その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は桜田雄紀さんの『 Q&A 経済安全保障の実務対応 法制の概要とリスク管理のポイント 』。「はしがき」をお届けします。
【はしがき】
本書は、企業が直面する経済安全保障に関する法制度とその実務対応を解説することを目的として執筆したものです。国家安全保障と経済活動が交錯するこの分野では、近年、国内外で急速に制度整備が進みつつあり、企業にとってはその動向を的確に把握し、実務的な対応を講じることが求められるようになっています。
本書では、日本の法制度を中心に、できる限り平易な表現で経済安全保障に関する制度の概要と対応のポイントを解説するよう努めました。具体的には、経済安全保障推進法に基づく基幹インフラ審査制度やサプライチェーン強靱化制度、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく対内直接投資審査・安全保障貿易管理、重要経済安保情報保護活用法に基づくセキュリティ・クリアランス制度、重要土地等調査法、さらには米国の経済制裁や対外直接投資制限などの主要制度を取り上げています。あわせて、日本企業の実務に影響を及ぼす可能性のある米国や中国をはじめとする主要国の政策動向についても、必要に応じて言及しています。
構成は以下のとおりです。第1部では、経済安全保障の全体像やその背景にある国内外の政策的な動向を示します。第2部では、具体的なテーマごとに各制度の概要と論点を整理します。第3部では、企業の組織的対応や体制整備に関する実務的視点を提供します。
第2部の記述にあたっては、読者が経済安全保障をより具体的に理解できるよう、事例形式で各テーマを取り上げました。また、各制度の説明にあたっては、可能な限り法令やガイダンスなどの出典を明示し、実務での再確認が可能となるよう構成を工夫しました。
筆者は2019年から2022年まで、任期付公務員として財務省国際局にて執務し、外為法に基づく対内直接投資審査制度の強化や、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う対ロ制裁措置などに携わる機会を得ました。退官後、弁護士として実務に復帰するなかで、進展著しい経済安全保障分野に関する手に取りやすい研修教材や実務ガイドブックの必要性を強く感じたことが、本書執筆の契機となりました。
とりわけ、外為法をはじめとする制度の多くは複雑かつ専門的で、一般の実務担当者にとって理解しにくい側面もあります。そのため、制度の全体像を示しつつ、具体的なケースと実務対応を解説する形で構成することで、少しでもアクセスしやすいテキストにできないかと考えました。
構想から足かけ3年。筆者の執筆が遅々として進まない間にも、経済安全保障に関する制度整備は飛躍的に進展し、政府による分かりやすい資料の公表や、経済安全保障を主題とした学術書を含む良書の登場により、社会全体としての理解も着実に深まりつつあることを実感しています。
その一方で、実務家が参照できる実用的な入門書は、依然として限られているのが現状です。このため筆者としても、これまでの実務経験や政府関係者・企業担当者・同僚弁護士との対話を通じて蓄積してきた知見とあわせて、現行の法制度をこのタイミングで整理し、発信できることには一定の意義があると考えています。本書が、筆者の当初の狙いどおりのものになっているかどうかは、読者の皆様のご判断に委ねるほかありませんが、経済安全保障についての平易かつ携帯しやすい参考書のひとつとして、手に取っていただけるものとなれば、望外の喜びです。
最後に、本書の完成にあたり、網野一憲氏をはじめ、日経BPの関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。また、筆者の執筆に対する深い理解と折にふれて適切な助言をいただいた、所属法律事務所の川合弘造弁護士、藤井康次郎弁護士をはじめとする諸先輩方および同僚の皆様にも、この場を借りて心より御礼申し上げます。さらに、相当の長期間にわたり、週末や休暇の貴重な時間を執筆に費やすことを受け入れてくれた家族にも、この場を借りて感謝の意を表します。
なお、本書に記載された内容は、筆者が現在又は過去に所属した組織の見解を示すものではなく、すべて筆者自身の責任において執筆したものです。また、原則として2025年3月末日時点での政策規制動向について取り上げています。経済安全保障を取り巻く状況は刻一刻と変化しており、法制度やその運用も常に更新されています。本書が読者の理解の一助となることを願うとともに、最新の動向については引き続き注意深く情報を追っていただくことを強くお勧めいたします。
2025年5月
桜田 雄紀
【目次】




