その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は伊藤邦雄さんの『 企業価値経営 第3版 』です。
【はしがき】
いまや経営空間は広がり、複雑化した
不連続で予測しがたい環境変化の中で,企業経営はますます複雑化し,難度が高くなっている。決して枕詞ではない「激しい環境変化」に呼応して,いまや企業経営を構成する要件ないし変数も10年前とは比べものにならないくらい多様化し,かつ複雑化している。
そんな中で普遍の中核的テーマがある。それは企業価値を持続的に創造するという使命である。価値創造をできない企業はその存在意義さえも失い,市場からの撤退を余儀なくされてしまう。その意味で価値創造は企業経営の本質的な役割といえる。
筆者はこの四半世紀,ビジネススクールのMBAコースで教鞭をとり,またエグゼクティブ・プログラムで様々な企業の経営者や取締役やマネージャーにプロフェッショナルになるための知力と分析力と判断力と実践知を施してきた。とりわけ2015年から一橋大学CFO教育研究センター長として,時代の先端を走っているメンバーたちとHFLP(Hitotsubashi Financial Leadership Program)で1500人に近いエグゼクティブを送り出してきた。もはや経営は過去の延長で経験則と胆力で乗り切ることは難しく,オフサイトで自らの知の洗い替えを行う時間と機会が必要だ。
一連の企業変革の起点となった「伊藤レポート」
経営の変化には,日本に特徴的なものもあれば,多かれ少なかれ世界共通のものも多い。
日本企業の経営を大きく変えつつあるのが2010年代中頃から本格化したコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革である。
それを象徴する記事がある。「利益の落伍者だった日本企業がやっと8%のリターンを求めることで世界へのキャッチアップを始めた。」ある有名海外誌の2014年9月の記事の見出しである。ここには,日本の隠しようのない歴史への揶揄と,かつてないほどの期待が凝縮されている。ここでいう「リターン」とは自己資本利益率(ROE)のことである。ROEは企業の資本効率性を表す代表的な指標である。
発端となったのは,2014年8月に経済産業省から発表された通称「伊藤レポート」である。1年にわたるプロジェクトで筆者が座長を務めたことから,こう呼ばれている。同レポートは日本企業の様々な「不都合な真実」を直視し,印象論や決めつけ的な議論を極力排して,データやエビデンスに基づいた議論に集中した。
「不都合な真実」の中には,四半世紀にわたって日本の平均株価水準が低迷を続けたことがある。ここまで長期にわたり低迷を続けた国は歴史上無い。この目を覆うばかりの事実を直視することからプロジェクトは始まった。この事実は何をもたらしたか。それは「インベストメント・チェーン」の起点に位置するアセット・オーナーの富の縮小である。アセット・オーナーとは事実上,年金資産の拠出者である国民である。つまり平均株価水準の長期低迷は国民の富を減らし続けたのである。その危機感が伊藤レポートの根底にある。
株価低迷の主因の1つが,日本企業の国際的に見てあまりに低い資本生産性である。当時の日本企業のROEの平均は5%前後だった。欧米との間で埋めがたいほどの格差があった。そのためレポートは少なくともROEを8%以上にすることを提唱した。それ以降,筆者も驚くほど急速に日本企業や経営者の間にROEが広まっていった。
都市伝説
ROEをめぐって我が国には以前から都市伝説があった。ROEの水準は日本と欧米の間で歴然たる差がある。これを見て少なからぬ企業人が何と言っていたか。「米国企業のROEが高いのは財務レバレッジを効かせているためだ」と。しかし事実はそうではなく,ROEの構成要素であるレバレッジに彼我の差はない。総資本回転率もほぼ同水準である。ROEの差をもたらしていたのは,売上高利益率(ROS)だったのである。このことを重視した政府は成長戦略に「稼ぐ力」の向上を盛り込んだ。つまり,稼ぐ力の差がROEの彼我の大きな差に現れているのに,長い間その不都合な真実を看過し,レバレッジの違いに事寄せてきたのである。思い込みや印象論に基づいた議論が,いかにわれわれの目を曇らせ,現状肯定的な雰囲気を醸成したことか。真摯に反省すべきとの認識を伊藤レポートは示した。
同レポートは想定を超えて国内外からの反響を巻き起こした。レポートの海外版はIto Reviewと名付けられた。上記の記事もその1つだが,海外からは「日本で革命が起こっているのではないか」「日本のDNAが変わりつつある」との驚きや称賛の声が多数寄せられた。それまで,講演をしても海外の方たちからほとんど興味を示されず,参加者も少なかったのが,急激に海外の聴講者が増え,そして講演に聞き入っている姿が筆者に強烈な印象を与えた。「別世界」!
伊藤レポートは投資家との対話の必要性を強調した。それまで,日本では企業と投資家の関係を対立的に捉える強い傾向があったが,発想を変えて企業と投資家の関係は「協創」であり,共に企業価値を創造していく関係にあることを説いた。そのためにも「対話」(そしてエンゲージメント)が必要であると。
最低限ROE8%という提言は,本来であれば,各企業の資本コストを上回るROEを上げるという表現を取るべきである。なぜなら各企業の資本コストの水準は異なるからだ。とはいえ,当時の日本企業のあまりに低いROEに警鐘を鳴らし,資本生産性の上昇によって年金資産の富の縮小を回復するには,メッセージ性が必要だった。エビデンスを重視したプロジェクトでは,海外の投資家に日本企業に投資する際に想定する資本コストの水準を質問したところ,平均で7.2%だった。つまり平均像で言えば,7.2%以上のROEが求められた。しかし,それでは企業価値という点で,価値創造につながらない。そのためそれを少し上回る水準の「8%」とする判断を座長としてくだした。
そして伊藤レポートから10年を経過した今日,日本企業のROEは10%近くに達した。何がROEの水準を押し上げたかは本書の解説をお読みいただきたい。
ガバナンス改革で経営に必須となった財務・会計リテラシー
重要なことは,伊藤レポートで「資本コスト」を重視したことである。資本コストは企業経営に必須の概念である。にもかかわらず,日本企業には不思議なほど根付いていなかった。
伊藤レポートでは資本生産性の向上や投資家との対話に加えて,取締役会の活性化を含むコーポレート・ガバナンス改革の必要性とそれをコード化する必要性を訴えた。レポートの公表から約1年後,「コーポレートガバナンス・コード」が金融庁並びに東京証券取引所から公表されたことで,コーポレート・ガバナンス改革が本格化した。同コードは「Comply or Explain」を基本としたソフトローであるが,そのインパクトは大きかった。これにより,コーポレートガバナンス・コードは,会社法や企業会計基準と並ぶ,経営には欠くことのできない規範となった。さらに東京証券取引所は2023年3月から,プライム市場及びスタンダード市場の全上場企業を対象に,「資本コストや株価を意識した経営」の推進を要請した。
2017年にコーポレートガバナンス・コードが改訂され,初めて「資本コスト」が明示的に取り入れられ,事業ポートフォリオの組み換えや政策保有株式の見直しに利用することが求められた。
これらの動向は何を意味するのか。それは,財務・会計の知識が企業経営の必須のリテラシーとなったことを物語っているのである。財務・会計の知識がなければ,企業価値創造のための「共通言語」を持ち合わせていないのと同じである。
もはや企業価値評価は非財務・ESG情報を無視できない
経営の大原則である企業価値創造という点で,地殻変動が起こっていることに留意すべきである。それは,企業価値の決定因子が有形資産から無形資産へと転換していることだ。無形資産はそのほとんどが非財務情報であリ,厄介なことに財務情報を主として開示してきた伝統的なバランスシートには,無形資産のほとんどが表示されず,オフバランスとなっていることである。
このため,企業価値を評価し,分析し,創造していくためには,無形資産や非財務情報にも目配りする必要が生じている。会計学やファイナンスのテキストは,伝統的にこうした大変化に十分に対応することが困難だった。本書は,こうした環境変化に向きあい,財務・会計情報を基本とした企業分析を詳述するだけでなく,非財務情報に目配りした企業価値分析に射程を広げて解説することに努めた。
本書が非財務情報にも目配りする理由は他にもある。
企業価値を評価する側である機関投資家の間で,「持続可能性」(サステナビリティ)という観点から,近年,ESG(環境:Environment,社会:Society,ガバナンス:Governance)に着目した新たな投資スタイルが台頭してきている。中長期の投資家は保有期間が長いだけにリスクが顕在化する確率も高い。投資期間中に,社会環境や自然環境が変化する可能性が高いため,そうした環境変化に投資先企業が対応し,持続可能かいなか,ビジネスリスクが仮に顕在化しても再生できるだけのレジリエンスを持っているのかに鋭い関心をもつ。
こうしたESGをめぐる動きは近年,企業経営にも世界的に広がってきている。ESGに真剣に向き合わなければ,投資家のみならず様々なステークホルダーからの信認を失い,企業の持続可能性が危うくなってしまう時代に入っているからだ。
このため企業側もESGに関する有用な非財務情報をいかに開示するかが問われている。この数年,様々な団体がサステナビリティやESG情報の開示枠組みを提唱しており,百家争鳴の様相を呈していると言っても過言ではない。企業側からすれば,どの開示枠組みを使って,いかに有用な情報開示するのかという課題に直面している。企業のESGを評価する評価機関もどんどん増えている。その多くは,開示情報をもとにレーティングを行っており,そうしたレーティングを投資意思決定に組み込む機関投資家も増えつつあるため,ESGに関する情報をいかに開示するかは企業経営上,非常に重要なテーマとなっている。
2022年には「伊藤レポート3.0」が経済産業省から公表された。サブタイトルが「SX版伊藤レポート」とされているように,まさに企業のサステナビリティと社会のサステナビリティを同期する「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の必要性を訴えている。
第2次トランプ政権が発足したが,トランプ大統領はESGに対して批判的になっているといわれる。しかし,ESGは不可逆的な大きな潮流である。なぜなら世界のインフラや様々な制度や仕組みが,もはやESGの上に構かれてきているからだ。
本書では,こうした非財務情報やESG情報をいかに企業価値評価に組み込むかについて,最新の動きや情報を紹介しながら,解説している。
気候変動問題と資本主義の見直し―サステナビリティと向き合う―
こうしたESGやサステナビリティをめぐる動きを加速する,さらに深部での変化があることを忘れてはならない。それは,資本主義を見直す動きである。ミルトン・フリードマンがかつて唱え,そして資本主義のエンジンとなった,利益を最大化することが社会的責任であるとの見方の妥当性が問われ始めているのである。日本は伊藤レポートでの分析や提言にあるようにそうではなかったが,欧米は株主第一主義に走りすぎたとの反省から,この2〜3年で「ステークホルダー資本主義」が叫ばれ,台頭してきている。
こうした動きを加速しているのが,ESGのEの中でも最も深刻なテーマである気候変動問題である。気候変動に起因すると見られる自然災害が世界中で起こっており,このテーマはいわば世界の最重要課題でもある。これは「コモンズの悲劇」(共有財産を蝕む悲劇)ともいわれ,企業が自らの利益を追求し,それがもたらす負の影響に目を向けなかったこと(外部不経済)の累積でもある。
気候変動問題に向き合い,外部不経済を緩和するには,企業側も投資家・金融機関も「共通言語」をもつ必要がある。つまり,「共通言語」となる情報開示を活用して双方が,企業が排出する二酸化炭素の実態を把握し,投資・融資行動や企業活動の是正につなげることが求められている。そうした情報開示の枠組みとして現在世界的に共有されているのが,TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が提唱している情報開示の枠組である。筆者はTCFDを普及させるための団体である,「TCFDコンソーシアム」の会長を務めているが,2023年3月22日現在で753の機関・企業が加盟して,行動をともにしている。本書でも,TCFDについて解説を加えている。
企業価値創造のための知的装備
本書の目的は経営の普遍的テーマである「企業価値」に向き合い,企業価値をどういう情報を用いてどのように評価するのか,そしてそうした評価を経営戦略の策定にどのように反映し,企業価値をどのように創造していくのか解説することである。
とかく企業価値を高めるには「○○すべき」だという「べき論」が横行しているが,その前にまずいかに有用な情報を活用し,適切なプロセスを駆使して企業価値を評価するかが重要である。その点で,企業価値評価(バリュエーション)という領域での必要な知識を欠くと,企業の競争力にはかり知れない格差を生じかねない。まさに「デジタル・デバイド」ならぬ,「バリュエーション・デバイド」である。本書はそうした「バリュエーション・デバイド」を回避し,持続的な企業価値創造を実現するために準備しておくべき知的装備と戦略的道しるべを示したものである。
とはいえ,冒頭に述べたように,最近の経営環境の激変で企業経営の難度は格段に上がっている。財務・会計情報を利用した企業価値の分析・評価はコーポレート・ガバナンス改革の進展とともにますます重要となっているが,さらに無形資産やESGや非財務情報の重要性がかつてないほどに高まっていることから,そうしたテーマにも射程を広げて企業価値と向き合うことが重要となっている。
本書ではそうした目的を果たすために,最新のデータ・情報をもとに,最先端の動向を視野に入れて説明している。その意味で,企業経営の最新分野をほぼ全てカバーした経営書となることを企図したものである。
本書の特徴
本書の特徴は,企業価値に関わるさまざまな学問領域での知見をできる限り集約的に盛り込んでいることである。企業価値というテーマは縦割りの単一の学問的知識だけで解析を試みるには,余りにも豊かで多面的である。まさに「総合格闘技」といわれる所以である。具体的には,本書では「会計(Accounting)」「財務(Finance)」「経営戦略(Management)」の3つの視点から複眼的かつ総合的にアプローチしている(図1)。
とはいえ,企業価値に真に迫るには,経営が複雑化・高度化していることに鑑みれば,財務・会計情報だけでなく,無形資産・非財務情報・ESG情報をも視野に入れた解析が必要となる。本書は,従来の分析枠組みを超え,最新のデータや環境変化や制度の改訂を視野に入れながら,トライアングルの枠組みを格段に拡充することに努めた。
こうした統合的アプローチに基づいて,企業価値を「創造する」ための実践的フレームワークを提示していることも本書の特徴である。
第1ステップでは,理論的に計量された企業価値と株式市場で評価された株式時価総額とを比較し,両者のギャップの原因を探り,それを解消するための課題を抽出する(ギャップ分析)。次に,そうした原因分析に基づいて企業が目指すべき価値目標や業務目標を設定する(戦略目標の設定)。第3ステップでは,企業価値を創造するためのシナリオに基づいて戦略を策定し,実践する(経営戦略の策定・実践)。そして第4ステップでは,戦略の進捗度に応じて理論価値を算出し,どれだけの価値が創出されたのかを把握する(戦略進捗に基づく理論価値の算出)。このサイクルを回すことが企業価値経営に他ならない(図2)。
分析編・評価編・創造編でストーリーを紡ぐ
もう1つの特徴は,本書の構成にある。本書は上記の特徴を活かしながら,企業価値の基本から応用,そして実践まで理解していただけるよう3部構成としている。第Ⅰ部が「分析編」,第Ⅱ部が「評価編」,第Ⅲ部が「創造編」である。
第Ⅰ部では,企業の財務諸表をはじめとする会計数値やその他のデータを駆使しながら,企業の競争力や企業行動の特徴を解析することに主眼を置いている。こうした分析は一般にファンダメンタル分析と呼ばれている。大事なことは,企業の多面的でダイナミックな活動をいかに豊かに解析するかである。平板な数値や比率の分析では,企業の特性を浮き彫りにすることはできない。そのためには経営戦略や会計戦略の解明も必要となる。
こうしたファンダメンタル分析を踏まえ,ファイナンスの理論とツールを活用して企業価値の算定へと議論を展開しているのが第Ⅱ部である。企業価値を測定する手法はいろいろある。しかし一見,難解にみえるそれらの手法もその本質部分の考え方は驚くほど単純である。こうした評価モデルの背後にある考え方や本質部分を理解していただくのが第Ⅱ部の狙いである。
第Ⅱ部では,コーポレートガバナンス・コードの改訂でも明示的にうたわれた資本コスト概念を本格的に取り入れ,企業価値を創造しているのか,それとも毀損しているのかを概念的・定量的に,そして実例を用いて詳述している。これまで述べてきたように,財務・会計情報だけでは企業価値評価は十分ではない時代に入った。投資家は,いまや無形資産・非財務情報・ESG情報を企業価値評価に取り入れつつある。こうした新たな企業価値評価手法は現在も進化しつつある。本書では,現段階での最前線の情報や環境変化を紹介しながら,新たな企業価値評価に迫っている。
第Ⅲ部は,分析編・評価編を踏まえたうえで,これらの理論と実践を統合し,企業価値をいかに創造していくかに焦点を当てている。この部では,ある出来事に直面した企業の経営チームが,現実の企業価値創造経営における課題を本書のフレームワークを使ってどのようなプロセスで解決していったかを1つの経営ストーリーとして描いている。理論がチームワークを伴ってどのように実践されていくのか,その醍醐味を味わっていただきたい(図3)。
本書の読み方と体験価値の向上
2014年の伊藤レポート以来,筆者は解説的な書物を出版することに抑制的であった。なぜなら,伊藤レポート自体が,それなりに読み応えがあり,また必要にして十分な解説を加えているからである。そんな中で,さらに解説的な書物を公刊することは屋上屋を重ねることになり,社会的意義を感じなかったからである。とはいえ,経営者や企業人の皆さんから,経営の難度が高まり,経営の「空間」が従来とは比較にならないほど広がっていることに伴う,「悲鳴」や戸惑いや要望をいただいてきた。早く書物を出してほしいとの多くの声をいただいた。それらが筆者の背中を押し,本書の公刊に至った。
本書は厚い。忙しい皆さんにお読みいただくのには申し訳ない気持ちがある。とはいえ,本書のボリュームは,経営が複雑化し難度も高くなっていることへの筆者のメッセージと受け止めていただければ幸いである。企業経営は「なまモノ」であり,インスタントに習得できるほど容易なものではない。経営も企業価値も奥が深いのである。読者の体験価値を高めるには,それなりの紙幅が必要である。
とはいえ,読者のみなさんにとって,本書の読み込みに使える時間の余裕度も,またニーズも異なるかもしれない。もちろん,第Ⅰ部⇒第Ⅱ部⇒第Ⅲ部と読み進んでいただけることを期待して執筆してはいるものの,企業価値をテーマにした本書が現実世界でどれだけ有用か(切れ味)をまずは知っていただいてから,読み進んでいただくのも,一法かもしれない。
そうしたニーズをお持ちの読者の方は,まずは第Ⅲ部で展開される現実を模したドキュメンタリー風のストーリーに目を通していただき,企業価値をめぐる変革劇の醍醐味を味わっていただきたい。その後に,第Ⅰ部,そして第Ⅱ部へと移っていただいて,概念や分析や測定の細部へと入っていただくのもよいかもしれない。
本書の改訂にあたって
本書は2021年に初版が刊行された。その後2年が経過した時点で第2版を公刊した。さらにそれから2年が過ぎ,企業価値経営をめぐるテーマは続々と新たなものが登場したり,制度やガイダンスもアップデートされたため,この度第3版を刊行することとした。
先に述べたように,財務に加えて,「非財務」に関する情報分野がさらに拡大した。「非財務」を「将来財務」と読み替えるべきだとの論調も高まっている。それに関連して,サステナビリティ(持続可能性)をめぐるテーマが深化し,企業経営におけるそのトランスフォーメーション(SX)の重要性が格段に上昇した。
さらに今日,企業価値の主要な決定因子となった無形資産の中核に位置する「人的資本」の重要性が世界的に認識されるようになり,かつその情報開示に投資家をはじめとするステークホルダーが並々ならぬ関心を持つに至っている。本書の改訂に当たっては,そうした最新の動きを反映し,できる限りのアップデートを図ったつもりである。
本書の改訂に当たっては,初版・第2版と同様に日経BP日本経済新聞出版の平井修一氏に大変お世話になった。深く感謝申し上げたい。
2025年7月
伊藤 邦雄
【目次】









