その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は出口治明さん、上野真弓さんの『 ローマ3000年史 人物と人口推移でたどる「永遠の都の物語」(日経ビジネス人文庫) 』です。

【はじめに】

 「ローマの物語」を一度は書いてみたい、そう思っていました。上野真弓さんという最高の書き手を得て、夢が実現する運びとなりました。

 上野さんと出会ったきっかけは書評でした。二〇一七年、僕は読売新聞の書評委員を務めていましたが、『カラヴァッジョの秘密』(コスタンティーノ・ドラッツィオ著)を見つけ、「おもしろい本だ」と書評しました。そして、訳者の上野さんから丁寧なお礼状をいただきました。

 その後、僕は思いがけず大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に選任されました。別府市は上野さんの故郷です。一九八四年のローマ遊学以来、かの地に暮らしているという上野さんですが、毎年のように里帰りはしているとのこと。そこで次の機会に会って話をしました。歴史と美術が好きで、同じ興味を持っていることが分かり、意気投合しました。

 僕が思いがけず病気を得たその一年後の二〇二二年二月、APU東京オフィスで会いました。その時、ローマの歴史の本を二人で創ろうという話になりました。

 それから一年、ローマ、東京、別府で知恵を出し合い(オンライン会議を含む)、一冊の本が出来上がりました。感無量です。僕の大好きなローマ、上野さんが愛してやまないローマ。三〇〇〇年の物語がここにあります。

立命館アジア太平洋大学名誉教授・学長特命補佐
出口治明

【人口の推移と人物伝でたどるローマ史】

 本書ではローマの誕生から現代までの歩みを追っています。約三〇〇〇年の歴史を一冊の本で語ることは無謀なことでしょうか? 私たちはこの挑戦に臨むために新たな視点でローマを見つめてみました。ローマの盛衰を人口の推移という客観的な数字で示し、一四人の歴史上の人物でたどる通史としたのです。

 経済学者アンガス・マディソンによる西暦紀元後の世界各国の推定GDP、歴史家イアン・モリスによる歴史上の推定都市人口や社会発展指数を見ると、歴史上の都市は社会や経済活動のピーク時に人口が最大になっています。西洋の最初のピークは紀元一世紀から二世紀のローマ帝国の首都ローマで、人口は一〇〇万人でした。その後は東洋の時代となり、紀元八〇〇年には長安、一〇〇〇年には開封が一〇〇万都市となります。西洋でこの規模の都市が再び出現するのは一九世紀、産業革命の起こった連合王国のロンドンです。この数字だけで、古(いにしえ)のローマ帝国がどれほど繁栄していたかが分かるでしょう。

 都市の盛衰は人口の推移に連動します。人口変遷を示すことで、ローマの盛衰を具体的にイメージできるようにしたのが、本書の第一の特徴です。そして、歴史は人間が作るという視点からローマを築いた一四人の歴史上の人物を選び、彼らが生きた時代を国際関係・政治・経済・社会・文化芸術を踏まえて描き、魅力的な人物伝でありながらも通史となるようにしました。これが第二の特徴です。

 構成にあたってはローマの歴史を七つに分けました。序章ではローマ建国の伝説からカエサル登場までを描いていますが、共和政ローマ誕生の紀元前五〇九年に推定で約三万人だった人口が、カエサル登場の頃には四〇万人となるのが分かります。また、第2章以降、各章の冒頭に時代の概観を記述しています。

 第1章はローマ帝国の成立、内乱期に帝政の礎を築いたユリウス・カエサル、ローマを平定し百万都市を築いた初代皇帝アウグストゥス、第2章は帝国が変遷していく様子、悪名高き皇帝ネロ、旅する皇帝ハドリアヌス、衰退が始まる時期の名君アウレリアヌスを描きました。第3章では、ローマの人口が三、四万人までに落ち込み荒(すさ)んでいく中世において、ローマ教会の教皇国家が成立していく過程を描き、イスラムの脅威を撃退した教皇レオ四世、個性的なボニファティウス八世を取り上げました。

 第4章では、ローマを盛期ルネサンスの中心地とした立役者、教皇ユリウス二世、ラファエッロ、ミケランジェロ、第5章では、永遠の都を再建したバロックの巨匠ベルニーニ、対抗宗教改革におけるローマ教会勝利の象徴スウェーデン女王クリスティーナを描きました。ローマの人口は華麗なルネサンス期でも六万人を超えることはなく、美しいバロック都市となってようやく一〇万人に達した程度でした。

 第6章では、小国家に分裂していたイタリアを統一してローマを首都に定めたヴィットリオ・エマヌエーレ二世、ファシズムの独裁者ムッソリーニを取り上げました。イタリア王国誕生時は二〇万人ほどの人口だったローマは、ムッソリーニ台頭時には七〇万人を超え、その後は急激に増加していきます。

 このように人口の推移と歴史上の人物をつなげて、まったく新しいローマ史の入門書が生まれました。遠い時代の人たちを身近に感じながら楽しく学ぶ中で、現代に通じる何かをつかんでいただけることでしょう。なお、人口のデータの参考資料はグラフのページに記載しています。

 さあ、それでは、過去と現在が交錯する「永遠の都ローマ」の旅へと出かけましょう。

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【目次】

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