その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はアーサー・ディ・リトル・ジャパン(著)の『 カーボンニュートラル燃料のすべて 電動化、水素に続く第3の選択肢 』です。

【はじめに】

 18世紀後半の産業革命以来の大変革期にあるグローバル経済の中で、デジタル化と並んで大きな変革のドライバーとなっているのが、気候変動への対応に端を発した「カーボンニュートラル(炭素中立、CN)」化の流れである。国や産業界、個別企業がそれぞれの立場から、CN実現に向けた様々な方針や目標を打ち出し、産業ごとに既存の技術やバリューチェーンを大きく変えるような変化が各所で起こり始めている。輸送部門もその例外ではなく、特にその多くを占める乗用車の領域においては、足元では世界各国で電動化の動きが当初の想定を超えるスピードで広がりつつある。

 一方で、電動化のみで輸送部門のCNを達成できるわけではない。これは、電動車のエネルギー源となる電力の発電ミックスが国によっては化石燃料にいまだに依存していることもあるがそれだけではない。すなわち、航空機や船舶、さらには陸上の中大型の産業車両などの輸送機器では、そもそも技術的に電動化が困難である。そして、そのような輸送機器は多く存在し、そこから発生する二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスは、乗用車からの発生量と比較しても無視できない規模となる。

 そのため、CN化に向けては、電動化以外のアプローチを含め全方位で実現手段を探る必要があるが、その際の1つのキーワードが、「燃料のCN化」である。CN燃料としては、水素やアンモニア、さらにはバイオ燃料や合成燃料(e-fuel)など多種多様な形態が提唱されている。これらは、水素利用を前提とした燃料電池を除いて、既存の内燃機関をベースにCNを実現する有力手段となり得るものであり、輸送機器メーカーからの期待が高まっている。

 半面、このCN燃料の技術・事業開発は、需要側の輸送機器メーカーのみで実現できるものではない。むしろ石油会社といったエネルギー関連企業などの燃料供給側を含め、需要側と供給側が一体となった形で技術革新や社会実装を進めていく必要がある。そのような民間側での連携と並んで、各国政府による関連制度の整備や、CN実現に向けた政府方針との整合性担保、資金投入など官民をまたいだ連携も重要となってくる。また、異なるCN燃料の間でも、その原料や製造プロセスにおいて、連関性や共通性が存在しており、燃料供給のサプライチェーンをどのように一体的に整備していくか、という観点も必要となる。さらに、各国のCN化方針やエネルギー事情により、どのようなCN燃料が普及するかは国ごとに異なる。

 このように数多くのステークホルダーをグローバルに巻き込みつつ、複雑な燃料供給のサプライチェーンを構築しながら、各輸送機器におけるCNを実現していくために、そのための共通理解として、第三者的な立場から、関連市場や技術に関する全容を整理し、将来に向けたシナリオを整理することには、一定の価値があると考えたことが本書執筆の動機である。


 本書では、技術に対する深い洞察とグローバルな視点からの多様な市場へのネットワークを特長とするグローバル経営戦略コンサルティング会社Arthur D. Little(アーサー・ディ・リトル、ADL)の組織能力をフルに活用することで、各国における前提条件をできる限り多面的に考察し、その違いを踏まえた形でCN燃料の普及シナリオを骨太、かつできる限り詳細に描くことを目指した。そのうえで、CN化や既存の関連産業へのインパクトを評価した上で、これら変化に対する対応策についての提言を加えている。

 全体を5章で構成し、CN燃料にまつわる動向を見渡している。第1章では、「CN燃料を取り巻くマクロ動向」として、各国政府や石油会社のCN燃料に対する期待や動向を整理し、第2章では各主要CN燃料の技術開発や事業化に向けた動向を、第3章では各輸送機器側から見たCN化へのアプローチとその中でのCN燃料への期待を考察している。第4章では、これら現状理解を踏まえCN燃料普及に向けたシナリオとそれに基づく市場予測を紹介したうえで、CN燃料の社会的普及に向けた必要アクションを提言。最後の第5章では、CN燃料普及の鍵を握る各種キーパーソンへのインタビューを掲載した。

 CNを実現していくうえで日本として生かすべき強みや制約条件を踏まえると、CN燃料の普及は、自動車産業のみならず、幅広い日本の関連産業にとって、極めて重要な意味を持つと我々は確信している。特に、内燃機関を1つの差別化要素としてグローバル競争をこれまで勝ち抜いてきた日本の自動車・輸送機器産業にとって、これまで培ってきた同技術の強みを最大限生かすためにも、CN燃料の可能性を今一度徹底的に追求することは、CN実現に向けて避けて通れない道でもあろう。本書がそのための社会的な啓蒙や共通認識の醸成、それを踏まえたCN燃料の技術・事業開発と社会導入を加速させるための一助となれば幸いである。

著者を代表して
アーサー・ディ・リトル・ジャパン
マネージングパートナー
鈴木 裕人


【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示