その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は原田曜平さんの『 「シニア」でくくるな! “壁”は年齢ではなくデジタル 』です。

【はじめに】

2025年は「問題」ではなく「好機」

 「2025年問題」が目前に迫っている。

 「2025年問題」とは、日本で最大のボリュームを誇る「団塊の世代」の人たちが全員75歳以上の後期高齢者になるのが“完了”することによって起こる様々な深刻な問題を指す。社会保障費の負担が増大したり、医療・介護体制の維持が困難になったりするマイナス面が強調され、対策の必要性が叫ばれているのは周知の通りだ。

 だが、2025年問題は実は負の側面だけではない。「消費」という観点から見ると、もう一つのプラスの顔が見えてくる。それは、団塊の世代が加わることで、75歳以上の人口が2180万人になり、国民の5人に1人が含まれる、史上最高、世界最大級の後期高齢者マーケットが誕生するということだ。人口減の日本の中で唯一増え続けてきたボリューム層が、いよいよクライマックスの時を迎える。これを契機に、後期高齢者のみならず、前期高齢者を含めた約3600万人の高齢者市場にスポットライトが当たってもおかしくない。マーケットにとっては紛れもなく“好機”だからだ。

 しかし、世間ではもっぱら「問題」としてマイナス面ばかりが取り沙汰され、誕生する巨大なマーケットに興味や期待を寄せる企業は少ない。企業にマーケティングを指南するマーケターや広告パーソンも関心が薄いと言わざるを得ない。なぜそうなるのか。理由はシンプルだ。高齢者マーケティングは分からないことが多過ぎるからだ。

 まず、今、事業戦略やマーケティングを実際に担っている現役世代は、自分自身が「高齢者」や「前期高齢者」「後期高齢者」になった経験が、当然のことながらない。そのため、実感と経験に基づく、ニーズや行動の想定、仮説の構築、理解、検証などが行いづらい。その点、Z世代など若年層がターゲットであれば、自分たちも過去に同じ年代を経験してきているので、ある程度、推測もできるし、理解しやすい気がする。例えば、若年層の恋愛はツールや環境こそ違えど、考え方や行動は昔も今も変わらない部分も多い。

 だが、ターゲットが高齢者となると話は別だ。特に後期高齢者は、現役世代にとって未知の領域であり、その分扱いづらい。それらの理由もあって、少なくともマーケティングとしてはほぼ手つかずの“空白地帯”となっている。目の前に巨大なマーケットが口を開けて待っている。それなのに攻め手に欠く。ひと言でいえば、実にもったいない、由々しき事態だ。

 分からないなら、理解ができるように調査、分析という工程を踏まえ、攻略法を提示していく。それが、大学で教鞭を執り、マーケティングを専門としている筆者(原田曜平)の使命であると考えている。本書は、2025年問題を前に、そうした思いとプロセスを経てまとめ上げたシニアマーケティング攻略本だ。過去に「さとり世代」などの流行語を生み出し、現在はZ世代など若者研究を生業とし、世代論にも精通する筆者が、初めてシニア世代についてマーケティング的な視点で論じた、唯一無二の内容となっている。

ワクチンの副反応で人生が一変した父

 2025年問題直前というタイミング以外に、筆者にはもう一つ、本書を世に出さなければならないと思った強烈な出来事がある。それは、私の父がきっかけとなっている。読者の中には知っている方がいるかもしれないが、2021年5月、父はある悲劇に見舞われた。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種による副反応が強く出てしまい、集中治療室で一時は命が危ぶまれる状態に陥った。一命は取り留めたが、以降、入退院を繰り返し、以前とは比べものにならないほど、心も体も弱り切ってしまった。

 2024年現在、父は85歳。世代でいうと「戦後焼け跡世代」に属する(世代論を論考した第2章参照)。貧しい家庭に育ったが、豊かになりたくてがんばって早稲田大学に進学し、証券会社に就職したものの、海外での活躍を夢見て、中途入社試験を受けて大手商社に転職。商社マンとして、南アフリカ、オーストラリアに駐在し、筆者が高校生の時にはフィリピンのマニラに赴任。広い邸宅に住み、何人かの使用人も雇う生活を送った。貧乏からはい上がり、ある程度裕福になった、いわば戦後日本のプチ成功モデルの一つといえるかもしれない。商社を定年退職後も、団体などで職を見つけ、60代後半まで働き続けた。

 70代は仕事をしなくなった。スマートフォンは使えなかった。それでもパソコンに興じたり、グルメに舌つづみを打ったりするなど、とにかく消費欲旺盛で、人生を謳歌していた。パソコンを操作できた点でいえば、父は本書でいうところの“デジタル高齢者”だった。デジタルが使えて、元気で、お金も使って、ある意味、優良な消費者でもあったのだ。他方、母はスマホが使えてLINEでのやり取りやYouTubeの視聴を楽しみにしている。その点で、母もデジタル高齢者だ。

激変する高齢者像、その要に「デジタル」

 だが、“あの日”を境に、彼らの楽しい老後が一変した。副反応で奈落の底に突き落とされた。父は、パソコンも使えなくなり、デジタル高齢者ではなくなったのだ。デジタルが使えた時はあんなに人生を謳歌していたのに、それが今では一気に衰弱し、認知症も進んだ。

 そんな父を見て、筆者が注目したのが、「高齢者とデジタルの関係」だった。

 元気だったからデジタルができたのか、逆にデジタルをやっていたから元気だったのか。どちらであるかは定かではない。しかし、そこには深い相関関係があると感じた。考えてみれば、デジタルが使えれば、近くのスーパーでしか買い物ができなかったのが、インターネットによって全国、いや全世界でショッピングが可能になる。消費金額がアップし、消費範囲も一気に広がる。あるいは、母のようにLINEもやれば、YouTubeも見る高齢者になれば、交友範囲や興味の範囲も広がっていく。結果、意欲的になり、行動的になり、元気になる。デジタルは高齢者にとっても無限の可能性を秘めている。

 それは、今までとは違う、新しい高齢者像だ。振り返れば、小学生の時に亡くなった筆者の祖父は元医者で、引退してからはずっとテレビの前にいて、大相撲とジャイアンツ戦を見て、時々居眠りをしていた。夕食後は風呂に入って寝る。ただそれだけの毎日だった。祖父の時代は、それが引退後の大半の高齢者像だったといえるだろう。

 ところが今の高齢者は違う。元気な頃の父はパソコンもやれば、グルメを求めて外出もする。母はLINEやYouTubeを楽しむ。明らかに高齢者のライフスタイルが激変している。その変化の要となっているのがデジタルなのではないか──。元気で消費欲旺盛だった父。元気がなくなり、何もできなくなった父。であれば、「デジタル」というキーワードこそが高齢者マーケティングをひもとく鍵。そう、筆者は仮説を立てたわけである。

 本書では、高齢者とデジタルの関係について、調査結果を基に深く考察した。さらに、その結果から高齢者マーケティング攻略の答えを導き出した。2025年へのカウントダウンが始まった。残された時間はそう多くはない。本格的なマーケティングがいまだ行われていない、未踏の高齢者市場に切り込むのは今をおいてほかにはない。本書が刺激となり、そのきっかけになれば本望である。


【目次】

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