その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は手島直樹さんの『 アクティビズムを飲み込む企業価値創造 高ROE、PBR経営実現への処方箋 』です。

【はじめに】

アクティビストは必ずしも無理難題を吹っ掛けるわけではない

 英国の投資ファンド、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは、日本のゼネコン大手である大林組に対して、2023年の定時株主総会の議題として特別配当を求める株主提案を行いました。シルチェスターは自らをアクティビストではないとしていますが、タフな投資家であることは間違いありません。ですから、「利益全額還元になるように特別配当を支払え」というようなアグレッシブな要求をしたのではないか、と考えるのが自然です。

 では、実際はどうだったのか。大林組の計画である通期配当42円に対して、特別配当として別途12円を加算し、計54円の配当とするよう求めたのです。同社のEPS(1株当たりの当期純利益)は108.34円ですので、特別配当を含めた配当性向は約5割となります。

 正直なところ、私のような“野次馬”からすると拍子抜けです。同社は2022年度において自社株買いを実施していないため、総還元性向は配当性向と等しく約5割となりますが、この水準の総還元性向は、シルチェスターが投資する他のゼネコンの多くが達成しています。つまり、シルチェスターは大林組に対して業界水準の株主還元を要求しただけなのです。

 アクティビストといえば、スピンオフ(分離・独立)のように多くの企業にとっては異次元とも思われる要求をするイメージがありますが、実際はそうとは限りません。資本コストの開示、政策保有株式の売却、社外取締役の独立性の確保など、極めて当たり前のことを要求するほうが多いのです。

 そのため、アクティビストのターゲットは、セブン&アイ・ホールディングスや東芝のような大企業だけには限られません。実際、ターゲットの大半は、時価総額が1000億円以下の企業です。また、ターゲットは首都圏の企業ばかりではありません。アクティビストはアニマル・スピリットに富んでおり、リターンの可能性があれば場所を問いません。2023年には、新潟県長岡市の日本精機、新潟市の第一建設工業、そして、静岡県焼津市の焼津水産化学工業などがアクティビストから株主提案を受けています。要するに、上場企業であれば、アクティビストから逃れることは不可能なのです。

日本は今や「アクティビスト大国」

 今や日本はアクティビスト大国となりました。2023年には、日本市場に参入するアクティビスト・ファンドの数も、彼らによる株主提案件数も、過去最高となっています。最近では、アクティビストが臨時株主総会の開催を請求する機会が増えているため、定時株主総会を乗り越えればほっと一息つけるかといえば、そうは問屋が卸さなくなっています。そのため、株主総会が「オールシーズン化」したかのような印象すら覚えます。

 では、なぜ日本はアクティビスト大国となったのでしょうか。主な要因として3点が考えられます。

アクティビストが活動しやすい土壌

 1点目は、日本の法制度が株主にフレンドリーであるため、そもそもアクティビストが活躍しやすい下地があったことです。長い間「持ち合い」に守られてきた日本企業はすっかり忘れているかもしれませんが、日本の株式市場は、海外のそれと比較して、企業にとってかなり危険な場所なのです。

 その特徴のひとつは、株主提案権の使い勝手の良さです。株主提案を行使するためのハードルが低い一方で、可決された場合には拘束力を持ちます。しかも、提案内容への制約は少なく、取締役選任や増配などさまざまな提案が可能です。こうした使い勝手の良さが手伝ってか、同じ提案を複数の企業に「コピペ」するアクティビストも存在します。もちろん、「コピぺ」であっても、株主提案は企業に対して大きな圧力になります。「コピぺ」で企業の行動が変わり、株価が上がるのであれば、これほど楽な儲け話はありません。

強力な武器を手にしたアクティビストたち

 2点目が、コーポレート・ガバナンス改革の進展です。やはり、コーポレートガバナンス・コードの存在が大きいでしょう。企業にとっては目の上のたんこぶ的な「上場企業マニュアル」かもしれませんが、アクティビストにとっては強力な「武器」となります。

 というのも、同コードには彼らが重視するポイントが満載となっており、企業との対話における自らの主張の拠り所となるからです。「コードに書いてあるように」という枕詞を使えば、企業を説得しやすくなるはずです。このように、アクティビストは自分が得意とする「土俵」に企業を引っ張り出し、ゲームを有利に展開できるようになったのです。

 この環境は、コーポレートガバナンス・コードの導入以前とは大きく異なります。かつてはアクティビストの主張には何らの拠り所もなく、企業との対話に苦労したことは想像に難くありません。何を主張しても「アクティビストは短期的」と一言で片付けられていたことでしょう(この点は今でもあまり変わっていませんが)。

 そして、コーポレート・ガバナンス改革における「駄目押し」となったのが、東京証券取引所が2023年3月に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という要請です。これは極めて画期的です。というのも、ついに東京証券取引所が株価に言及したからです。

 これまでの改革のフォーカスは、株価そのものではなく、株価へのプラスの影響が期待される財務指標(資本コストが代表例)や非財務指標(環境やダイバーシティが代表例)でした。あくまで株価はそれらの指標の改善の結果であるというスタンスだったのです。もちろん、株価は市況の影響を受けるため、企業が必ずしもコントロールできるものではないという配慮もあったことでしょう。

 しかし、現在はスタンスを一転させ、株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業の撲滅をスローガンとしています。PBR1倍割れとは、簡単にいえば、会社を店じまいして売却するほうが事業を継続するよりもおトクな状況を意味します。つまり、東京証券取引所は、会社を存続させたければ株価を上げろ、と迫っているようなもの。あたかもアクティビストの主張であるかのようです。

 読者の中にはこの要請に批判的な方もいらっしゃるかもしれませんが、私は諸手を挙げて賛同します。というのも、私にとって上場企業とは株価と配当の「関数」であり、それら以外は余事だからです。昨今では、ステークホルダーの重要性が叫ばれ、企業にはあれやこれやと多くが求められるようになりましたが、上場企業の使命とは、ビジネスのルールを遵守しながら、企業としての価値を高め、その結果としての株価を高め、配当を増やすことなのです。もちろん、上場企業の経営のプロセスには従業員の満足度など定性的な要素が不可欠ですが、経営のパフォーマンスは株価と配当という2つの定量指標で測るべきなのです。正直なところ、財務指標や非財務指標が改善したところで、それらは換金できません。所詮は「中間成果物」に過ぎないのです。

 このように、コーポレート・ガバナンス改革が進展するにつれて、アクティビストに限らず世界の投資家が日本企業への期待を高めているのです。

ターゲットになりやすい企業の宝庫

 3点目が、当然のことですが、アクティビストが重視するプロフィールに合致する企業が多いことです。ターゲットとなった企業からすると、「なぜウチがターゲットなのだ」と不満を持たれるかもしれませんが、客観的にみれば、ほとんどのケースでアクティビストにとってその要件にピタリと当てはまる企業なのです。

 では、どのような企業がターゲットとなるのでしょうか。それは「残念」な企業です。「残念」な企業とは、アクティビストが得意とする「処方箋」を使って株価を上昇させられる企業です。箸にも棒にもかからない「ダメ」な企業とは大きく異なります。「ダメ」な企業を相手にするほどアクティビストは暇ではないのです。よって、アクティビストのターゲットになることは、企業のポテンシャルの高さを示す「バロメーター」であり、ポジティブに捉えることもできるのです(そのような経営者をみたことはありませんが)。

 「残念」な企業としては、例えば、キャッシュリッチ企業や不採算事業を抱える企業が挙げられます。どちらも課題の解決策は明確ですが、経営者がなかなか決断できずに株価パフォーマンスが低迷すれば、アクティビストが登場し決断を迫ります。もちろん、アクティビストの要求がすんなりと受け入れられることはありませんが、企業が最終的に受け入れた結果として、株価が上昇するケースも少なくありません。

「いたちごっこ」はまだまだ続く

 以上の3点が私の考える日本がアクティビスト大国となった要因ですが、これらは今後もアクティビストにとっては望ましい方向に進むと考えられます。

 まず、株主フレンドリーな法制度とコーポレート・ガバナンス改革は、両者の「シナジー効果」を通じて大きな影響をもたらすと予想されます。例えば、コーポレート・ガバナンス改革により持ち合いの解消がさらに加速し、機関投資家の株式保有比率が高まれば、これまでは安定株主の存在により否決が当然となっていた株主提案も可決される可能性が高まります。株主提案の魅力として、これまでの使い勝手の良さに実効性も加わることになるのです。

 次に、東京証券取引所の要請により、特にPBR1倍割れ企業を中心として、ターゲット企業がアクティビストに抵抗しにくい環境になると予想されます。アクティビストは、「東京証券取引所の要請にあるように」という新たな枕詞を使えるからです。アクティビストに「ノー」を突きつけることは、東京証券取引所に「ノー」を突きつけることを意味するため、この枕詞は効果絶大です。一方、要請に真摯に取り組む企業をうまく選別できれば、アクティビストは企業努力による株価上昇にフリーライド(ただ乗り)できます。何ら行動せずに楽に稼げるのです。

 もちろん、東京証券取引所の思惑通りとなれば、アクティビストのメインターゲットであるPBR1倍割れ企業が減少することになりますが、それだけの理由でさらに「旨味」を増す日本市場をアクティビストが捨てるわけがありません。新たな「処方箋」をマスターして、これまでと異なるプロフィールの企業をターゲットとすることになるはずです。企業とアクティビストの「いたちごっこ」は終わることはないのです。

ならば、アクティビストを飲み込んでしまえばいい

 では、アクティビストの存在感がさらに高まる環境下において、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。徹底抗戦でしょうか。それとも、ステークホルダー理論の教えに則り、重要なステークホルダーのひとりとして共存することでしょうか。

 私のお薦めは、どちらでもありません。彼らを近づけないことです。彼らの高性能な「レーダー」に引っかからないことといってもよいでしょう。彼らを遠ざけることができれば、徹底抗戦も共存も不要です。

 もちろん、誰もがそう願うはずです。では、どうすればその願いは叶うのでしょうか。

 それは、アクティビストを「飲み込む」ことです。M&Aにおいて買収者に対して逆に買収を仕掛けるパックマン・ディフェンスのように、アクティビストを飲み込むのです。具体的にいえば、アクティビストのように考え、アクティビストのように行動し、アクティビストのように株価を上げるのです。つまり、アクティビストを飲み込むとは、経営者自らがアクティビストとなり、社内でアクティビズムを実践することです。私は、このようにアクティビストの視点を経営に取り入れることを「アクティビズム・インテグレーション」と呼んでいます。

 そのためのプレイブックとなるのが、アクティビストの「処方箋」です。私は彼らの「処方箋」を企業価値向上の教科書と考えています。実際、私がビジネススクールで担当する「企業価値経営」という授業では、株主還元であれ、資本構成であれ、事業ポートフォリオ・マネジメントであれ、必ずアクティビズムのケースを取り上げています。ですから、企業はこの教科書から企業価値向上のヒントを学び、実践すればよいのです。いわば、アクティビズム・インテグレーションとは、アクティビストの「処方箋」の「コピペ」なのです。

先手を打って「予防」に努める

 しかし不思議なもので、この教科書もアクティビストがターゲット企業に持参すると徹底的な抵抗に遭います。多くは短期的であるとして抵抗されますが、私は短期的とは考えません。概して、即効性がある提案とポジティブに捉えています。たとえるとすれば、早めに効く風邪薬のようなものであり、こじらせる前に飲むのがより効果的なのです。

 結局、アクティビズムとは、風邪をこじらせた患者に医師がむりやり風邪薬を飲ませるようなものです。そのシーンだけを切り取れば、医師が悪者にもみえますが、そうされるだけの原因が患者の側にもあるのです。逆にいうと、先手を打って「予防」すれば、「患者」にならずにすみます。つまり、株価も配当もフルポテンシャルの水準にあれば、アクティビズムとは無縁の経営が可能となるのです。これこそアクティビズム・インテグレーションの本質です。

 アクティビズムの本場である米国では、アクティビズム・インテグレーションに似たコンセプトが長く実践されています。主に戦略コンサルティング会社や投資銀行が、アクティビスト対策のひとつとして同様なサービスを提供していますが、その一環として広く実施されているのが、ストラテジック・レビュー(戦略の見直し)です。もちろん、アクティビストの要求により実施されるケースも少なくありませんが、彼らに先手を打って実施することにより、財務戦略や事業ポートフォリオを最適化し、アクティビストの付け入る隙をなくすのが狙いです。

対策の専門家をそろえる必要はない

 日本においても、アクティビズムが活発化するにつれて、アクティビズム・インテグレーションへのニーズが高まると考えられます。「では、ウチもコンサルタントを探さなくては」と考える経営者もいるかもしれませんが、コンサルティング会社出身者としていわせていただけば、その必要はありません。前述の通り、アクティビズム・インテグレーションとはアクティビストの「処方箋」の「コピペ」であり、実践は何も難しくないのです。必要となるのは、ファイナンス理論の理解と企業価値評価のスキルだけです。MBAホルダーが1人いれば十分でしょう。

 実際、私は前述の「企業価値経営」というビジネススクールの授業において、アクティビズム・インテグレーションを実践させる課題を学生に課していますが、彼らのレポートはなかなかの出来栄えです。具体的には、上場企業を1社選び、株価を30%高める提案を考えさせているのですが、学生は事業売却と自社株買いのコンビネーションなどアクティビストの「処方箋」をうまく活用して大幅に株価を高める提案をしてくれます。

 課題を採点するたびに思うのは、経営者は学生の提案に対してどのような反応をみせるだろうか、ということです。株価を30%高めるには、現状を大きく変化させる必要があります。なかには経営者にとって耳の痛い話もあるため、「現実の世界では、机上のようには簡単には行かない」というネガティブな反応を示す人もいるでしょう。しかし彼らは、近い将来、その現実の世界で、アクティビストのターゲットになり、机上と同じ提案を受けることになるのです。

上場企業の大原則を忘れてはいけない

 アクティビストに飲み込まれるか。それとも、アクティビストを飲み込むのか。それは、経営者の意識次第です。ニデック(旧日本電産)の永守重信会長兼最高経営責任者は、2023年の定時株主総会において、後継者には「株価を上げてくれる人が一番良い。変人でも、業績を良くする人でないといけない」と述べています。

 繰り返しになりますが、上場企業とは株価と配当の「関数」であり、それら以外は余事なのです。この基本原則を理解する経営者は、たとえ耳の痛い話であっても、さっさと実行に移すはずです。一般常識からすれば「変人」にみえるかもしれませんが、上場企業の経営者としてはそれが「常識人」なのです。そして、その「常識人」になるための近道こそ、アクティビストの「処方箋」を実践するアクティビズム・インテグレーションなのです。

 本書がアクティビズム・インテグレーションのプレイブックとして、企業価値向上に少しでもお役に立てれば幸いです。なお、以下、本文中に取り上げる人物の敬称は原則として省略させていただきました。

  2024年4月

手島 直樹

【目次】

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