その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はマギー・アデリン=ポコック(著)、定木大介(訳)、平松正顕(日本語版監修)の『 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のすべて 』です。

【はじめに】

 私にとって、2021年のクリスマスはとても思い出深いものだ。それは娘がサンタクロースからのプレゼントに喜ぶ姿を見たからでも、私自身が素敵なプレゼントをもらったからでもない。むしろあの日は、私や私と志を同じくする世界中の何千人という科学者、技術者、専門家にとって、非常にストレスの多い一日だった。というのも、長年の遅れを経て、野心的な“ウェッブ天文台”がアリアン5ロケットに乗って、ついに地球を旅立ったからだ。開発に10年単位の歳月を費やしたこの宇宙望遠鏡は、打ち上げロケットの中に折りたたまれ、時速3万5400kmを超える速度で上昇していった。打ち上げから約30分後、宇宙望遠鏡はロケットから切り離され、私たちがその日に受け取ったクリスマス・プレゼントにしたように、慎重に“包みを解く”作業を始めた。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、地球を離れたその瞬間から、いつなんどき問題が起きてもおかしくなかった。300を超える工程のどこかで不具合が生じれば、数十億ドルの予算をつぎ込んだこのプロジェクトは水の泡だ。だからこそ、私を含め、この計画に携わった多くの関係者が、それぞれの家で打ち上げの模様を固唾をのんで見守りながら、どうか何事も起きませんようにと祈ったのだ。ウェッブが首尾よく宇宙に放たれたあとも、落ち着かない日々は数週間続いた。自らを展開する複雑な工程を、果たしてウェッブがうまくやってのけられるかどうか、心許なかったからだ。とはいえ、すでに地球から100万km以上も遠ざかってしまったこの人類の叡智の結晶が、所定の位置につき、宇宙に関する新たな知見をもたらしてくれることを願うほか、私たちにできることは何もなかった。

 いくつか小さな不具合はあったものの、2022年1月8日、望遠鏡はようやくすべての部品の展開を完了した。長いこと気をもんだが、じらされた末に渡されるプレゼントとして、これ以上のものはなかなか望めないだろう。そして今、地球からも月からも遠く離れた虚空で、ウェッブが天文学の新時代を切り開こうとしている。

 私がウェッブ望遠鏡のために費やした時間は、プロジェクトの全期間に比べれば相対的に短い。にもかかわらず、私は終始、何か驚くべきことに関わっているという高揚を感じていた。宇宙科学者として、私はいくつもの宇宙計画に携わる機会に恵まれた。この惑星に起こりつつある数々の変化を理解するため、地球を上から見下ろすこともあれば、宇宙における私たちの居場所を見定めるため、大気圏の向こうに目を凝らすこともあった。けれどもウェッブは、その大きさ、観測範囲、潜在能力からして、ことのほか特別なものに感じられた。

 ウェッブは史上最大規模の宇宙望遠鏡であり、プロジェクトに関わった全世界およそ1万人の科学者と技術者は全員、その潜在能力を分かっていた。ウェッブは宇宙に文字通り新しい光明を投げかけ、私たちが何十年も頭を悩ませてきた謎のいくつかを解明する手がかりを与えてくれるかもしれなかった。私たちのチームは、近赤外線分光器(NIRSpec)という装置を担当していた。多くのサブシステムからなるこの複雑で厄介な機械は、近赤外線を解析する。これについてはのちほど詳しく述べよう。

 打ち上げ以来、ウェッブ望遠鏡は息をのむような宇宙の姿を切り取った驚くべき画像を撮影し続けている。太陽系の起源やこの宇宙の成り立ちに関しては、まだまだ分かっていないことが多い。それらの答えを見出す助けとなるように設計され、すでにその潜在能力を如何なく発揮している。では、この史上最大の宇宙望遠鏡は、そもそもいかにして誕生したのだろうか? 可視光線を検出するハッブル宇宙望遠鏡(HST)の成功後、なぜあえて赤外線望遠鏡のウェッブが作られたのだろうか? ウェッブはどのように機能し、その信じられないような画像の数々は宇宙について何を明かしてくれているのだろうか?

 ウェッブはこれまでで最も野心的な宇宙望遠鏡だ。しかしそれは、有史以来、世界中のほとんどすべての文化が関わってきたひとつの旅の延長線上にある。いつの時代も、人々は星々を見つめ、その秘密を解き明かそうとしてきた。最初は、単に目に見えるものを説明するために神話を創造していたが、時を経るうちに、私たちは観察したことに基づいて宇宙を理解したいと思うようになった。その意味で、天文学は人類の進歩とともに歩みを進めてきたと言える。テクノロジーが向上するにつれ、天文学も発達した。そして、宇宙をもっと観察したい、理解したいという欲求が、しばしば、より優れた機器の開発を後押ししてきた。

 そして今、ウェッブが私たちの目には見えない波長で宇宙を観察し、かつてない眺望をもたらしている。たとえば、新しい星々が生まれつつある塵の雲のような、宇宙で最も興味深い場所でありながらこれまで闇に包まれていた領域のいくつかが、明るみに出つつあるのだ。

 ウェッブの本当の素晴らしさは、その驚異的な設計と潜在能力、そして画像という形で地球に送ってくる画期的なデータと科学にある。本書の目的は、それらを詳(つまび)らかにすることだ。設計段階から宇宙空間へと至るウェッブの旅を、計画の一端を担った者としての考察を交えつつ読者と分かち合えることに、私は興奮を禁じ得ない。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は2021年12月25日、アリアンスペース社のアリアン5ロケットで打ち上げられた。(写真:NASA/Chris Gunn)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は2021年12月25日、アリアンスペース社のアリアン5ロケットで打ち上げられた。(写真:NASA/Chris Gunn)
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打ち上げカウントダウン中の管制室。30年を超えるJWST研究開発の集大成ともいうべき瞬間だった。(写真:NASA/Bill Ingalls)
打ち上げカウントダウン中の管制室。30年を超えるJWST研究開発の集大成ともいうべき瞬間だった。(写真:NASA/Bill Ingalls)
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テキサス州に展示されていたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の実物大模型。(写真:NASA/Chris Gunn)
テキサス州に展示されていたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の実物大模型。(写真:NASA/Chris Gunn)
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【目次】

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