その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤本秀文さんの『 利権争奪 JALとANA 迷走の40年 』です。

【はじめに】

規制や権益が絡む

 2026年は日本で航空事業が自由化されてちょうど40年になる。路線開設や運賃の設定など、航空各社が独自に決定できるようになり、国の管理から企業の自由な発想で事業を展開できるようになった。日本航空(JAL)も同じ時期に完全民営化された。
 この40年の間にJALの破綻と再生、スカイマークなど新規エアラインの誕生、羽田空港の再拡張、新型コロナウイルスの蔓延による航空需要の「蒸発」など様々な出来事があった。それぞれ危機を乗り切り、大手であるANAホールディングス(HD)、JALグループの両社はこの数年は過去最高を更新する収益をあげている。
 華やかなイメージがある航空業界だが、性能やデザインなど商品やサービスが企業の優劣を決める自動車や電機メーカーなどと違い、社会インフラでもある航空事業は国の規制や権益が絡み、企業の商品・サービス力だけで事業を伸ばせる単純なビジネスではない。
 公共性も帯びるため、通信や電力業界と同様、行政のほか、時として政治の介入にもさらされる。
 羽田空港や成田空港は国の税金からなる公共財で、しかも容量に制限があるため、航空会社が自由に使えるわけではない。国際線はさらに相手国との乗り入れ交渉もある。
 戦後、敗戦国でもあった日本は欧米などから遅れて航空事業が立ち上がっており、海外大手の攻勢から保護するためにJALは半官半民の特殊法人である「国営会社」として設立された。さらにJALは国際線、ANAは国内線にすみ分ける、いわゆる「市場分割」でそれぞれの企業の育成を目指した。
 自由化とは、羽田・成田空港の発着枠や、国際線は成田空港、国内線は羽田空港といった国の規制や権限を解き、JALやANAそれぞれがもつ国際線・国内線の権益を他の航空会社が争奪していく過程だ。いわば、限られた滑走路や路線を巡る陣地の奪い合いの歴史だ。
 時には国が空港の所有権や「ドル箱」である羽田空港の発着枠の裁量を盾に「省益」の維持に走ることもあった。地元選出の国会議員の声を受けて、採算の上がらない地方路線の就航を余儀なくされたケースもあった。

自由な事業展開に遅れ

 こうした様々な権益が入り交じり、制約があるなかで、生き残りをかけてあの手この手で事業を拡大していった航空会社がある一方、JALやスカイマークのように途中、破綻するケースもあった。
 日本国内で権益を巡る争奪戦に明け暮れていた間に、海外では大手同士の合従連衡や新興の格安航空会社(LCC)が伸長するなど、競争は新たなステージに入った。特に韓国やシンガポールなどはアジアのハブ空港の地位を確立するために国が空港の新設や拡張を進めた。成田空港を手本にして建設された韓国・仁川空港は今では羽田・成田両空港を足した人数より利用客が多い。
 こうした巨大化した空港と、燃費がよく航続距離が延びた新型機の登場で、世界を結ぶ航空ネットワークも塗り替えられた。世界で最も多い100機を超えるジャンボジェット機を保有し、2拠点間をジャンボで大量輸送することで旅客・貨物の輸送実績で5年間トップに君臨したJALは、ビジネスモデルの変化についていけず2000年代中盤に入ると失速した。
 「羽田は国内線、成田は国際線」といった内際分離の原則に象徴される、国による様々な“縛り”が長年続いたことも日本のエアラインの自由な事業展開を遅らせる制約要因となった。

かすむ「日本の空」

 自由化は何も航空業界だけに始まった話ではない。国営だった国鉄や日本電信電話の分割・民営化も同じ時期に実施された。
 JRやNTTの誕生とそれに伴う新規参入でサービスは改善、料金やサービスなど多様なメニューが生まれ、顧客の選択肢も増えた。
 航空業界も競争激化で国内の地方路線が充実し、新幹線との対抗もあって長く航空運賃も据え置かれた。国際線も羽田からの発着便が増え、LCCは成田を拠点に多くのインバウンド客を受け入れている。
 ただ、大手2社は好調な業績をあげているが、スカイマークなど地方路線を中心とする中堅4社は国の支援がないと実質的な赤字に転落、厳しい局面を迎えている。
 現在、国が仲介する形で協調減便や航空各社による路線のすみ分けなどが検討されているが、適者生存を旨とする自由化の目的に照らし合わせると、こうした「協調・共存」を目指す動きが適切なのか、疑問は残る。
 海外ではライアンエアーやエアアジアなど、LCCが大手の間隙を突く形で台頭し、米サウスウエスト航空などは大手と肩を並べる存在にまでになった。日本ではピーチ・アビエーションなどがようやく独り立ちできてきたが、ANAの傘下だ。独立系の「第3極」としての存在とはなっていない。

 「権益・省益争い」に終始してきたこの40年間で日本の空はアジアのなかでかすんでしまった。今後、どう挽回していくのか。過去の歴史から反省や課題をどう捉えて、今後の「日本の空の復権」に生かしていくか。この書がその一助になれば幸いだ。

 なお、本書においては原則、敬称は略した。

【目次】

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