その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はボストン コンサルティング グループ 調達チーム(編)の『 BCG流 調達戦略 経営アジェンダとしての改革手法 』です。

【はじめに】

 売ることよりも、買うことのほうが難しい時代が来ている。

 私たちボストン コンサルティング グループ(BCG)は、数多くのクライアント、特に経営層に対して、重要な経営アジェンダに関わる支援を行ってきた。調達関連では、毎年グローバルで約400件、日本でも30~40件のご支援に取り組んでいるが、近年感じるのが、相談の質が変わってきていることだ。簡単に言うと、課題がより複雑になり、より企業の競争力に直結する、重要なアジェンダになってきている。調達部門のみならず、社長や経営企画部門からの調達に関するご相談も急増している。

 営業、設計、生産部門がバリューチェーンの主役であり、調達部門は決まったものを、なるべく安く買っておけばいい――そのような時代は既に終わっている。調達を取り巻く環境の複雑性は急激に高まっており、それに対応する組織能力は、競争力に直結する。

 インフレ環境下、コストを抑えなければならない。天変地異や疫病のリスクが高まる中、供給の安定性が求められる。コロナ禍で供給にどんな影響があったか、まだ記憶に新しい。地政学リスクは、ますます現実的な論点となっている。サプライヤーの品質問題はあってはならない。加えて環境や人権対応などのサステナブル調達対応まで求められる。以前と比べて、注視すべきKPI(重要業績評価指標)は非常に多岐にわたり、しかもこれらの要素は、トレードオフの関係にあることが多い。

 さまざまな重要要件をすべて満たすサプライヤーは貴重であり、そこからの調達確保は競争である。供給リスクの解決のために、設計変更まで行われることもある。また、不適切なサプライヤーとの取引は、顧客を失うリスクと直結している。調達に関わる選択の1つひとつが、将来の競争力を決定づける重要な一手である。


 そもそも、企業のバリューチェーンにおいて、外に「開かれている」機能は営業と調達だけである。調達部門には外からさまざまな情報が入ってくる。競合は何をどう買おうとしているのか。競合はサプライヤーとどう付き合っているのか。生産性向上や研究開発、原材料における新しいイノベーションの種は、などだ。そう考えると、調達がうまく情報をバリューチェーンにフィードバックすることが競争上重要なのは当然である。また、外注か内製か、買う際に何を重視するか、など、戦略上の検討オプションは多い。したがって、グローバル企業では、調達は非常に戦略的重要性の高い機能とみなされ、Chief Procurement Officer(CPO、最高調達責任者)からCEOへ、というパスも増えてきている。

 翻って日本企業においては、これほどに重要な機能であるにもかかわらず、調達に対する経営者の理解、重要度の認識はまだまだ低い。調達は比較的単純な業務だと勘違いされている側面がある。調達部門側も、なかばあきらめにも似た感覚で、「どうせ経営はわかってくれない」と、目の前の業務に取り組む。しかし、いざ原料供給問題や価格高騰、サプライヤーリスクなどの問題が顕在化した際には、その要因が必ずしも調達部門だけに帰するものではなく、かつ調達だけで解けるわけでもない課題であるにもかかわらず、調達がやり玉にあげられる。もちろん調達部門も、新しい調達の課題に対応するために、これまでのプロセス、組織体制、人材ポートフォリオから、大きく進化する必要があるのだが。


 本書では、まず1章で調達をめぐる困難な状況について、マクロの視点から見ていきたい。2章では、そうした環境下でグローバル企業の調達部門に求められる役割と、その提供価値の進化の方向性について、先進事例を紹介しながら考察していく。3章では、日本企業に視点を移し、今どのような状況に置かれているのか、現場の視点を交えてお伝えする。4章では、調達のあるべき姿について俯瞰的な視点で整理し、あるべき姿を実現するには、どのような段階を経て進めていけばよいか、私たちの考察を述べてゆく。

 なお、本書には日本企業の支援経験から得た知見を数多く盛り込んでいるが、いずれも特定の企業の例ではなく、多くの日本企業に共通の状況や取り組みを抽出した記述であることを申し添えておきたい。

 調達機能の重要度とそれに対する理解度のギャップが、かつてないほど大きくなっている、この状況こそが今、そして今後の、企業における調達機能向上に向けた取り組みの出発点である。本書は、このギャップを明らかにし、調達の重要度をしっかりと理解していただくことを目的としている。そして、理解だけでなく、アクションにつながり、日本企業の調達機能が競争力向上の強力なドライバーへと進化するきっかけになることを願っている。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー
BCGオペレーション・プラクティス 北東アジア地区リーダー
内田康介

【目次】

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