その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は滝田洋一さんの『 古典に学ぶ現代世界(日経プレミアシリーズ) 』です。
【はじめに】
読んだつもりの古典。積ん読の名著。中身をすっかり忘れた既読書──。混迷を深める今こそ、そんな書物をひもとく機会である。
人生五十年ではないが、半世紀以上にわたって読み継がれている本をひとまず古典と呼ぶことにしよう。それらの本も、世に出た際には時々の課題に向き合っていたはずである。私たちが初めて経験すると思っている出来事も、古典の中では今日に通じる話題として描かれている。指針なき現代の海図を、古典の森に探ってみたい。
そのためにはまず古典を手に取る必要がある。でも何かと多忙な我が身にはとても億劫である。そんな筆者に毎月の宿題が回ってきた。2022年8月に始まった日経BOOKプラス連載「古典に学ぶ現代世界」である。
取り上げた本はジャンル別に、とりあえず6章に分けてみた。現代と過去の対話よろしく時事問題にも触れているので、作者・作品ごとに掲載時(年月)を記した。
「Ⅰ 描かれていた未来」は、作家たちの作品世界が、今日の課題を見通していたことを示した。登場するのは、オーウェル(22年8月)、チャペック(23年3月)、有吉佐和子(23年9月)、ラ・ロシュフコー(24年9月)、三島由紀夫(25年4月)。
「Ⅱ 戦争とポピュリズム」。戦争と平和を論じたのはクラウゼヴィッツ(24年11月)、中江兆民(22年9月)、高坂正堯(24年6月)、そしてアインシュタイン(24年8月)である。ポピュリズム(大衆迎合主義)については、トクヴィル(24年10月)、ル・ボン(24年7月)、オルテガ(24年12月)、カール・ポパー(24年1月)と共に考えたい。
「Ⅲ 日本社会への眼差し」には、福沢諭吉(25年1月)、中根千枝(22年9月)、ベネディクト(23年10月)、バード(23年11月)、岡潔(25年2月)、寺田寅彦(23年8月)。3人の女性たちはしなやかな視点を提供する。
「Ⅳ 政治家が挑んだ課題」に登場する勝海舟(23年12月)、山県有朋(22年12月)、高橋是清(23年2月)、石橋湛山(23年1月)、田中角栄(25年3月)は何とも言えぬ存在感を漂わせている。
「Ⅴ ビジネスを切り拓く」に登場する経済人たち、カーネギー(23年4月)、渋沢栄一(24年2月)、小林一三(24年3月)、ルワンダ中央銀行総裁を務めた服部正也(24年4月)には人生の年輪が刻まれている。
「Ⅵ 経済学の巨人の教え」に出てくるスミス(23年5月)、ケインズ(23年6月、23年7月)、シュンペーター(22年11月)、フリードマン(24年5月)、ガルブレイス(25年5月)は、優れた翻訳家に多くを負っている。なかでもすらすらと読める翻訳に心血を注いだ山岡洋一。その逝去は悔やまれる。
各ストーリーには若干の加筆修正を施し、文末に小さなコラムを追加した。箸休めのようなものだが、このコラムだけを読んでいただくのも一興かもしれない。そして本書を読みながらつい転寝(うたたね)してしまう。そんな方こそが、筆者にとって最も心を許せる読者である。文中敬称略とさせていただいた。
2025年6月
著者記す
【目次】




