゃあ、まとめたいとはつゆにも思わなかった。というのも、そんな成り立ちではじまった連載であるから、消えもの、なわけである。それを本にわざわざして残すってどうよと。
出版社の赤木さんというかたから、連載が終わるなという頃に連絡をもらう。
「あれ、おもしろいですよね」
「え?そうですかぁ?」
「ええおもしろいです」
赤木さんは、メガネの、ひょろひょろとした長身の真面目なかたである。ほんわかした、動じない人柄が会って数秒で人を和ませる。
「あのう、本にしたいんですが」
「え?」
「本に……」
「本に?え――?!」
「しましょうよ」
「うーん、考えさせてください」
というわけで、私はこれを本にするのが、いかがなものか。こんなの需要ないよと思ったのである。
「ありますよ、だって、反響ありましたもん」
「どんな」
「面白いって、反響。届いてます」
「また、そんなこと言って」
信じなかった。そんなオファーを忘れたような、覚えているような頃、愛媛県に仕事で行った。そして、おしゃれな雑貨屋さんを見つけ、わぁ~とテンションが上がって中に入った。
「あ、エリーさんですね! いつも読んでますよ!あれ面白いですよね!」と店員さんがいきなり私を見て言う。
うれしくなって私は言った。
「ありがとう、【生きるコント】かな?それとも、【なんとか生きてますッ】かな??」
すると女性は怪訝(けげん)な顔になった。
「いえ、違います」
私も怪訝な顔になった。
「え?じゃあ、なんだろ?」
すると女性はニコニコした顔でこう言ったのである。
「日経MJですよ! なんでコレ買ったんだろう?!って反省してるやつ!」
「えっ……あれですか?!」
私は言葉を失った。なんでまた、あれなんだ……。あんな適当に書いてるやつ。代表作でもない。
まあ、変わった人もいるんだな、ああいうの好きな人もいるんだなー、ああびっくりした。と思ってしばらくがすぎた。
ある日、大阪のおしゃれカフェで、また、「エリーさんですよね!」と言われた。
そしていきなり「なんでこれ、買った?ってやつ、面白いですね! 本にならないんですか?」と言われたのだ。事件だ。
私は少しだけ、後ろによろめいた。少し声を潜めて言った。
「え?あれ?おもしろい?」
私は尋ねると、
その男性は「ええ、おもしろいです!」
と元気な声でニコニコとした。赤木さんがかぶった。といってもその男性は20代前半の爽やかな青年であった。
あ、赤木さんをディスっているわけではない。赤木さんはいいひとではあるが、爽やかではない。
ディスっているわけではない。ただその、爽やかな青年が、そう強く言うので……
私は、ほんわか赤木さんに電話をしたのである。
「あれ、やっぱ本にします!」
「やった~~!」
【この本の楽しみ方】
あまり深いことを考えずに
こんなくだらねぇもの買ってバカだなって思ってくれていいです。
無駄遣いして、家族だったら怒ってるなとか。
私は買わないな!もしくは、買っちゃうかも……。をまず味わい、
買わない!と思ったかたは、文章を読んでみてもらい、
ああ、確かにわからないでもないな、
これなら買う気持ちわかるかも、と思うか、全くわかんねぇ!
と次のページにいくか。
買っちゃうかも、というかたは文章を読んで、客観的になり、
いっしょに反省しましょう。
無駄遣いはやめよう。というお灸をすえる本としての位置付けでも。
なんか無駄遣いって、エンジョイできるっちゃできるなという、
経済に貢献する位置付けでも。
どちらでも幸いでございます。
そして私個人としましては、
モノたちをここに文章にすることで、感謝しつつ、
供養、成仏させようとしています……。
辛いけど。まあ、ひとことで言うと、断捨離、ですね!
できるのかな、本当に。できるかわからないけれど、
そうしないと家族や、スタッフが怒るので……
でもわからないのです、いまだ。
これから書くそれぞれを買ってしまう根底にあるのは。
モノへの執着か、はたまた愛か。
欲か、探求か。
いざ!
【担当編集者より】
大宮エリーさんの突然の訃報に接し、本当に驚きました。残念です。
本書の刊行を記念して渋谷RARCOで「なんでコレ買ったぁ?!」展を開催されたのが、まるで昨日のことのようです。
「火を吐きながら走り回る小さい修道女の人形」とか「ケースからグーパンチが飛び出すガム」とか、本書に登場する小物たちが展示されており、ほんとうにくだらなくて、でもとても温かみのある空間でした。エリーさんのお人柄をあらわしている、楽しくてアットホームなイベントだったことを覚えています。
本書の担当編集者であり、大宮エリーさんのファンのひとりとして、心よりご冥福をお祈りいたします。
赤木裕介
