その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は榎本博明さんの 『何でもないことで心が疲れる人のための本 「隠れ内向」とつきあう心理学』 です。



【プロローグ】

心の疲れはどこから?

 仕事帰りに職場の同僚たちと飲みに行くことがあり、そういう場はけっこう楽しんでいるつもりなのに、何となく疲れる。そんなことはありませんか。

 最近では、在宅勤務が増え、職場の人たちと食事したり飲みに行ったりすることがなくなりストレスが溜まるという人がいる一方で、そうしたつきあいがなくなってむしろホッとしているという人もいます。

 飲み会や懇親会、大勢が集まる社交の場がどうも苦手というのは、よくあることです。初対面の人やよく知らない人が一緒の場では、どんなことを話せばよいのだろう、どんな態度をとるのが無難だろうかなどと迷い、気をつかって疲れるものです。

 でも、職場の同僚とか近所の友だちのような気心の知れた仲間との飲み会なら、本来そこまで気をつかうこともなく楽しめるはずです。それなのに、帰り道、ひとりになると、ぐったり疲れ気味の自分がいる。楽しい時を過ごしていたはずなのに、なぜか疲れている。

 友だちとの旅行。とてもワクワクするし、一緒の部屋に泊まってずっと話せるのは楽しいのだけど、それが何日か続くと、さすがにちょっと疲れてきて、家に帰りつくとホッとする。

 帰り道の電車の中や、深夜寝床に就いたときなどに、昼間の自分の発言を振り返って、「あの人を傷つけたりしなかったかな」「『一緒にいても楽しくない』と思われなかったかな」「呆れられなかったかな」「もっとやさしい言い方をすべきだったな」などと反省したり、後悔し自己嫌悪したり。

 そうしたことがあると、自分は友だちにもそんなに気をつかっているのだろうか、もしかしたら人づきあいに疲れるタイプなのだろうか、といった疑問が湧いてきます。

 同僚と二人で出張に行くことになり、嫌いな相手ではないし、むしろ気心の知れた人物なのだけど、一日中行動を共にしなければならないと思うと気が重い。

 仕事にまだ不慣れな後輩にちょっとしたミスが目立ち、立場上その都度注意しなければならないのだけど、「こんな言い方したら傷つくかな」と言い方に気をつかったり、注意した後も「気分を害してないかな」「落ち込んでないかな」と様子を窺ったりで、ちょっと注意するだけなのに気が休まらない。

 社内の会議とかPTAの集まりとか、みんなで話し合う場では、「何か言わなくては」「会議に貢献しなくては」と思っても、結局何も言わずに終わってしまう。意見がないわけではないし、疑問に思い質問したいことがあったりしても、なかなか発言のタイミングがつかめない。そんな時間が続くため、何も言わないのに気疲れしてしまう。そして、さんざん気をもんだすえに結局何も言わないため、「会議に対して消極的って思われたんじゃないか」「何も考えてないみたいに誤解されちゃったんじゃないか」と自己嫌悪……。

 このような疲れには、「内向的な性向」が絡んでいると思われます。

 「私は、けっしておとなしい人間じゃないし、友だちとも積極的につきあっているし、職場での人づきあいも悪くない。『内向型』ではないはず」

 そう思うかもしれません。

 そんなあなたは 「隠れ内向」である可能性が高いでしょう。実際、一見とても明るく、飲み会などでは場の盛り上げ役として周囲を笑わせている人たちの中に、案外「隠れ内向」がいたりします。

 その場合、周囲の人たちだけでなく、本人自身も、自分が本来は内向型なのだということに気づいていません。

 じつは、日本人にはこのような「隠れ内向」が非常に多いのです。

 内向型には、人のことをまったく気にせずマイペースで、周囲に合わせず、ある意味わがままに我が道を行くといったタイプもいます。でも、同じく内向型であっても、そこまでマイペースになれず、人に対して感じよく振る舞おうと気をつかい、できるだけ周囲に溶け込もうと頑張るタイプもいます。その場合、気をつかうばかりで疲れてしまいます。

 私は、そのようなタイプのことを「隠れ内向」と名づけました。

 内向型の人は、子どもの頃から損をすることが多いものです。どんな相手にも積極的に話しかける外向型の子は、すぐに友だちができるし、先生からも気に入られますが、引っ込み思案な内向型の子は、なかなか友だちができず、先生にもなかなか馴染めません。

 そこで、有能でモチベーションの高い内向型の子は、そんな自分を変えたいと努力し、あたかも外向型であるかのように積極的に周囲とかかわるようになります。それが「隠れ内向」の始まりです。

 でも、外向型・内向型といった性格は遺伝によって決まっている部分が大きいため、どうしても無理があり、疲れてしまうのです。

 人づきあいを避けているわけではなく、積極的につきあっているから内向型ではないと思うのだけど、なぜか小さなことで心が疲れる。そうした傾向があれば、「隠れ内向」とみて間違いないでしょう。

 その場合、自分自身の心の中にある内向的な性質を自覚したうえで、無理をしすぎないように気をつけたり、ストレスを解消するよう心がけたりする必要がありますが、それ以上に大切なことがあります。それは、本来の内向型の強みを知り、それを活かすことです。

 現代社会は、スピードや効率が重視されたり、フットワークの軽さが求められたり、外向型に有利なところがあるため、どうしても内向型の人は気持ちが萎縮しがちです。でも、内向型にはじつに多くの強みがあるのです。

 それを封印したままではあまりにもったいない。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が増え、人づきあいの世界を生きてきた社交的な人たちは、「コロナ鬱」などと言われるように大きなストレスに苦しんでいます。でも、人づきあいに気をつかい疲れてしまう内向型は、在宅勤務でとくにストレスを感じないどころか、気づかいから解放され、課題そのものに集中しやすくなり、普段以上に成果をあげることができたりします。

 コロナ禍で在宅勤務が増え、ジョブ型への移行もみられ、この状況は内向型にとってはチャンス到来とも言えます。ここはじっくり自分自身の性格と向き合い、その強みを活かすようにすべきでしょう。

 そう言われても、内向型にどんな強みがあるんだろうと疑問に思うかもしれません。

 そこで、ちょっとしたことで心が疲れてしまう「隠れ内向」の人のために、まずはよくある悩みの原因と対処法を解き明かしたうえで、自分の本来の強みを知り、それを活かすためのヒントを示すことにしました。

 自分の日頃の様子や気持ちを思い出しながら、以下の各章を読んでみてください。多くの自己発見があるはずです。

2021年9月  榎本 博明


【目次】

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