その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はパク・ソンス(著)、松原佳澄(訳)の『 韓国式 ストーリーのつくりかた 』。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】
心を奪うストーリーを描くために

この本は、実践のためのガイドブック

 「辞表を出しました。これからは書くことだけに専念します」
 ある脚本家志望の子の話を聞いて、激励や応援よりも、まず心配と不安が押し寄せてきた。ドラマ作家になるのも、なってからも、その道のりがどれほど険しいものかを知っているからだ。
 彼が提出した2篇の1話完結ものの台本に私がいい評価をしたせいで、そのような決断にいたってしまったのだろうか?
 人生とは自分で決定するものだ。しかし、それがドラマの脚本家だとしたら?
 その決定に自分が影響を与えたのだとしたら?
 確信が持てない彼の未来に気が重くなりながらも、一方では、決断を下した彼の純粋な情熱を美しいと思った。
 数年が経ち、ある放送局でシリーズドラマのラインナップに彼の名前を偶然発見した。
 嘆声を上げ、安堵のため息をついた。
 そうしていられたのもつかの間、再び不安が押し寄せた。シリーズドラマを準備しながら新人脚本家が直面する困難を、今でも鮮明に覚えているからだ。
 彼の助けになればと、取りとめのないメールを書こうとしていたら、深い潜在意識の中から声が聞こえてきた。
 「本を書いて。新人ドラマ脚本家のための本を」
 ひときわ暑かった2023年の初夏、風邪をひいて高熱に苦しみながら、私はこの声に応えた。
 「ドラマの脚本家のための本を執筆しよう!」
 でも、ドラマのプロデューサーが脚本家のための本を書いて、役に立つのだろうか?

 そう。私は、ドラマの演出家、地上波のドラマや制作会社のプロデューサーとして30年以上働いてきた。
 この仕事をする中で、もっとも激しくぶつかりあった仕事仲間こそ、脚本家だ。私は何人もの脚本家と仕事をしながら、彼らの仕事の過程、脚本が滞ったりレベルアップしたりする様子を目撃し、学習した。
 地上波のドラマ局長をしていたときには、緊迫した決定を下すこともあった。

 また、外注の制作会社のプロデューサーとなった経験は、放送局の外で「発注される立場」になって、ドラマ市場や脚本家が何なのかを改めて認識する機会になった。

 さまざまな脚本のコンクールや新人賞で審査委員としても活動し、新人脚本家の作品を評価してきた。韓国放送作家協会教育院[ドラマ作家志望者が脚本について学べるスクールのひとつ]で作家志望者たちを教えながら、彼らがどれほど「シリーズ作品」を手がけたがっているかを見てきたので、彼らのためのシナリオ作成法の講義案を、夜遅くまで知識を振り絞って作ったりもした。
 脚本家のための本を書かなくては、と考えるようになってからは、これまでの自分の経験や探求はすべて、本書を執筆するための準備のように思われた。

 私が本を書かなければと思ったもうひとつの理由は、脚本家志望者が増え続けている状況にもかかわらず、彼らの役に立つ本が多くなかったからだった。
 もちろん大型書店に行けば、シナリオ理論書が置かれている。しかし、ほとんどが翻訳書で、ハリウッドのシナリオ創作法について書かれたものばかりだ。

 そのような本には限界がある。
 2時間ものの劇場用映画のシナリオのつくり方、それも我々とは言語や感情、環境、生活習慣がまったく異なる国の理論書なのだからなおさらだ。
 ドラマ産業の歴史や影響力、脚本家志望者の熱望や規模に比べて、実用的で使える作法書が追いついていないとは。
 私は不思議で仕方なかった。脚本家への道が厳しいとはいえ、決心した彼らにとってはすでに歩き始めた旅路。
 彼らの時間が浪費されないように、私が手助けしたい。一種の使命感が生まれた。

 本を書こうと決めてから、偶然、若手のドラマ監督たち、そして20余年の経歴をもつ中堅の脚本家たちとドラマの企画について言葉を交わすことがあった。
 彼らはシリーズものを企画するたびに、地面にヘディングしている気分になるのだと吐露した。
 その気分がどんなものか、経験した私にはよくわかる。
 彼らは、私の多彩な経験や理論が、脚本家のための本を書くのに誰よりも適していると言い、執筆作業への信頼と応援を送ってくれたと同時に、新人脚本家だけでなく、シリーズものを準備している現役の監督やすでに脚本家になっている人たちにも役立つ本を書いてほしいとも言った。
 私はためらうことなく、そうしようと約束した。本書を、新人脚本家のためだけでなく、既存の脚本家にとっても有用な本にしたいという気持ちが芽生えた。

 「できるところまでやってみよう。実用的で実践的な方法で!」

 脚本家が台本を書くとき、もっとも重要なことは何だろうか?
 それはまさしく視聴者の心を奪うことだ。
 しかし、台本を書くとき、脚本家の目に視聴者の姿はよく見えていない。
 さらにいえば、新人脚本家の台本は視聴者に伝わることすらない。

 脚本家の台本を最初に読んで評価するのは、監督、企画プロデューサー、放送局のドラマ編成責任者、スター級の俳優、賞の審査委員たちだ。
 台本はドラマ産業の専門家である彼らの心をまず「奪う」ことができなければ、視聴者の心を奪う機会も得られない。
 そう、あなたが奪うべきなのは、専門家たちの心だ。

 標的が明確であるほど集中力は増し、的中率も高くなるものだ。
 目標をしっかりと捉え、機敏に正確に行動しなければ、奪うという行為は完成しない。ドラマ産業の専門家たちの心を奪うには、特別な技術と能力が必要だ。

 心を奪う物語をつくるための核心的技術と要領は、次の質問に答えていくうちに見えてくる。これが本書の内容の中心である。

  • ドラマを牽引(けんいん)する主人公をどのように創造するか?
  • ドラマの構成はどのようにすれば、視聴者をひきつけることができるか?
  • 1話分の脚本に必ず入れなければならない要素とは何か、それはいくつ入れるべきか?
  • あなたのストーリーを完成させるために欠かせない装置は何か?
  • 視聴者を誘惑するセリフとは?
  • 初稿はどのように書き始めるか?
  • 脚本をレベルアップさせる修正法は?
  • シリーズものの企画から制作まで、脚本家に求められる能力とは?
  • 放送局・監督との協同作業で、作家がとるべき態度と戦略とは?

 本書は、脚本家を夢みる人、脚本の賞に挑戦する人、競争力あるシリーズドラマを書こうとする脚本家のための実用的な案内書だ。
 基本に忠実でありつつも、実際に使える内容を盛り込んだ。

 本書の内容は階段を上るように構成されている。基礎から制作現場まで、段階的に上がっていく。

 ストーリーをつくることが初心者であればChapter1から読むのをすすめるが、いくつか脚本を書いたことがあったり、現在脚本家として活動したりしているのであれば、Chapter4の「主人公のキャラクターをどうつくるか」から読んでもいい。

 本書だけの特徴5つを紹介する。

 ひとつ、本書は徹底的にドラマ現場のリアリティーにもとづいている。現場の真実に近いほど、脚本家のために役立つからだ。
 本書はあなたの腕をつかんで競技場に入場させる。
 本書を開いた瞬間、あなたはドラマ業界の見物人から参加者になる。
 あなたにとって必要な内容だけを、正直にリアルに書いた。
 数人の監督に本書の初稿を見てもらい、フィードバックをお願いしたら、次のような言葉までもらった。

 「脚本家がこれを読んだら、監督の立場が不利になりそうだ」
 「営業の秘密をこんなふうに全部オープンにしちゃっていいの?」
 「この本、出版しないで私にください!」

 感動した。私が意図したことを彼らが正確に読み取ってくれたからだ。
 私は本書を通して、新人脚本家に必要な、台本の戦略ポイントを教え(これがすなわち企業秘密ともいえる!)、放送局・監督と自信をもって仕事をする方法を提示したかった。
 現実を惜しみなく著すことで、作家の判断や作業に実質的に役立ちたかった。

 ふたつ、本書は競争力のあるストーリーをつくる。
 とくにシリーズものの執筆にとても実用的で、強力なフレームワーク(framework)を提供する。本書の方法論や多様なチェックリストを、あなたの作業工程にそのまま取り入れてほしい。

 3つ、本書は物語をうまく書く方法に終始せず、そこから先に進んでゆく。
 これまでの作法書は台本を書く技術だけを説明していたが、ドラマの台本は脚本家ひとりの作業で完成するものではない。
 本書は台本作業後の段階、つまり、脚本家の台本を放送局に提出してからの作業過程についても触れている。

 本書を読めば、あなたは放送局の企画プロデューサーや監督と仕事をする過程のリアルをそのまま観察でき、脚本家に有用な対応策を知ることができる。
 あわせて、俳優、制作会社をはじめとしたドラマ産業を構成するいくつもの要素の中で、脚本家が生存するための戦略も提示する。

 4つ、本書はただ台本をうまく書くのではなく、まず編成される台本を書くことを目標とした。編成とは、ドラマの放送がスケジュールに組み込まれ、制作が決定されることだ。脚本家の目標は、自分の台本が編成され、制作され、放送されることだ。

 自分の台本が編成に組まれるほどの競争力や完成度を備えているのか、脚本家自身がどのように判断できるだろうか?

 さらに、あなたの台本の初稿を、編成されるほどの台本にまで修正する方法とは何か?
 それも放送局に提出する前に、あなたひとりでできる努力とやり方で! 運や能力やコネに頼らずに!。
 このような悩みの答えを本書に書いた。

 5つめは私の欲、つまりそれはあなたの幸せだ。
 あらゆる芸術家の人生には、つらさや苦悩がつきものだというが、脚本家のとなりにぴたりとくっついた熾烈な競争、失敗への恐怖心、工程ごとに起きる予測不可能な出来事は、「幸福」という言葉を贅沢なものにしてしまう。脚本家の人生が幸せでないのなら、デビューも成功も難しいこの仕事に人生のすべてを懸けて飛び込むことは、はたして正解なのか?。
 私は成功よりも、まずは幸せが優先されるべきだと信じている。
 あなたが台本を書く過程でも幸せであることを願って、本書を執筆した。

 本書が、あなたの役に立つことを心から願っている。


【目次】

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