その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は有村俊秀さんの『 カーボンプライシングの経済分析 始動するGX-ETSへの視座 』です。
【はじめに】
本書は、筆者が行ってきたカーボンプライシング(CP)の研究を、日本における制度設計に焦点を当ててまとめたものだ。欧州では、気候変動対策として、EU ETSという排出量取引が2005年に導入された。しかし、日本では、国際競争力への影響やカーボンリーケージ等の様々な懸念が示され、導入が進まなかった。
私自身は、環境経済学者として、米国ワシントンDCの環境政策シンクタンクResources for the Futureを訪問していた2006年頃から、CPの研究を本格的に行ってきた。そして、2009年頃からは環境省、2021年からは経済産業省での検討会や審議会に参加し、2026年4月から義務化された日本における排出量取引制度であるGX-ETSの設計に関わってきた。審議会での議論は、私の研究動機にもなり、CPの懸念事項への対処法、制度導入のあり方、効果、影響について研究してきた。本書はそれらをまとめた内容になっている。
CPの基本、日本での政策議論、GX-ETSに関心のある方は、序章、第1章、第5章、第8章を読んでいただけると概観がつかめるだろう。
序章では、CPの入門として必要な知識をまとめている。環境経済学の知識のある人にとっては復習的な内容だ。事前知識を持つ方は飛ばして読むことも可能である。
第1章では、日本のCPがどのように霞が関の官公庁や東京都・埼玉県で議論されてきたか、私個人の経験の視点と自分の研究との関連で紹介している。ちょっとした「日本のCP導入の歴史」になっている。
本書の第2章から第7章は、私が行った様々な研究がベースになっている。経済学的、技術的な内容も多いが、各章とも「はじめに」と「おわりに」を読めば、経済学の定量分析の知識がなくても、その章のエッセンスは理解できるようになっている。
第2章では、東京都および埼玉県の排出量取引制度の効果がどのようなものであったか、国内で炭素リーケージがあったのかを検証している。いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making)の視点での研究である。
第3章および第4章では、日本にCPを導入するとどのような費用負担が発生しうるのか、産業連関分析を用いて分析している。第3章ではどの産業でどの程度の費用負担が発生するのかを、第4章では家計に対する負担を地域別、所得別で検証している。
第5章では、日本経済にCPを導入する場合、どのようなアプローチで炭素リーケージや国際競争力に配慮するのがよいかを議論している。具体的には、国境炭素調整と産出量に基づく排出枠の配分方法(OBA)とを比較している。この章は、経済学の技術的な知識がなくても読みやすい章だ。また、EUの国境炭素調整の分析も紹介している。
第6章と第7章では、CPが持つ経済へのポジティブな部分を分析している。第6章では、CPで得られる収入を用いた経済成長の可能性を探っている。いわゆる炭素税の「二重の配当」が、日本経済において成立しうるかどうかを検証した。日本の政策ではまだ取り入れられていない視点である。第7章では、東京都排出量取引制度がオフィスビルでのイノベーション、省エネルギーの技術普及に与えた影響を考察している。CPは費用面ばかりが強調される傾向にあるが、産業の育成にも貢献している可能性があるのだ。
第8章では、2026年4月から義務化されたGX-ETSの制度概要について、経済学的な考察も踏まえて紹介している。この章も経済学の技術的な知識がなくても読める、多くの方に有用な章になっている。
本書の刊行には、環境経済・政策学会の2024年度出版助成を受けている。多くの章は、学会の大会での研究報告を経てブラッシュアップされたものだ。また、第5章、第7章、第8章は経済産業研究所での研究成果が反映されており、同研究所の出版助成を受けている。
GX-ETSは2026年4月から義務化されたが、5年後にはアップデートが予定され、まだこれから育てていかなければならない制度だ。本書の研究成果が今後の日本のCPの制度設計に活かされ、GX-ETSやカーボンニュートラル政策に関心のある読者の方の参考になることを祈っている。
【目次】




