その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は牛窪恵さんの 『Z世代の頭の中(日経プレミアシリーズ)』 です。
【はじめに】
「いまどきの若者は、何を考えているのかよく分からない」
2024年の新語・流行語大賞に輝いた「ふてほど(TBS系ドラマ『不適切にもほどがある!』(24年1~3月放映))」で描かれたように、いつの時代も、「世代間ギャップ」は難解とされるテーマ。真偽は不明ですが、古代エジプトの壁画にも「いまどきの若者は~」と似たニュアンスの嘆きが残されていたらしい、とも言われるようです。
ただし近年は、「昭和世代(おもに1950~70年代半ば生まれ/現50~70代中心)」、「氷河期世代(おもに70~80年代前半生まれ/現40~50代半ば中心)」と、対する「令和世代(95年以降生まれ/現30歳以下)」とのギャップが、より顕在化した実感があります。
なぜそう感じるのか。それは私がここ数年、お請けする講演依頼で、圧倒的に多いテーマが「世代間ギャップ」だから。23、24年は、金融機関をはじめ、幅広い業種の民間企業や、財務省、経団連、商工会議所、地方自治体や警視庁、そして浄土宗のお寺でも、このテーマで講演させていただきました。彼らの多く(おもに50、60代)が、「令和の若者・Z世代(弊社の定義で、おもに現20代)が分からない!」と悲鳴をあげていたのです。
私自身は、「世代・トレンド評論家/マーケティングライター」を名乗り、現在、立教大学大学院(MBA)の客員教授として、「消費者行動論(Consumer Behavior)」の授業で教鞭をとっています。また、紹介される際には「『おひとりさま』や『草食系男子』などの言葉を世に広めた、牛窪さん」や、「テレビ(出演)でよく見る人」と言われることも多いのですが、本業は企業各社との新商品やサービス開発に向けた、マーケティング業務。01年の起業以来、スタッフと共に10~70代まで幅広い世代へのインタビュー(定性調査)やエスノグラフィー(行動観察調査)を、おそらく1万人以上に対して行なってきました。
そんな私から、この場をお借りして皆さんにお詫びがあります。
それは、私が08年、拙著『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社+α新書)を書いた直後から、「若者=草食系」のイメージ、すなわち、いまの若者は覇気がない、消費嫌いで恋愛もしない、といった弱弱しい印象が根付いてしまったこと。
ですがこれまでの経験上、若者の価値観や行動は、時代によって確実に「進化(バージョンアップ)」します。しかも進化の速度は、明らかにスピードアップしている印象です。
今回も、24年夏~冬にかけて、1600人強のZ世代に大規模な定量調査(協力・CCCマーケティング総合研究所)を、また同じく同世代55人に、1対1の個別インタビュー(定性・デプス調査)をそれぞれ実施しましたが、彼らの発言や回答は明らかに、その上の「ゆとり世代(おもに30代前半~半ば)」や、私が「草食系世代(おもに30代後半~40代前半)」と呼ぶ人たちが若者(20代)だったころとは、大きく違っていました。
たとえば今回、インタビュー時にZ世代から聞こえてきたのは、こんな声の数々です。
「もう一度、強い日本を取り戻したい」
「海外から(日本を)“オワコン(終わったコンテンツ)”扱いされたくない」
後ほど詳しくご紹介しますが、Z世代は、幼少期~学生時代に「家族で海外旅行」や「留学が当たり前」といった環境にあったほか、身近な場に留学生や外国人観光客(インバウンド)が増えた世代です。海外の人や国と自分たちを比べることで、日本の食や文化、ものづくり(農業、製造業、伝統工芸ほか)の品質を見直したり、その良さを伝えていきたいと考えたりする傾向が強い、とも言えるでしょう(【ニッポンの未来(第6章)】ほか)。
また、中学・高校時代に「エコ(サステナビリティ)教育」や「ボランティア教育」を受けた人の割合が多く、環境保全も含めたSDGsや社会貢献に繋がる活動が、様々な分野で、彼らのモチベーションを高める様子も見てとれました。【仕事や働き方(第1章)】においても、社会貢献や「誰かのありがとう」が、彼らの就労意欲を少なからず刺激するようです。
ただ、実はZ世代に多いとされる「タイパ(タイムパフォーマンス。時間対効果)」志向が、彼らを早期離職や転職へと向かわせている可能性も見えてきました。
詳しくは125ページ以降をお読みいただきたいのですが、Z世代は幼少期~子ども時代から、スマートフォンやネット動画(YouTubeほか)にふれて育ってきた世代。デジタルネイティブかつ「動画ネイティブ」「スマホネイティブ」とも呼ばれます。いい意味では、アプリのアップデートと同じように、「最初から完璧でなくていい」や「失敗も、次に活かせば意味がある」など、前向きな「アジャイル(agile)」型の志向が強い傾向にある。ですが、PDCA(計画~実行~評価~改善)サイクルを回しながら、素早く開発・進化しようとする側面もあり、そのことが早期離職などにも関係していそうなのです。
ちなみに、Z世代のアップデート志向には、多分に「コロナ禍(一般に、20年2月~22年5月)」の影響もあるようです。
彼らは多感な学生時代、あるいは入社して間もないころ、突然襲った新型コロナウイルスの猛威に対峙(たいじ)することとなり、未曽有(みぞう)の社会変化や苦しい時代の波を乗り越えてきました。
ゆえに私は「Z(ゼット)」の音に似せて、彼らを「越冬(えっとう)」世代と呼ぶことがあります。渡り鳥のように、自分が生きるべき場へと移動する(シフトチェンジ)、あるいは冬眠前の熊のように、その先に待つさらなる冬に備えて、できるだけ「可能性の幅」や「役立つアイテム」を蓄えておきたいとの感覚です。
インタビューでも、「自分をアプデ(アップデート)しないと」や「成長を見える化したい」「進歩がないのは死ぬのと同じ」など、「成長」を欲する発言が相次ぎました。
後述する通り、いつ何が起こるか分からない状況にさらされてきた彼ら。だからこそ、Z世代は一刀流でなく「二刀流、三刀流」で、多方面のスキルや能力を身につけ、人として成長し、未来に向けて可能性の幅を維持または拡大せねば、と考える傾向があります。
その影響で、【恋愛や結婚(第3章)】、あるいは【家族や出産(第4章)】に可能性を制限されたくない、とも考えるよう。「仕事と恋愛はトレードオフ(両立できない)」や「結婚すると将来の(仕事の)手札が減る」「出産や子育ては、エベレスト登山やグレートレースのようなもの」などの発言も象徴的です。こうした発言には、男女の性差が少ないのも印象的でした。
【家族観(第4章)】についていえば、Z世代と「親」との関係も見逃せません。
彼らの親の多くは、私と同じ「真性バブル世代(1965~70年生まれ/現55~60歳)」か、もしくは「団塊ジュニア世代(71~76年生まれ/現49~54歳)」です。
後者は、93年に就職氷河期に当たるなど苦難を強いられた親たちで、別名「貧乏クジ世代」とも呼ばれます。バブル崩壊(91年3月)後の「失われた20、30年」や、労働者派遣法改正(99年)以降の「非正規雇用者」の急増、またそれらによる経済格差の顕在化や、離婚増加(02年に約29万件/厚生労働省調べ)などの荒波にさらされてきた親たちでもある。Z世代には、こうした親たちの苦労を、幼いころから見て育った若者も多いのです。
また、相対的には、私が「親ラブ(ファミラブ)族」と呼ぶ若者、すなわち親と仲がいいケースも多いのですが、だからこそ、後述のように「親とは生きてきた時代が違う」や「反論したくないから黙ってスルー」など、親の過干渉や口出しなどに悩む様子も見られました。
【消費やSNS、友人関係(第5章)】の分野では、発言と行動との「大いなる矛盾」も見てとれました。よく言われる、若者の「クルマ離れ」や「アルコール離れ」は、総じて社会環境やシステムの変化による側面も大きい。Z世代が、必ずしも消費に後ろ向きでない様子は、194ページ以降に詳しく記しました。半面、一般には既述のSDGs志向が高いとされる彼らが、実は環境に悪そうなモノやコトをあえて消費する傾向もある。どうやらその一端は、年々厳しさを増す「コンプライアンス社会」にもありそうなのですが、そうしたZ世代の矛盾や葛藤についても、第5章をお読みいただければと思います。
また、彼らはLINEほかSNSの普及(10、12年以降)によって見えにくくなったとされる、深刻な「いじめ問題」とも向き合ってきました。このことが彼らの多くを、自身と嗜好(志向)が近いコミュニティ、そして「界隈」へと向かわせている側面もあるようです。加えて、いじめでは、教師をはじめとする大人たちに「見て見ぬフリ」をされた若者も少なからずいて、そうした経験が友人関係だけでなく、大人への不信感を招いていた様子も見てとれました。辛いことですが、私たち昭和世代はこうした現実とも向き合うべきでしょう。
経済的にも、Z世代の多くは、先行き不透明な時代に悩み、漠然とした不安を抱えています。シンクタンクのレポートを見ても、現20代の金融資産の保有目的は「老後の生活資金(のため)」が回答の1位(23年)で、その割合は過去10年で3倍近くも急増している、とのこと(24年 三菱総合研究所「経済的不安から『倹約化』する日本の若者たち」[6月17日掲載])。国の年金や社会保障に期待できないなか、彼らは「自分で自分を守らなければ」と必死です。そんなZ世代から見れば、私たち昭和世代が「勝ち逃げ」に見える側面もある。私たちは私たちなりに、少なからず彼らを理解しようと努めているのですが……。
そもそも、私たち人間の脳は面倒くさがりなので、血液型や出身地、世代などを基に、つい「○○は××な人たち」とカテゴライズして「分かった気」になりやすい。それが「自分たちを一緒くたにしないで欲しい」と、Z世代を嫌がらせてもいるようです。
たとえば、今回の定量調査では、「身近な人(家族や友人・恩師・上司など)を除く有名・著名人で、あなたが一番尊敬する人は?」についても聞いてみました。すると驚くことに、回答者1600人強のうち、10人以上が同じ名前を挙げたケースは3例(人)のみ。
1位はダントツで「大谷翔平」選手(51人)でしたが、2位(同率)の「織田信長」と「明石家さんま」さんが11人ずつ、以下はすべて、1桁(9例〈人〉以下)しか集まらず、いかにZ世代の志向が多様化しているか、これだけでもお分かりいただけるでしょう。
もっとも、ご安心ください。Z世代を理解するうえで、一定の指標は存在します。また、興味関心による個人差は大きいものの、彼らは総じて【政治や起業、地元(第2章)】への関心も、決して低くないようです。
この本を手に取ってくださった皆さんは、おそらくZ世代について「分からないままでは終わらせたくない」「もっと彼らを知りたい」と願うからこそ、ここまで読み進めてくださったのだと思います。このあと第1章から順にご紹介する、Z世代一人ひとりのパワーや気力、行動力、あるいは苦悩、葛藤、リアルな人物像に、ぜひふれてみてください。
また、もしあなたがZ世代なら、「こんな考え方もあるのか」や「これほど悩み、もがく同世代もいるんだ」など、同じ世代からの刺激や発見を体感していただければと思います。
若者はやっぱり確実に進化している、そして日本の未来は捨てたものじゃない……、今回のインタビューや定量調査を通じて、そのことを確信しました。どうかこの本が、日本の、あるいはあなた自身の中にある「Z世代へのモヤモヤ」を解く一冊になりますように。
さあ、「Z世代1600人の本音」とニッポンの未来の幕開けです。
令和7年6月 牛窪 恵
【目次】




