その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は米澤穂信さんの『 談話室米澤 』です。

【はじめに】

 私はふだん小説を書くことをなりわいとしていて、私を著者として刊行される書籍のほとんどは小説である。なので本書の冒頭において、一つだけ申し上げておかなくてはならない。
 本書は随筆集である。
 つまり小説ではない。
 こう書くことで、もしかしたら十人ぐらい、本書を手に取ってくださる方を減らしてしまうのかもしれない。さらにもしかしたら、その十人の中には一人ぐらい、小説のつもりで手に取ったにもかかわらず本書を存外気に入ってくださる方がいたのかもしれない。しかしたとえそうであっても、むろん、誤って手に取って頂くことを期待はできない。
 あるいは、そうかこれは米澤の随筆なのか、それは読んでみようかと思う方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。そうであってほしい。
 これでまえがきに書くべきことはおよそ済んだのだけれど、せっかくの紙幅なので、もう少しだけ書かせて頂く。
 本書収録の随筆を書くに至った経緯は様々だ。テーマをご指定頂いた場合も、そうでない場合もあった。誰からも依頼されていないのに書いた文章も、いくらか入っている。
 そのすべてに共通することだが、私は書いていて楽しかった。知らないことを知り、気づいたことを裏づけ、それを文章にしていくことが面白かった。ふだん私は自分について書くことを好まないが、問われて自らのことを書くのも、年に一度ぐらいならばそう悪くないと思った。浅学を顧みずまわらぬ筆でもって、この世にはこういうことがあるのかも、あったのかと書いていくことは、小説を書くのとは違う喜びを私に与えてくれた。
 読者諸氏にも楽しんで頂けることを願っている。

令和八年五月 談話室にて
米澤穂信

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示